星屑のようなウサギの恋

藤川みはな

第1話 この恋は叶わないと決まっている。


あたしには好きな人がいる。


あたしはチラリと彼が座る席に視線を向けた。

あたしと目が合うと人好きのする笑みを浮かべ

たくさんの数式が書かれた黒板に視線を戻した。


胸が高まり顔が火照る。


あたしは幼馴染の大樹が好きだ。

だけど、この恋は叶わないと決まっている。


彼が熱のこもった視線を向ける相手は、

道端に咲く花のように素朴な安斎さん。


きっと彼が好きなのは安斎さんだ。


モヤモヤとした感情が胸に渦巻くけど

モヤモヤを振り払うように

ぎゅっと目を瞑り頭を横に振る。


大樹に好きな人がいる。


その事実に気づいたのは、

つい最近のこと。


「これは、友達の話なんだけど」


「何 急に」


「いや友達が好きな人できたらしくてさ。

その子と仲良くなるにはどうしたらいいか

相談してきたんだけど……女子視点からの

アドバイスも欲しいってソイツが言っててさ」


首に手をやり目を逸らす大樹。

その仕草が照れ隠しだと

幼馴染のあたしには分かってしまう。


「そう、なんだ……」


足元がガラガラと崩れていくような感覚に陥る中

かろうじて声を絞り出した。


「宇佐木からもソイツに

アドバイスしてくんない?」


酷いよ、大樹。

あたしはあんたのことが好きなのに、

そんなこと言うなんて。


何も知らないあんたにバレバレの嘘で

好きな人がいると暗に告げられるなんて。


だから少し意地悪をしてしまった。


「そんなこと言ってバレバレだよ?

あんた好きな人いるんでしょ?」


つくり笑顔を浮かべ、大樹の顔を覗き込むと

見たこともないような真っ赤な顔になっていた。


その顔に嫉妬してしまう。

あたしといるときは、

そんな顔しなかったじゃない。


「そ、そんなんじゃねーし!!」


「はいはい」


あたしは家の前で立ち止まり笑って見せた。


「とにかく、応援してるから。

その人の恋。頑張りなよって伝えておいて」


じゃあ、と家の中に入ろうとすると

「ありがとう」と優しい声がして、振り向く。


穏やかな笑顔に胸が切なくときめいた。


「うん。バイバイ」


「ああ。また明日な」


バイバイ、あたしの初恋。


玄関に入るや否や力が抜けて座り込む。


あたしの方が1番近くにいたのに。


今、大樹を追いかけて好きだって伝えられたら

どれほど良かったことだろう。


でもそんな勇気は弱虫なあたしにはない。


大樹が振られてあたしの元へ来てくれたら

なんて最低な考えが脳裏をよぎる。


でも、あたしは、大樹の味方でありたい。

だから、大樹が振られたとしても

あたしは絶対に大樹に想いを告げたりしない。

失恋したアイツの心の隙につけ入るみたいな

真似は卑怯だ。


大樹を困らせるようなことはしない。


「好きだったな……」


そう呟き、あたしは自らの恋に終止符を打った。




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