第24話 作詞をするよ

 中間発表会でのファーストライブ。

 デビュー曲の作詞を私が担当することになった。


 とびっきりの歌詞を書かねばならない。


 ということで、さっそく歌詞作りを初めてみる。午後の授業を適当に聞き流しながら、白紙のページと向き合って歌詞のアイデアを考える。


 歌詞、歌詞…………

 うーん、まったく出てこない。


 ここはひばりちゃんのアドバイスに従ってみるか。 


 作戦会議を終えたあと、作詞のやり方を聞いてみたのだ。するとひばりちゃんはこう答えた。


『歌詞の書き方? 自分の内なる声をそのまま言葉にするんだよ』


 うん。

 無茶振りだよね、これ。


 まあいいや。


 騙されたと思って、いったんアドバイス通り自分の内なる声に耳を傾けてみる。すると意外と、内なる声らしきものが聞こえてくる。




『術の名は麒麟きりん、雷鳴と共に散れ』





『ワシの波動球は百八式まであるぞ』




『僕のバンジーガムはガムとゴムの性質を併せ持つ』




 うん、いいぞいいぞ。

 って――――



「私の内なる声、変なやつしかいない⁉」


 思わずその場で立ち上がって叫んだ。教室中が私を振り返る。先生が私を怪しむような表情で言った。


「冬空さん、どうかしましたか?」

「すっ、すみません! 噛みました!」


 席に座りなおした。


 落ち着け、落ち着くんだ。

 マジで冷静になれ、私。


 曲のテーマから考えよう。


 あの後さらに作戦会議をして、デビュー曲のテーマが決まった。私たちのアイドル活動の始まりを象徴するような、夢と希望にあふれた曲にしようと決めたのだ。


 それはそれは長い会議だった。互いの意見と信念とがぶつかりあう侃々かんかん諤々がくがくの大会議。私たちは膨大な時間をかけて、最高の曲を作るために意見を吟味ぎんみした。


『それで、曲の具体的な方向性を決めたいんだが、なにか意見はあるか?』


『最初の曲だから、始まりをテーマにしたらいいんじゃないかなぁ?』


『私はそれで賛成だよ』


『ボクもだ。じゃあ決定だな』


 こんな感じの、長時間にわたる会議のすえに決めたのだ。


 始まり……始まりか…………。

 テーマを意識してみると、意外といいアイデアが受かんでくる。


 白紙のページに向かってペンがスラスラと動きだした。



『これから僕らの物語が始まる』



 お、いい感じだぞ?



『この力で世界を守るんだ』



 うんうん。



『英雄王の剣も君を祝福しているよ』



 グッドグッド。



『その輝きは剣が君を認めた証だ』



 ベリグーッ、ベリグーッ!



『放て、カオティックビギニング!!』



 んーーっ、ファンタスティック!



「できた……!」


 勢いのままペンを走らせて、意外とすんなり歌詞を書き終えた。あとはこれをベースに、細かい改良を加えていけばいいだろう。


 うん、うんうん。

 もしかして私って結構才能あるんじゃないか? 


 思わず自画自賛しながら、歌詞を最初から読んでみる。



「かっ、カオティックビギニンッッ!?」



 思わず叫びながら立ち上がった。



 Chaotic Beginning⁉



 ケィオティックビギニンッッ!!??



 原初始原たる冥王の混沌ケィオティックビギニング!!!!????



 なにその必殺技みたいなの。アイドルの始まりじゃなくて壮大なRPGの始まりみたいになってる。


 私は馬鹿なのか……? これでも入学テストの成績1位で新入生代表に選ばれたんですけど。


「冬空さん、なにか問題があるなら言ってください」


 先生が私をじっと見つめた。


「すっ、すみません! 噛みました!」


 あわてて席に座りなおした。同級生たちが「おもしれー女」みたいな感じで笑う。授業が再開された。授業を聞いてるふりをしつつ、歌詞ノートに必死に向き合う。


 やばい、なにも思いつかない。

 どうしよどうしよどうしよ…………。


 もう三十分は経ったのに、紙の上は真っ白。

 なにもアイデアが浮かんでこない。


 中間発表会までの時間は二週間。それまでに、デビュー曲にふさわしい歌詞を完成させなきゃダメなのに…………


 やばいやばいやばい

 冷や汗が背中をツーッと流れてく。


「おい、スピカ」


 前の席のひばりちゃんが私を振り返って小声で言った。


「歌詞を考えるのは、曲ができてからでいいぞ。じゃなきゃ文字数とか分からないだろ? 普通は曲ができてから歌詞を考えるんだ」



「スピカちゃん、だいぶ苦戦してたみたいだね」


 放課後、夏美ちゃんがニコニコと笑いながら私に話しかけてきた。


「あはは……うん。曲がない状態で始めるのは、さすがに私でも無謀だったよ。まっ、曲ができたらあとは楽勝かな。大船に乗ったつもりでいてよ」


「泥舟じゃないといいね〜」


「えっ夏美ちゃん⁉」


 夏美ちゃんは満面の笑みを浮かべている。

 わっ、私ってそんな信用ない?


 すると夏美ちゃんが「冗談だよ」とつぶやく。


 冗談、なのか? まあいいけど…………


 荷物をぜんぶ詰めこんで、カバンをよいしょと肩にかけた。普段ならそのまま家に帰るところだが、今日はちょっと寄り道して帰ろうと思う。


「私、駅前の本屋さんに行ってくるよ。作詞の本を買って、ちゃんと勉強したいし」


 私は作詞についてなにも知らない。

 まずは勉強しなきゃと冷静になって考えた。


 私が買い物に行くと伝えると、夏美ちゃんが嬉しそうに言う。


「ほんと? わたしも衣装の材料を買いに行こうと思ってたんだぁ。ひばりちゃんは?」


「ボクもアイドルのCDを買いに行く予定だ。作曲用の資料が必要だからな」


 ということは…………と、三人で顔を見合わせる。


「じゃ、みんなで一緒に行こっか!」


 そういうことで、私たちはみんなで買い物に行くことになった。



 百合ヶ丘高校は市の中心地から少し離れたところにある。

 そのためまずは、地下鉄で市の中心地に向かう必要があるのだが…………


 校門の外で、ひとりの女子生徒が私たちを待ち構えていた。

 女子生徒が夏美ちゃんに向かって手を振る。


「夏美、こっちよ――――って、あなたは…………」

 

 女子生徒が手を振る姿勢のまま私を見て凍りついた。

 

「冬空スピカ…………なぜあなたたちがここに?」


 逢坂秋穂がギョッとした目で私たちを見つめた。

 



 

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