会いが恋呼ぶ*サンセット~転校生として来たのは、美少女に成長した幼馴染でした~

@Nier_o

第1話 異性の友達は貴重である

日差しが雲一つない晴天の空から照り付けてくる4月の朝。

始業式も終わり、入学式も終わり――本格的に学校が始まる頃。


普段空を見上げる事なんてしない俺は、珍しくどこまでも澄み渡るような青を眺めながら学校までの道のりを歩んでいた。


まだ冷たい風が頬を撫でるかのように吹く。

何故だろうか……少しだけ懐かしい気持ちが心に芽生えてくる。


――――高校に入学してから早一年。

入学したての頃は新しい環境だとか、新しい友達だとか……それでもって彼女なんかりも出来たりして……と期待で胸を膨らませていたが、いざ直面した現実はとても色恋沙汰とは縁がない生活だった。


……いや。別に、女子と会話出来ていない訳では断じてないんだが。

ただ、そうただ――俺という男が霞んでしまう程に、周りの男共が眩しすぎるだけなのだ。


「おっすーまなっち!おはようさん」

「いてっ」


挨拶とほぼ同時に肩をベシッと手のひらで叩かれる。

どうやら、この春の陽気で気分が浮かれてしまった人間が絡みに来たようだ。


「次やる時はもっと力加減をしっかりと調節してくません?ソフトタッチでさ?」

「あはは~めんごめんご☆」


絶対に反省していないと思われるようなふざけた態度で謝罪を述べてくるこの少女は千野海月せんのみつき

俺が通っている高校――南葉高等学校なんばこうとうがっこうで新しく出来た冗談抜きで唯一の友達であり、俺がなんの躊躇いもなく気楽に話せる女性だ。


――そんな彼女と交わした最初の会話は、とても思い出したくはないものだ。




▲▽▲▽▲




一年前の放課後。まだ高校生活も始まって日が浅い頃だった。

だというのに周りの人間を見渡せばもうグループが出来終わっており、順風満帆な高校生活をエンジョイする準備を着々と整え終わっていた。


……一方の俺はというと、悲しいかなどの輪にも入れず、それどころかクラスに馴染めているのかさえ良く分からないような状態だった。


高校生活も始まって日が浅いというのに、クラスに馴染めているのかわからんとか何を言ってるんだって思われるかもしれないけど、あの時の俺はそんな簡単な事にすら気づけずこのままじゃ空気同然のような存在になるんじゃないかと本気で焦っていた。


――――そんな時だった。


「何キョロキョロしてんの?」


俺の座っている席の後ろから、そんな疑問を投げかけてくる声が聞こえてきたのだ。


「え……?」


突如として投げかけられてきた言葉に、俺は困惑の声を上げながらその声の主の方向に振り向くと、そこにはこの学校のクリーム色の制服と黒のカーディガンを完璧に着こなし、艶やかな茶髪の先端に巻きを入れた髪型、年相応の風貌、琥珀そのものかと一瞬目を疑ってしまう程に綺麗な瞳をした女の子が居た。

――――それが、千野海月だったのだ。


「キャハハ☆うっける~。え……?って、バリ陰キャみたいじゃん」


なんて言いながら小悪魔のように人を嘲り笑う少女の笑みを受けて、俺は顔が真っ赤に染まるのを感じた。

こんな可愛い子に陰キャと真正面から言われて恥ずかしがらない人間なんて居ないだろう。


「あ、すみませんでした……。僕は空気なんで失礼します……」

「ちょ、待ってよ!そんなに落ち込む事かな!?てか空気ってなに!?」


ドンヨリとした空気を醸し出しながら肩を落として教室から去ろうとする俺を見て、慌てざまに海月が待ったをかけた。


「?何か用ですか?」


俺は振り返りざまにそう聞くと、海月が口角を上げて口を開く。


「君面白いじゃん、アタシと友達になんねー?」


その言葉を聞いた時、正直自分の耳を疑った。

だって他人、それも異性から直々にそんな申し出を受けたのは生まれてこの方初めてだったからだ。


てか普通、友達ってゲームのフレンド機能のように申請するものでなく、遊んだり助け合ったりして自然と仲が深まって初めてなれるものじゃないの?


「……マジすか?」


「いやマジマジ、大マジ。今までアタシさ、本当ザ・普通の子としか友達になってこなかったんだけどさ、そればっかりじゃ詰まんないじゃん?やっぱ一風変わった友達ほしーじゃん?」


「まるで俺が普通じゃない、一風変わった人間みたい言い方なんですけど???」


「そんなのご愛敬じゃーん、気にしない気にしない」


「話の大筋だった気がしますけど!?」


春は出会いの季節とはよく言ったものだろう。

春風が窓から入り込みカーテンが揺れ動く教室で、俺は今まで出会った事がない性格を持った女の子と友達になった。


「それじゃ自己紹介しよっか?アタシは千野海月。趣味はオシャレ全般と音楽を聴く事!君は?」


「俺は小黒真斗おぐろまなとです。趣味は――」


これが俺と海月の出会いだった。

最初こそ俺も丁寧に話していたが、この敬語が外れるまでそう長くはかからなかった。


どうにも、海月は俺にとって関わりやすい性格をしているようで、すぐに打ち解けられた。

そしてそれはどうやら海月も同じだったようで、どうにも俺とはウマが合うらしい。

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