第2話

3場

〇小島の職場

上司が怒っている


上司「小島君! 小島くーん!」


小島、急いで上司のもとへ


小島「はい! なんでしょう!!」

上司「なんでしょう! じゃないんだよ! この書類、また数字が間違ってるじゃないか! ちゃんと確認した? この手のミスこれで何回目だと思ってるの?」

小島「いや、その…すいません」

上司「すいませんじゃなくて、確認したか聞いてるんだよ」

小島「したつもりなんですけど…」

上司「したつもりじゃ困るんだよ。前もどうしたらミスがしなくなるかって話したよね? それやってる?」

小島「…」

上司「お前は能力が低いんだから。わかるだろ? まずは決めたことをちゃんとやれって」

小島「はい。すいませんでした」

上司「もういいよ。お前はなにもできないんだからさ、これシュレッターかけとけよ」


上司、書類の束を小島に渡し、去っていく

小島、しょぼくれながら書類をシュレッターにかけていく

そのうちシュレッターをしながら鼻歌でSTARWARSのメインタイトルを奏で始める

そこに会社の同僚二人が通りがかる


同僚A「みろよ。小島さん、楽しそうにシュレッターなんかかけちゃってさ」

同僚B「あんなんあの年でやる仕事じゃねぇよな」

同僚A「さっきも上司に散々怒られて、目も当てられねぇよな」

同僚B「『お前は能力低いんだから』だってよ。そんなこと直接言われてる人初めて見たわ」

同僚A「あんなに怒られてんのに、会社クビにならないように必死にしがみついてんの信じられないわ」

同僚B「あんな風にはなりたくないよな」

同僚A「な。気を付けような」


同僚たち去っていく




4場

〇真田の作業場

真田が執筆しているところに宮田が入ってくる



宮田、紙を真田に渡しながら

宮田「先生、これ今度のインタビューの内容です。目を通しておいてください」

真田「ありがとうございます」


真田、しばらくインタビューの内容をチェックする


真田「やっぱり来たか、この質問」

宮田「なにか嫌な質問ありました? NG出せますけど」

真田「いやいやそういうわけじゃ。いつか来るだろうなって思ってたのが、ついに来たかって感じだったんで」

宮田「どれですか?」

真田「物語の舞台についてです。なんで出雲を舞台に選んだんですかって」

宮田「それ私も気になってたんですよ! 先生、出身出雲じゃないですもんね」

真田「えぇ」

宮田「学生時代、島根の学校に通っていたとか」

真田「いえ」

宮田「じゃあ何故!?」

真田「別にたいした意味は無いんですよ。神様の話なら京都がそれっぽいかなとか思ったけど、京都のファンタジー話は万城目先生と森見登美彦先生の手によって、焼き尽くされたと言っても過言じゃないくらいやられてるし、主に森見先生のせいか。で、どこにしようかと考えているときに、石杵というものを見つけてね。これは使えそうだなと」

宮田「それだけですか?」

真田「石杵が出土した出雲のことを調べてたら、邪馬台国出雲説なんていうマイナーな学説を見つけたり、味鉏高彦根神を祭った鴨氏は、出雲から大和へ移住したとかっていう説があったりして、出雲、舞台としてちょうどいいんじゃないかって思って」

宮田「点と点がつながったというわけですね」

真田「つながったというよりは無理やりつなげて、ストーリーを仕立て上げたって感じかな」

宮田「なるほど。星座みたいなことですね」

真田「いやいや、そんなロマンチックな話じゃ… え、どういうことですか?」

宮田「いやだって、星座も点と点をつなげて…」

真田「点と点て。星のことを点って言って欲しくないなぁ」

宮田「星と星をつなげて、無理やり生き物とかに例えたりしてるじゃないですか。先生の話もそういうことですよね?」

真田「うーん…まぁそういうことになるのかなぁ…?」

宮田「あなたとあなたと、あなたとあなたとあなたと、あなたとあなたでオリオン座! っていうギャグでお馴染みのオリオン座ってあるじゃないですか」

真田「えぇ」

宮田「あれって、もう一回やりますよ。先生、ちょっとこちらへ(自分の前へ来るように促す)」


真田、宮田の正面に立つ


宮田「(真田の体を指で示しながら)あなたとあなたと、あなたとあなたとあなたと、あなたとあなたでオリオン座! ね、四肢が無いんですよ! これのどこが人間に見えるんですか? こんなの強いて言うならビールですよ。くびれの入った小洒落たグラスに入った飲みかけのビールです!」

真田「オリオンビールってことですか? いいですか、宮田さん。オリオン座っていうのは、実は7つの星だけじゃないんですよ。オリオン座ってこういう形をしていて(オリオン座のポーズをとる)宮田さん、ちょっとポーズ取ってもらってもいいですか?」


