第27話 仲間ってこと!?
「ねえ、ひばりちゃん」
衣装の材料を買い終わって、私たちは最後に駅前の本屋さんに向かった。夏美ちゃんがお手洗いでいなくなったタイミングで、私はひばりちゃんに話しかけた。
「
「ああ、そんな話もしたな」
「私ね、気づいちゃったんだ。確かに私は、なりたいじゃなくて、ならなきゃダメって理由でやってきた。それで、ほんとにこのまま突き進んでいいのかって、自分でも分からなくなっちゃって…………」
私がそう言うと、ひばりちゃんが考えるように目を閉じる。
しばらくして、彼女はこう言った。
「…………ボクも分からない。が、今はとにかくやってみればいいんじゃないか? 動き出したら止まらないのがお前のいいところだしさ」
「えっ、私の魅力ってそんなイノシシとか砲弾みたいな感じなの……?」
思わずそう尋ねると、「ああ、そうだが」と真顔で答えられた。
それは普通にショックなんですけど…………
まあでも、今は進むしかないというのはその通りに思えた。すでに初めてしまった以上、こんなところで辞めることはできない。
思うところはあるも、ひとまず納得する。
「それとさ、ひばりちゃん…………今までごめんね。私、ボイトレがあるからって理由で、ひばりちゃんとの遊びもぜんぶ断ってた。…………ううん、それだけじゃない。友情も青春も部活も…………私、どれだけ捨ててきちゃったんだろう」
歌唱力のかわりに失ってきたもの。
もう取り戻すことはできない。
人間の人生は有限だ。
人はいずれかならず死ぬ。
人生をやり直すことなど何人たりともできない。
転生? 逆行?
そんなものは創作の中だけのまやかしだ。
私が捨ててきたものは、もう二度と…………
「ばーか、お前自分が何歳だと思ってるんだよ?」
「えっ…………15歳?」
「そうだろ? 高校一年生の15歳だ。人生まだまだこれからだろ。なのになんでぜんぶ終わったみたいな顔してるんだよ」
「私そんな顔してた⁉」
「青春なら今から取り戻せばいいじゃないか。それに今、こうやって仲間三人で買い物してるのだって、立派な青春だろ」
「あ…………確かに」
学校帰りに友だち同士で買い物に行く。
私のあこがれてた青春シチュエーションじゃないか。
そっか…………これからやってけばいいんだ。
そう考えると少しは気が楽になった。
アイドルを目指すのが正しいことかは分からない。でも、仲間と協力してひとつの目標にみんなで取り組む――――それは素敵なことだと思った。
☆
「すごい、どれも分厚い本ばっかり。そんなに買ってお金大丈夫なの……?」
夏美ちゃんが私のカゴを見て心配そうに尋ねる。
「大丈夫、お金いっぱいあるから!」
「こいつマジで金持ちだからな」
父は優秀な医者で、母は伝説のアイドル。だからお小遣いは多かったし、なのに私はお金を一切使ってこなかった。そのためお金は大量に溜まっている。
夏美ちゃんがレシートを読み上げる。
〜〜〜〜
詩の技法 〜感情を詠むための実践と構造〜 12000円。
リズムで伝える言葉:歌詞のはじめの一歩 3200円
広辞苑 第七版 9900円
日本語シソーラス 類語検索辞典 第2版 16500円
消費者心理学入門:購買心理と心をつかむメカニズム 3800円
(以下略)
〜〜〜〜
「辞書とかは分かるんけど、この……消費者心理学ってやつとか、ほんとに歌詞作りに使えるの?」
「使えるよ、たぶん!」
消費者の目を惹くキャッチーな歌詞を書くのに使えるはずだ、たぶん。
他にも、使えそうな学術書をたくさん買ってみた。心理学、文学、社会学、など。どの本も気合いを入れすぎたサンドイッチくらいの分厚さがある。それが十冊以上。
「そんなに買って大丈夫……? というか、ひとりで持ち運べる?」
「うん、大丈夫! 私こう見えてもけっこう力持ちだから!」
腕まくりをして、
☆
「お、重い…………」
「そりゃそうだろ」
教科書の大量につまったカバンと、本ではち切れそうな紙袋が三つ。
女子の中でもとくに非力な私にとって、荷重300%オーバーみたいな重労働だった。肩も腕も肘も、全身があまりの重みに悲鳴を上げている。
「ふんぬーっ、あんがーっ!」
気合を入れつつ、全身を引きずるようにして前に進む。
「す、スピカちゃん大丈夫……?」
夏美ちゃんが心配そうな目でこちらを見つめた。
「大丈夫大丈夫…………ってああっ! 腕がッ…………っ、腕がッッ!」
「ど、どうしたの……?」
「腕がもげそう、腕がもげそう…………」
「もげそうって…………よかったらわたしたちも持つよ?」
夏美ちゃんに優しい声で言われ、思わずきょとんとして彼女を見つめる。
「えっ、いや大丈夫だよ…………だってこれ、私が自分で買ったやつだし」
「そんなの気にしないでいいよ〜」
夏美ちゃんが紙袋のひとつを持ってくれた。
「あ、ありがと…………」
今度はひばりちゃんが私に言う。
「まったく仕方ないな。だから電子書籍にしとけって言ったんだ」
「いや、学術書の電子化はまだ進んでないから…………」
「辞書なんかネットでいいだろ」
「いやいや、紙の辞書には偶然の出会いというものがあって…………」
「まあいいや。ボクにも貸せよ、持ってやるからさ」
ひばりちゃんが別の紙袋を持ってくれる。
「よし、それじゃあ行こうぜ」
そう言って二人が歩きだした。
二人の背中を呆気に取られて見つめる。
…………仲間か。
二人を見てると自然と頼もしい気持ちになった。
やっぱり私は、この二人が…………
……………………。
軽くなった体で二人の後を追いかける。
「ひばりちゃん、夏美ちゃん、今日はいろいろありがとね! みんなで買い物行けて楽しかったよ!」
私がそう言うと、夏美ちゃんが嬉しそうに笑った。
「うん、わたしも楽しかった! …………ねえスピカちゃんひばりちゃん、よかったらちょっと寄り道していかない? わたし、行ってみたい場所があって」
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夏美「今日はみんなで買い物に行けてよかった。友だちと一緒に遊びに行くの、小学生からの夢だったんだぁ。できればお姉ちゃんもみんなと仲良くなってくれたらいいんだけど…………」
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