第1話 ドル箱

ここはいい街だ、活気に満ちてる。

駅前なんかとくに騒がしくてザワザワしてるな。人間の動きがいいね。イキイキしてるよ。


ここは町屋の駅裏通り。とあるパチンコ屋と金物屋の隙間。ヨシオさんは雨をしのぎながら思った。ヨシオさんって誰?ヨシオさんってこの人。

いや、このネコだよ。




ホントに人間って不思議だ。変な生き物だよ。

こんなジャラジャラ音がしているガラス板の前に座って、何時間も玉の行方を追っているヤツら、飽きもせずに、それもこんなにいるとは。雨の日は特に多いかって うーん、いやそんな事はないな いつも一緒だな。ひたすら硬貨を注ぎ込んでは、銀の玉を入れている。次から次へと入れ続ける。銀の玉はバネに弾かれて、下の穴へと消えて行く。さようならって感じだ。ヨシオさんが見ている時にも、また玉は消えていった。何してるんだか、俺にはわからない。理解できないな。


「やった はいった!」

「やっぱニュートーキョー 最高だよ」


1人の男が立ち上がって興奮してる。


「おーお やりましたね コーノさん」


同僚らしき男も興奮してる。彼は部下のようだけど コーノとか言う男を完全に見下している感じにみえる。


「いゃ〜 時間かかった〜」

「3,000円注ぎ込んじゃったよ」


コーノ興奮冷めやらず。

相変わらずタバコの灰が落ちそうだ。


「調子のいいヤツだな」

ヨシオも同じ思いだった。


「コーノさん!やりましたね、

 一発台って幾らになるでしょうね?」


部下はとっくに持ち玉切れで、となりのイスに座っていた。結構時間を持て余しているようだった。しかし、ヨイショしつつも、心の中は全く違う事を思っていた。


〜早く会社に戻らないと課長代理に怒られるよ

 何してんだよコーノさんよ〜


部下は4時を過ぎた辺りからマジメに焦っていた。


「そろそろ行かないとヤバいっすよ」


部下はコーノさんのカバンを持って、銀の玉で一杯になった「ドル箱」を見ていた。


「大丈夫だよ かりの話〜 これで5,000円くらいかなあ〜」


コーノは完全ハイになっていて、もうこのまま居座る気満々だった。


「あっそうだ! 自分は〜 課長に直帰するからって、さっき連絡入れてあるからさ」


「えっ!マジっすか」

「えっ俺は?」


「かりの話〜 そのくらい自分で考えてよ」

コーノのタバコの灰が地面に落ちた。


いつもの事だった。いい加減な男の代表格。部下は店の外に出て、公衆電話まで走っていった。


「ひどい!いつもこれだよ、酷過ぎるよ〜」


「うーん…彼っ かわいそ〜だな」


ずーっと見ていたヨシオさんは気の毒に思っていた。


「5,000円って…あの銀玉はお金なのか?」


なるほど!昼メシ食って、今の今までパチンコして、そうか金稼いでいたのか。これも仕事なのか、半分納得した様なしない様な、不思議な感覚に陥った。



Rojiネコのヨシオさんは人間のする事が理解出来なかった。朝早くから夜遅くまで忙しく動いて、何しているんだろう。朝は立ち食いソバを一瞬で食らって、昼も立って牛丼食う。夜になれば再び立って飲んでいる。俺たちなんか、まあ気分良くボーッとしている毎日だけどね。



ヨシオさんは町屋から浅草方面に歩き始めた。

雨も小降りになってきた様だ。



〜明日晴れるといいなあ〜

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