第30話 悪くないかも
夏美ちゃんと身体測定をした次の日。朝のホームルーム前の時間に、夏美ちゃんが嬉しそうな顔で私に話しかけてきた。
「スピカちゃん、今日は見せたいものがあるの!」
「えっ、もしかして…………」
そのまさかだよ、と夏美ちゃんがうなずいた。
もしかして衣装ってこと⁉
はやっ…………
なんか仕事早すぎじゃない?
それはともかく、夏美ちゃんから紙袋を受け取った。紙袋を受け取って、おそるおそる開けてみる。
「うわ、すごい…………」
新品ピカピカのアイドルの衣装がそこにはあった。
「ねえスピカちゃん、ホームルームまで時間あるから、ひばりちゃんも誘ってさっそく着てみない?」
「う、うん……!」
☆
私たち三人は学校の更衣室に向かった。
紙袋から夏美ちゃんの作ってきた衣装を取り出す。
手芸品店で見せてもらった、学校の制服をモチーフにした衣装だ。
色は冬の夜空をイメージしたような黒と青。胸元や腰の部分にリボンがあしらわれている。スカートは
「スピカちゃんの名前って、星の『スピカ』に由来してるんでしょ? だから衣装にも星をつけてみたんだ」
すごい…………
じゃあほんとにこれ、私専用の衣装って感じじゃないか。
「き、着てみてもいい?」
「もちろんだよ!」
二人に手伝ってもらって衣装に着替えてみる。
うわ、なんか変な気分。
見下ろした手や足
胸やスカートの部分。
見慣れないフリルやスパンコールがあって思わずドキドキする。自分は今アイドルの衣装を着てるんだ、という実感がなんとなく湧いてくる。
「どっ、どんな感じかな……?」
「こっちに鏡があるよ!」
更衣室に備え付けの鏡をのぞきこんだ。
そして、思わず息を呑む。
「…………すごい」
鏡に映った自分をまじまじと見つめる。
そこにいるのが自分だとは信じられなかった。
自分で言うのもあれだけど…………すごくかわいい。
天使? お姫さま? 妖精さん?
夏美ちゃん特製の衣装に私の金髪碧眼や白い肌があわさって、現実離れした美しい女の子の姿がそこにはあった。部活とか体育の授業で使う更衣室にそんな子がいるものだから、夢みたいなありえなさ? 非現実感? を感じる。
でも…………これは夢なんかじゃない。
「スピカちゃん、ほんとにかわいいよっ!」
夏美ちゃんが興奮した様子で言った。
「ああ、マジで最高に似合ってる」
ひばりちゃんも同じく興奮したように言う。
私も同じ気持ちだった。
鏡に映った自分を見て実感する。
そうか…………私、アイドルになるんだ。
これがアイドルになるってことなんだ……!
アイドルになるのも悪くないかもしれない、初めてそう思えた瞬間だった。
☆
「この流れで発表するが、曲の方も完成したぞ」
教室に戻ったところで、ひばりちゃんがあっさりとした声で言った。
えっ…………早くない?
曲も衣装も、もうできてんの?
なんか優秀すぎないか、私の味方。
「えっ、そうなの⁉ わたし聞いてみたい!」
「ああ、それなんだが…………スピカ、歌詞は書けたのか?」
えっ?
ひばりちゃんが私をじっと見つめる。
「二日前に曲のドラフト版送っただろ?」
あっ、そういえば送ってくれてたな…………
やる気がなくてぜんぜん無視してた。
「それで歌詞を作ってくれって言ったよな。で、どうだ? 作詞は進んだか?」
歌詞…………ですか?
歌詞。
歌詞。
白紙のままの歌詞ノートが
あ、あは…………あはははは…………
「スピカちゃんが書いた歌詞、楽しみだなぁっ!」
夏美ちゃんがキラキラとした視線をこちらに向ける。
「どうだ、進んでるか?」
ひばりちゃんに期待した目で見つめられ、大きくうなずいて答える。
「うん! けっこういい感じだよね?」
「なんで疑問形なんだよ…………まあいいや。じゃあ見せてくれよ」
「えっ、見せる?」
「わたしも見てみたいな〜」
やばい。
やばいやばいやばい。
全身の汗腺という汗腺から冷や汗が噴き出てくる。
ひばりちゃんがジトッとした目で私を見つめた。
「おい、ほんとに進んでるのか?」
「うっ、うん! 進んだ! もう
「ほんとか? じゃあ見せてくれ」
「わたしも見たい」
「そっ、それはちょっと待ってね。まだ未完成だから、授業中にもう少しブラッシュアップして、コンテクストをフレキシブルにアジャイルしてからで…………」
なんとか二人を
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