第11話 春野ひばり勧誘 その1

「ねえひばりちゃん、私と一緒にアイドル部やろうよ」


 幼馴染の春野ひばりを作曲担当としてアイドル部に誘う。


「断る」


「――――えっ、ええぇえええぇえ⁉ ええぇえぇぇぇえええ⁉ えええぇぇぇえええええええぇぇぇええええ⁉︎ えええっえええっっええええ⁉」


「うるせえよ」


 コンピュータ室のすぐ外の廊下で、ひばりちゃんにそっけない声で断られた。思わずひばりちゃんをじっと見つめて、尋ねる。


「なんで?」

「それは…………ボクはアイドルが歌うような曲は作れないからだ」


 ひばりちゃんが暗い表情で答えた。


 アイドルの曲が作れない? ひばりちゃん作曲できるし、頭もいいし、学習能力も高いし、そんなことないと思うんだけど…………

 

 私がそのことを指摘すると、ひばりちゃんはポリポリと頭をかきながら言った。


「あのなぁ、お前、音楽ってどれくらい種類があると思う?」

「アイドルでしょ…………あとはクラシックとか?」


 私がそう言うと、ひばりちゃんがぐるりと目を回した。

 聞いといてよかったぜとつぶやく。

 

「あのな、音楽ってのはお前が思ってる千倍くらいはジャンルが細分化されてるんだ。ボクは確かに曲を作れるけど、アイドルが歌うような曲は作れない」

 

 そうなの?

 ひばりちゃん頭いいから、そこは余裕だと思うけど…………


 ひばりちゃんが好きなジャンルは、そこまでアイドルとかけ離れている、ということだろうか?


「じゃあひばりちゃんはどのジャンルが好きなの?」


「それは…………まあそのあれだ。お前に言っても分かんないだろ」


「じゃあひばりちゃんの曲、聴かせてよ」


「それだけは無理だ…………絶対に」


 ひばりちゃんが私に曲を聴かせてくれたことは一度もない。もしかしたらそれが、自分にはアイドル曲は作れないという原因と関係しているのだろうか。



 帰り道。私とひばりちゃんは家が同じ方向なので、二人で一緒に歩いて帰る。歩きながら、ひばりちゃんの勧誘に再挑戦してみる。


「ひばりちゃんひばりちゃん、私の曲を作ってよ!」


「お前、まだそれ言ってんのかよ…………悪いが、ボクはアイドルが歌うようなキラキラした曲は作れないんだ」


「じゃあ私となら大丈夫だよ。私はキラキラよりはドンガラガッシャン、ズベラボブギィグガバギャッ、ドバシュンガリボン! みたいな感じだし」


「いや、言ってる意味が分かんねえよ。とにかく、ボクにアイドルの曲は作れない」


「えーっ、でもひばりちゃん、曲作れるじゃん」


「だ・か・ら、ボクはアイドルの曲は作れないんだ、同じことを何度も言わせるな」


「えっ? 今なんて?」


「ボクはアイドルの曲は作れないんだ」


「えっ? 今なんて?」


「ボクはアイドルの曲は作れないんだ」


「えっ? 今なんて?」


「ボクはアイドルの曲は作れない――――って、同じこと何度も言わせるな!」


 ひばりちゃんがツッコんだ。


「えーっ、じゃあひばりちゃんが作った曲、聴かせてよ」

「絶対にイヤだ、断る」


 ひばりちゃんが深々とため息をついた。


「あのな、頼まれても無理なものは無理なんだ。ボクはアイドル曲なんて作れない。ボクが作れるのは、アイドルが歌うような曲じゃないんだ」


「じゃあひばりちゃんの曲、聴かせてよ」


「イヤだ、それだけは絶対に無理だ」


「えーっ、ひばりちゃんのけちんぼ」


「とにかく、無理なもんは無理だ。必要なら探すの手伝ってやるから、ボクのことは諦めろ」


「…………私はひばりちゃんと一緒にやりたいもん」


「お前なぁ…………なんでそんなボクにこだわるんだよ」


「だって、私ひばりちゃんが大好きなんだもん! だから私は、ひばりちゃんの曲を歌ってアイドルになりたい」


 私がそう言うと、ひばりちゃんが困ったような顔で押し黙った。そうこうしているうちに、ひばりちゃんとの別れ道につく。


「…………お前、家そっちだろ? じゃあな」


「…………うん」


 遠ざかってくひばりちゃんの背中を見つめる。

 どうやったら彼女は協力してくれるだろうか?


 やはり、彼女が曲を聴かせてくれないという事実が鍵になりそうだ。

 

 どうしようか、とあごに手を当てて考える。


 私のIQ53万のスーパーインテリジェントな頭脳が解を導き出した。



 ――――ここは『ゴリ押し』だ。

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