第12話 関わる人々の決断……②
車を走らせてしばらくして目的地に着くと駐車場の前に雨湯児さんが見えた。
「こんにちは先輩!今日はよろしくお願いします!」と元気に挨拶してくる。
「はーい、そんじゃコンビニで飲み物買って行こうかね」
私が提案すると「はいはーい」と返事を返してきて私は車を進めた。
地元まで高速道路を使えば一時間ちょっとだ、その間この狭い空間に二人きりと言うのは何故か胸が騒つくのだ。
「先輩?どうかしましたか?」
この人はこう言う時によく見てくるのだ、言い訳を考えねば…
「いや、久しぶりに可愛い女の子を乗せてるから緊張してるだけ」
嘘ではない!
「あらー、どこに連れて行かれるのですかね私はー?」
すごく小悪魔的な笑みを浮かべ話しかけてくるのが分かる。
「はははは、まぁ誰かを乗せて走るのは久しぶりと言うのはホントだから」
軽く笑い受け流す。
「ふふふ、そうですか。そう言えば先輩、今日の服装はまともなんですね」
やっぱり言われたか、けど実際には露出の少ないこの格好が私には特別なのだ。
「いや、そんな事ないよ。この格好が異常なんだよ」
「えー…じゃあ今度普段着の時にお腹触ってもいいですかー」
指を動かしながら訊いてくる雨湯児さんに笑いそうになるのを堪える。
「触ったら私も触らしてもらうけどそれでもいいならどうぞ?」
ここは押し切られるとめんどくさいからね!いや大したことはないんだけど。
「ううっ、私のお腹は……太ってるつもりはないのですが見せるほどの自信はないですね!!」
しょうもない話をしてたらコンビニへ着く。
二人でお菓子と飲み物を買い再び走りだす。
今日の雨湯児さんの前髪は赤と青に左右で分けられている。
「今日の髪色は何か意味があったりする?」
尋ねてみる。
「お、気づきましたか!今日の色は先輩が青色を入れてるので片方は青色にしてもう片方はデリス先輩が赤色にしてたと言うので…」
少し雨湯児さんは遠くを見てる。
「二人とも私に大きな影響を与えてくれた先輩達ですから」
そう答えてくれたが、ファスはともかく私は学生時代関わっていない。一ヶ月の間にそんな影響を与えたつもりはないのだが。
「そうなんだ、私まで考えてるなんてね」
少し笑って私は返事をする
「先輩、訊いてもいいでしょうか、答えたくなかったらそれでもいいので」
少し改まって訊いてくる雨湯児さんを横目で見て赤信号で止まる、こう言う時はよからぬことを訊いてくると相場が決まってる。
「分かった、なにかな?」
「私は人を好きなった事がないのですが、先輩はいつからその、女性に意識が向くようになったのですか?」
やっぱり私の事を知ったら気になるよね。どうしたものかと考える。
雨湯児さんは人を好きになった事がないと言った。
信号が青に変わりアクセルを踏み込む。
「中学生の時から違和感があったよ、雨湯児さんは一度も人を好きになった事はないの?」
質問で最後を返す。
「そうですね、ないですね…。夜月先輩の事また教えてください」
気が向いたらねと私は返事をし暫く無言が続いた。
しばらく走り地元に近づいたところで雨湯児さんが沈黙を破った。
「迷惑でなければ帰りに私の実家に寄って貰えませんか?母に会っておきたいのですが」
少し申し訳なさそうに口を開くのが分かる、寄り道するのは全く問題ない。
「うん、いいよー」
「先輩の実家は行かないのですか?」
まぁ、疑問に思うのも無理はないだろう。地元は同じなのだから。
「連絡したら今いないから誰もいないってさ」
少し思い出し笑いをした、『ごめーん、今いないのー』って言うあの言い方に。
私の両親は中学生の時に離れて暮らすことになったのだ、ただ夫婦仲は良好だ。
「そうなんですね、では帰りに寄ってください。先輩は親と仲はいいのですか?」
余程気になるのだろうか、私の事を知りたがってる。雨湯児さんはそう言う性分なのだろうか。
「うん、両親共々仲良いと思うよ。みんな自由人だったよ」
少し懐かしい。
「へー、そうなんですね。いつか会ってみたいです!」
私の親にまで興味が向かってるようだ。一体なぜそこまで私に興味があるのか。
「ははは、そこまでの関係になれたらね」
「えぇー、仲良くしましょうよ先輩ー」
少しだけ車内が和んだところで市内に入って行く。
少しずつ私の気持ちは緊張を持っていく。
「先輩、大丈夫ですよ。役には立ちませんが私もいますから」
後輩から気を遣われるのはなんだかこそばゆいが…
「そうだね、まあ、大丈夫だよ」
さらに市内を進み街路時に入る。
懐かしい景色に迎えられ、自宅前を通り過ぎる。
「今の家が私の実家」
サラッと私が言うと。
「え!どれです!どれですか!!」
雨湯児さんは振り返る。どんだけ見たいのですか!
「ははは、ホント雨湯児さん面白いね」
少し緊張も解けたようだ。
もう!と雨湯児さんは抗議してきたが、私は笑って流した。
もう少し走ったらファスの実家だ。
もし、母の言う通りのドイツに帰るとなっても私の中に彼女は居る。大丈夫。大丈夫。
もう直ぐ答えが分かることに気持ちが焦るが、安全運転で目的地に向かった。
「先輩、大丈夫ですか?」
私は頷き眼前にファスの実家を捉えた。
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