宮田、オリオン座のポーズをとる


宮田「こうですか?」

真田「オリオン座っていうのは、あなたとあなたとあなたと、あなたとあなたとあなたと、あなたと、あなたとあなたとあなたと、あなたとあなたと、あなたとあなたとあなたと、あなたとあなたの17個の星から構成されているんです」

宮田「えぇ!? じゃあ流れ星には嘘をつかれていたってことですか!?」

真田「嘘っていうかそういうギャグですからねぇ」

宮田「オリオン座を四肢をもがれた状態だと思ってる人、絶対多いと思いますよ!」

真田「そうですかねぇ…?」

宮田「よく考えたら、点と点を無理やりつないで話を作らなくても、舞台からなにから全部オリジナルで話を創作した方が楽じゃないですか? 話に合う学説とか、小道具とか探すの大変じゃなかったですか?」

真田「それはまぁ大変でしたけど、万城目先生の本を読んだときに、京都の町でほんとにこんなことが行われていたら面白いな。っていうか、自分が知らないだけで本当は秘密裏に行われてるんじゃないかって、ワクワクしたんですよね。それって、実際に存在する場所が舞台になっていて、物語と現実が地続きになっているからなんじゃないかなって思ったんですよ。自分もそういう物語を作りたくて」

宮田「あのー先ほどから名前が出ている万城目先生というのは…?」

真田「万城目学先生知らないんですか!?」

宮田「はい。有名なんですか。その方?」

真田「有名なんじゃないかなぁ? 映画化、ドラマ化された作品がいくつもあるんだから」

宮田「例えば?」

真田「例えば…『鴨川ホルモー』とか。聞いたことない?」

宮田「うーん…」

真田「『鹿男あをによし』」

宮田「いやぁ」

真田「『偉大なるしゅららぼん』」

宮田「ふざけてます? ホルモンとかしゅららぼんとか」

真田「いやいや全部ほんとにあるんだって! じゃあ『バベル九朔』は?」

宮田「あ! それ知ってます! ジャニーズの…あ、元ジャニーズか。あれ? ジャニーズって言っていいんでしたっけ?」

真田「言っても大丈夫だと思うよ」

宮田「そうですよね、大丈夫ですよね。元ジャニーズの菊池…あ、元ジャニーズって言うとジャニーズ辞めた人みたいになっちゃうか。Sexy Zoneの菊池君主演のドラマですよね? へーあれの原作が万城目先生なんですね~。『バベル九朔』の万城目先生。覚えました!」

真田「まぁ…うん」

宮田「どうしました?」

真田「『バベル九朔』はあんまり好きじゃないから、それで覚えられるのもなんだかなぁと思って」

宮田「じゃあなにで覚えるのがいいですか?」

真田「うわっ! そういわれると難しいけど…やっぱり『鴨川ホルモー』かな?」

宮田「『鴨川ホルモー』の万城目先生。覚えました!」

真田「ほんとかなぁ」

宮田「で、その万城目先生がなんでしたっけ?」

真田「いや、万城目先生を見習って、ワクワクする物語を作りたいよねって話。でもあんまり見習いすぎるのもよくないよね。最近、万城目先生の模倣品みたいになってるような気がして。気を付けないと」

宮田「そうですね。先生には先生のカラーがありますから。あ、そうだ。SNSに新作の評判を色々と書いてる人がいますが、SNSに匿名で発信するような度胸のない、えーっと…諸行無常…? な…」

真田「有象無象のことかな? 諸行無常だと、祇園精舎の鐘の音が聞こえてきちゃうかな」

宮田「そう! それです! 有象無象なやつらの言うことなんて気にしないでください! 先生の作品にはちゃんと応援してくれている人もいるんですから。ぶれないように」

真田「え? はぁ…」


宮田、時計に目をやると思っていたより時間が経っていてはっとする


宮田「いけないもうこんな時間! この後打ち合わせがあるので、今日のところはこの辺で! お邪魔しました!」


去っていく宮田


真田、SNSでの評価が気になり始め、スマホでエゴサーチを始める

以下、SNSでの投稿

「愛もなく情熱もない、歴史を捏造した駄作」

「待ちに待った真田先生の新作、読んでみたけど思ってたほどだったなー」

「新規性、独創性がなさすぎる。どこかでよく見る作品でしかない」

「歴史を取り扱ってる割には、下調べが不足しているのか、史実にそぐわないことが多すぎる。自分に影響力があるということをよく考えて書いて欲しい」

「コメディ要素が多いけど、そのお笑いの部分が滑りまくってて冷めた」

「読み終わって、ネタバレサイトを見て、あぁこのネタ元ネタがあったのね。と思うことが多かった」

「オリジナリティをだそうとしてるんだろうけど、方向性がわけわからな過ぎて新規の自分はついていけなかった。もっと大衆に合わせないと賞を取るのは無理だと思う」


SNSでの投稿終わり

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