第3話
翌朝、俺は早くもルシアナ様に連れられて、彼女の管理する領地へと向かっていた。広大な土地を通り抜け、落ち着いた美しい街が見えてきた。
王女が管理する領地にしては、それほど派手ではないが、歴史を感じさせる重厚感のある建物だ。
ここが、ルシアナ様の領地、か。
ゲームで何度か見たことのある場所だ。
……ただ、何だか景色がゲームとは違う。恐らく、ゲームとは少し時代が違うんだろうな。
やがて見えてきた馬車から降りると、俺は屋敷の全体を見渡した。
庭は手入れが行き届いており、使用人たちが忙しそうに働いているのが見える。
派手さよりも堅実さを感じる。そんな場所だった。
ルシアナ様の後を追うようについていき、屋敷へと入ろうとすると扉が開いた。
エントランスには数名のメイドが待っていて、ルシアナ様に深く頭を下げている。
……その先頭。ゲーム本編でも出ていたエルフのメイドが、一歩前に出てきてルシアナ様に頭を下げる。
あのメイド……あの脚は、エレナか。細身ではあるのだが、引き締まった良い脚をしている。
「ルシアナ様。お久しぶりです。今回の旅は、問題ありませんでしたか?」
「ああ、問題なかった。こちらの男は手紙で伝えた通り、新しく雇う予定の使用人だ」
……何が問題なかったのだろう? ルシアナ様との約束もあるので、俺は何も口にはせず、丁寧に頭を下げた。
「……ロンド、と申します。これから、よろしくお願いいたします」
「私はエレナと言います。よろしくお願いいたします」
エレナがそう言って微笑を浮かべると、ルシアナ様はすぐに歩き出す。
「ロンド。ひとまずエレナに屋敷内の案内と仕事について教えてもらうといい。私は、執務室に向かう」
「……分かりました」
ルシアナ様は毅然とそれだけの指示を出し、歩いていった。
彼女の後を目で追っていると、エレナが俺の前へとやってくる。
「それではロンドさん。まずは屋敷をご案内いたします」
「分かりました」
エレナに促され、俺は屋敷の中を歩いていく。
豪華なインテリアが整った広い廊下ではあるが、無駄な品はあまりないように思う。
ゲーム本編での、他の貴族の家なんて良く分からない銅像とかが並びまくっていた。
……まあ、ルシアナ様は無駄金を使わうような人じゃないからな。
昨日男娼を訪れたのは、本当に付き合いとかが関係しているんだろう。
しばらくエレナとともに屋敷内を歩き、軽く自己紹介をしていく。
「――こちらが食堂になり、そしてあちらがルシアナ様の執務室です。ルシアナ様から聞いていますが、あなたはルシアナ様の専属の使用人になるそうなので主にルシアナ様と同行し、何か指示があれば仕事を行っていくという形になります」
「……分かりました。具体的にどのような仕事をすることになりますかね?」
ゲーム本編でもこんな仕事をやったことはないので、何をすればいいのかは疑問だった。
俺の問いかけに、エレナは考えるように顎へと手をやる。
「私も何度か行ったことはありますが、基本的には飲み物や食事の提供、あるいはちょっとした話し相手を務めたり、書類の整理や、彼女の指示に従いながら補佐をしたり……まあ、雑用係みたいなものでしょうか。今から、少し見てみましょうか」
エレナがそう言って、執務室へと俺を案内してくれる。
ドアを開けると、そこには既に仕事に取りかかっている彼女の姿があった。
部屋には一人のメイドがいる。おっとりとした雰囲気の包容力のありそうな女性だ。むちむちの太ももは、たくさんの男性プレイヤーを虜にしてきたサキュバス族のキャリンというキャラクターだったな。
メイン級のキャラクターではないので、彼女の細かい性格などは知らないが、良い脚だな。
……今日は、恐らく彼女がルシアナ様の専属として仕事を務めているのだろう。
執務室には膨大な書類が山積みされていて、ルシアナ様がその書類に目を通し、ペンを走らせたり、時には人を呼びつけ、指示を出している。
書類を片づけたり、あるいは人を呼びに行くときなどは、使用人が代わりに行っている。
……まあ、本当にルシアナ様の仕事の手伝いをする感じだろう。
彼女の表情は冷静で、凛々しい。
昨夜のばぶばぶ言っていたルシアナ様と比較すると……まるで別人だ。
領地の管理は一筋縄ではいかないようで、土地の収穫量や税収、住民の生活状況についてなど、色々な情報が飛び交っている。
部下たちが彼女の指示を仰ぎ、忙しく動き回っているのが見て取れた。
指示を出すルシアナ様の声は厳格で、部下たちは誰一人として文句を言うことなく、的確に動いていく。
「……だいたいはこのような形になります」
「……なるほど、分かりました」
「また、ルシアナ様の部屋に滞在する以上、万が一の場合はその身をもってルシアナ様をお守りする役目もあります。ですので、レベル上げなども業務の一つになります。今現在は三名でルシアナ様のお世話係を務めていますが、一名が退職するので……これからは、私とあなた、そして今現在勤めているキャリンの三人で行っていきます。業務のない日も、鍛錬を怠らぬようご注意ください」
鍛錬、レベル上げと聞いて……俺は少しテンションが上がってくる。
あまり、自由に動き回ることはできないと思うが、それはつまり俺もこの世界でゲームのプレイヤーのように冒険を楽しめるというわけだ。
それは、テンションが否が応でも上がってくる。
この世界に転生してから色々あったが、ここから俺の異世界転生生活が本当の意味で始まりそうだ。
「何か、不明な点はありますか?」
「……ひとまずは、大丈夫です」
「承知しました。それでは、ロンドさんの部屋にご案内しますね」
エレナがにこりと微笑み、それから俺は自分の部屋へと向かった。
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