第24話 アイドル部はじめました!
「どうやら人数だけはそろえてきたようね」
生徒会室の中、生徒会長の逢坂秋穂が固い声で言う。
部の設立に必要なのは三人。
ひばりちゃんと夏美ちゃんが加わって、これで数はそろった。
逢坂秋穂が机の上で手を組んで、私たちを値踏みするように鋭くにらんだ。
「まずは簡単なテストを行うわ」
逢坂秋穂が言った。
ひばりちゃんが、「テスト?」といぶかしむ。
なにが来るかは分かっていた。
逢坂秋穂がスマホを取り出す。
「中学のときの校歌、歌えるようになったのでしょうね?」
「もちろんです」
逢坂秋穂がこう来ることは予想していた。だから私は、ひばりちゃんをアイドル部に誘ったあと、校歌を歌う練習もバッチリしていたのだ。
昨日は校歌すら歌うことができなかった。でも今日は違う。前回はいきなり歌えと言われて面食らったが、今回は事前にこうなることが予測できていた。だから心づもりはできている。
逢坂秋穂が中学の校歌を再生する。ひばりちゃん、夏美ちゃん、そして逢坂秋穂の見守る中で、私は中学のときの校歌を歌った。
うん、これくらいは大丈夫だ。
無事に校歌を歌い終わる。
夏美ちゃんが呆気に取られて私を見つめる。
「…………スピカちゃん、歌うまいんだね」
するとひばりちゃんが答えた。
「まだまだこんなのは序の口だぞ」
そんな私たちを見て逢坂秋穂が鼻を鳴らす。
「これくらいできなければ話にならないわ」
でも……これで最低限は合格だろう。
「それでは、あなたたちが部を設立するに値するか、私が生徒会長としてジャッジしてあげる。全員、部活動をする目標と目的を述べなさい。まずは夏美から」
逢坂秋穂に言われ、夏美ちゃんが一歩前に出た。
「わたしはアイドル部に入って、スピカちゃんにかわいい衣装を作ってあげたい。それで部活動を通して経験を積んで、将来は衣装デザイナーになる!」
夏美ちゃんが力強い声で言った。
逢坂秋穂が満足そうにうなずく。
「よろしい。次は春野ひばりさん」
今度はひばりちゃんが前に出る。
「ボクはボクの作った曲で、スピカを世界の頂点まで導いてみせる。その実績を大学入試の面接で使って、アメリカのマサチューセッツ工科大学に入学する」
ひばりちゃんは将来、AIとかそういうのを勉強したいらしい。プログラミング部に入ろうとしてたのもその一環だ。アイドル部での経験はプログラミングには役に立たないだろうけど、アメリカの大学入試には使えるとのこと。
ひばりちゃんの目標を聞くと、逢坂秋穂が感心したような表情を浮かべた。
「ほう、大きく出たわね。それでは最後に――――冬空スピカ」
逢坂秋穂が鋭い目で私を見つめた。
二人の前に出て、かーっと息を吸って目標を宣言する。
「私、冬空スピカはアイドル部を設立して、高校生アイドルの全国大会『リミットレス』で優勝します。優勝した実績をもとにプロデビューして、ソロでワールドツアーを成功させるくらいのアイドルになってみせます」
ソロでのワールドツアー。
アイドルにとって前人未到の領域。
伝説のアイドル、メリア・ブリガンディンが叶えるはずだった夢。
私がこの手でそれを叶えて見せる。
この気持ちは、小学生のときから変わっていない。
私たち三人の目的を聞き終えると、逢坂秋穂が言った。
「ふん…………まあ、意気込みは十分といったところね。それでは、あなたたちに課題を出すわ。この課題を無事にこなして、自分たちがスクールアイドルとしてやっていけると証明しなさい。そうすれば、部の設立を正式に認めてあげる」
部として正式に設立するための課題。
思わずごくりとツバを飲みこんだ。
「今から二週間後の中間発表会、そこでライブを成功させなさい。講堂の使用許可は出してあげる。だから自分たちで曲を作り、衣装を作り、観客を集めて、見るに足りるだけのパフォーマンスを成功させてみなさい」
二週間後。
時間はかなり短い。
が、これすらできなければリミットレス優勝など無理だと言いたいのだろう。
いいだろう。
もちろん成功させてやる。
「もちろんです、絶対に成功させてみせます! だから見ててください、逢坂秋穂さん!」
新たな決意を胸に、私たちは逢坂秋穂のもとを後にした。
☆
「やったーっ! アイドル部、設立したんだよ!」
生徒会室から十分に離れたところで、思わず二人に向かって私は叫んだ。
「うん! やったねスピカちゃん!」
「おいおい、まだ喜ぶなよ。あくまで仮設立だからな」
満面の笑みでうなずく夏美ちゃんに、冷静な顔で冷静なことを言うひばりちゃん。
「えっ、ひばりちゃんは嬉しくないの?」
私がそう尋ねると、
「そりゃ、嬉しくないわけじゃないけどさ」
気恥ずかしそうに顔をそむけながら言った。
「ねえねえ、じゃあみんなで手あわせるやつやろうよ!」
円陣? って言うのだろうか。
名前はよく分からないけど、みんなで手をあわせるやつ。
「いいぜ」
「いいよっ」
「じゃあ、はい!」
みんなの前に手を差し出した。
夏美ちゃんが嬉しそうな顔で手を重ねる。
ひばりちゃんも乗り気じゃないふりをしつつ手を出した。
「じゃあ今からここにナイフを刺して、手刀でみんなの手首を落とします!」
「いやお前それ
おお、ナイスツッコミ。
じゃあ次は、
「我ら三人、生まれた日は違えども姉妹の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、困窮する者たちを――――」
「三国志のやつもやめろ。てかお前テンションどうなってんだよ」
ひばりちゃんが
ってまあ、そんなことはどうでもいいのだ。
「えーっ、じゃあ気を取り直して…………」
二人の顔を見回した。
「夏美ちゃん、ひばりちゃん。私の仲間になってくれて本当にありがとう。迷惑かけたりすることもあるかもだけど、これから一緒によろしくね」
「ああ、やるからには本気だ」
「うん、一緒に頑張ろうね!」
「それじゃあ百合ヶ丘高校アイドル部、ファイトっ!」
「おーっ!」
「おう」
三人で空に向かって拳を突き上げた。
こうして、私たちアイドル部の物語は始まった。
未来への期待と、それぞれの目標を胸にかかえて。
……………………。
…………。
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