第4話 アイドル部に入ろう

「ぐぎ、ぐぎぎぎぎ…………ああ、めっちゃムカつくんですけど!」


「いや、なんでだよ」


 ひばりちゃんが私にツッコんだ。


 入学式が終わってクラス分けが発表され、ホームルームとかをした。時間が経ってイライラが今になって爆発してきたのだ。


「なっ、なんなんだ、ほんとになんなんだ、あのムカつく女は。というかなんであんなやつが生徒会長やれてるんだ…………」


「いや、なんで今さら怒ってるんだよ」


「だってムカつくんだもん! ていうかなんでひばりちゃんそんな冷静なの? さっきまで私より怒ってたのに!」


 あなたには才能がない。

 寝言は寝ていうことね、外国人さん。

 その程度の覚悟だったの?


 逢坂おうさか秋穂あきほに言われた言葉が耳の奥で反響する。


「まっ、そう怒んなって。今度ボクがかわりに殴っといてやるよ」


「いや、暴力はダメでしょ…………」


「冗談だ」


 ほんとに冗談……?

 実績があるから信頼できない。


「…………それよりあの女、なんでいきなりお前にバトってきたんだ? 初対面なんだろ?」


「私がリミットレスで優勝するって言ったから?」


「でも、それだけでほんとにあそこまで怒るかよ」


「それは…………確かに」


「じつはお前の知り合いだった、とかじゃないのか? それでなにか過去に因縁があったり」


「うーん…………」


 ひばりちゃんと二人で考える。


 ひばりちゃんの言う通り、過去に会ったことがあるのだろうか? 同じ学校出身だったとか? でも、だからってあんなに怒ることある?


 それに逢坂秋穂とかいう名前…………どこかで聞いたことがある。ムカついてるのもあって、思わず逢坂秋穂とネットで検索してみる。


 Moonlight Dreams 所属アイドルグループ『カラーズ』。

 人気ナンバーワンアイドル、逢坂秋穂。


「――――ぐはっ!」


 思わずスマホをぶん投げた。カラーズといえば、私でもギリ聞いたことあるレベルの、この地域では有名なアイドルグループだ。

 

 人気ナンバーワンアイドル逢坂秋穂。

 …………ぐぬ、ぐぬぬぬぬ。


「ひ、ひばりちゃん、ヘルプ…………」


 ひばりちゃんにそのことを伝えた。

 するとひばりちゃんが納得したように言う。


「なるほどな、だからあの女はお前を見下してたってわけか」


「むぎーっ、今ならスーパーサイヤ人なれそうなんですけどっ」


「危ないからなるな」


「じゃあスーパーサイヤ人ゴッドスーパーサイヤ人になる!」


「…………それより、カラーズ人気ナンバーワンって言っても、所詮しょせんは事務所所属の三流アイドルってことだろ? 高校生アイドル目指してるお前が、いちいち気にするような相手じゃないんじゃないか?」


「確かに、そう言われればそうだけど…………」


 この世界には二種類のアイドルがいる。


 カラーズのような、事務所が運営するタイプのアイドル。

 そして、高校の部活動として活動を行うアイドル。


 後者は事務所所属のアイドルと区別するため、「高校生アイドル」や「スクールアイドル」などと呼ばれている。


 高校生アイドルは事務所のアイドルとは違って、曲や衣装の制作からライブイベントの企画まで、すべて生徒たちで行う。だからアイドルとして活動するハードルは、高校生アイドルの方が高い。


 けど、高校生アイドルにはそれをおぎなってあまりあるメリットがある。それは高校アイドル部の全国大会『リミットレス』の存在だ。


 高校生アイドルは部活動であるため、教育機関により全国大会が行われる。全国からトップクラスのアイドルが集まるので、リミットレスの決勝は日本中が注目する。


 つまり、決勝に進むだけの実力があれば、どこに住んでいようが、知名度が低かろうが、一夜にして日本中の人に注目してもらえるのだ。


 これに対して事務所所属のアイドルでは、ローカルのコミュニティーで有名になるのがやっとである。


「まっ、あんな女、狭い世界でイキってるだけのカエルってことさ。リミットレスで優勝を目指すんだろ? だったらマジで気にすんなよ。あの女も部活までには手出しできないさ」


「うん…………そうだね。そうだよね」


 ひばりちゃんの言葉に元気が出てくる。


 私はアイドル部に入ってリミットレスで優勝する。そして、優勝して知名度を得た状態で華々しくプロデビューして、そのまま世界の頂点まで駆け上がるのだ。


 目標は単独での世界ツアー。

 私の行く手には、バラ色の未来が待っている。

 

 うふ…………うふふふふ。


「ふっふーん、ふんふんふーん、ふふふんふーん」

 

 思わず鼻歌を歌い出した。


「お前ってわりと単純な馬鹿だよな」


「えっ、そうかな? えへへ、ありがとう」


「褒めてないぞ」


 ひばりちゃんがそう言いながら、私がさっき投げたスマホを取ってきてくれた。


「ほらよ」


「ありがと!」

 

 ひばりちゃんがスマホを私にくれた。

 スマホを見つめる。


 ん?

 んん……?


「なっ、なんか画面がバキバキなんですけど⁉︎」


「お前がさっき投げてただろ」


「あ、あの女…………」


「いや、それはお前が悪い」


 なんたる卑劣な罠。

 これも逢坂秋穂の陰謀か?


 まあいい。


 私は友だちが少ないからスマホはそんなに使わない。


 だからスマホが壊れても、ダメージは少ない。


 ダメージは少ない。


 …………………………。


「……ふっ、ふんふーん…………ふんふふーん」


 頑張って鼻歌を維持する。

 ひばりちゃんが私を白い目で見ながら言った。


「まっ、それじゃボクはプログラミング部を見に行ってくるよ。コンピューター室で説明会をやってるっぽいからな」


 ひばりちゃんがコンピューターとか好きなのは知ってたので、驚きはしなかった。


「音楽系の部活にはしないの?」


 ひばりちゃんは音楽も好きで、ギターとか使って作曲してるっぽい。「ぽい」と言ったのは、ひばりちゃんがこれまで私に曲を聴かしてくれたことがないからだ。


「そっちじゃ大学入試でウケないからな」


「ま、そっか。アメリカの大学だもんね」


「ああ。それじゃボクは行ってくる。また明日な、スピカ」


「うん、じゃあねひばりちゃん!」


 ひばりちゃんと別れた。さて、私もアイドル部に入部届を出しに行かねばならない。外で部活の勧誘をやってるみたいだし、まずはそっちを見に行ってみよう。


 いやー、楽しみだなぁ、アイドル部!

 ワクワクするなぁ、どんなのだろ?

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