第11話 関わる人々の決断……①
「まったくもう、変な人と関わる事になっちゃったじゃない」
自宅の玄関に入りファスの写真に語りかける。
「別に嫌とかではないんだけどなんか抱えすぎてる感じがして対応に困っちゃう、とんでもない後輩に関わってたんじゃない?」
変に関わって距離感がおかしくなっても居心地が悪い。
それにどんな言葉が引き金になって情緒がおかしくなっても責任は取れない。首吊り自殺した人の家ではロープの話はするなと言う諺があるくるらいだ。
「誰にだって話題に出して欲しくない事は幾らでもある」
私は思考を明日の事に切り替える。
ファスの両親に会う、伝えたい事は何か。
「ファスの部屋から変なものが見つかったーとかなら笑えるんだけど、そんな雰囲気じゃないよね…うーん」
考えたところで正解は明日まで分からない。
「あー、緊張する。そうだな、地元に帰るなら私の実家にも顔を出そうかな」
そう思うやいなやスマホから母の項目を出し電話をかける。
少し遅い時間だけど大丈夫だろう。
「はいはーい、どうしたのー紗凪」
何回かのコール音の後に母が出てきた。
「お久しー、明日さ、ファスの両親のとこに行く事になったんだけどさ、そっちにも行ってもいい?」
なんだかんだで久しぶりの会話だ。
「ごめーん、今ねー、お父さんのところにいるから明日は居ないのよ。誰もいないけど好きに帰ってもいいから」
そうか、今はお父さんと弟のところにいるのか。
「そっかー、それならいいや。またの機会にするよ」
「風炎さんから何か来たの?」と母が投げかけてくる。
「いや、私が行きたいって言ったらちょうど伝えたい事あるからってなったの」
そう言うと母は少し考えて口を開いた。
「そうなんだー、風炎さんたちは息子さんがドイツに居たよね?もしかしたらドイツに行くのかな」
そうか、その可能性もあるのか。ファスの弟くんはドイツの学校に行ってる、9月から大学生か。
「もしそうならかなり寂しいな…」
「そうねー、でも貴女しか知らないデリスちゃんは貴女の中でしか存在しないのよ。大丈夫よ」
それもそうと思うしかないか。
「うん、ありがとう。皆んなによろしく!」
「はーい、また電話してね」
私は返事をして通話を切る。
再び部屋が静かになる。
ホントにお母さんの言う通りになってしまったらどうしよう。
スマホのカレンダーを開き日付を確認する。気付けばもう6月の終わりに差し掛かる。
「速いなー、一日一日が本当に速いよ」
日付だけ進んで私が取り残され過去に生きる人みたいになりそうだ。
「シャワー浴びて寝よう」
時刻は22:30
頭に当たるお湯が心地いい。
全身が弛緩し疲れていた事を思い知らされる。
「はー、緊張してるなぁ」
私はファスの病変に気付かなかった、違和感はあったのに強く病院に行くよう言わなかった。
「もっと早くに病院に行ってたら命は助かったかもしれないのに」
考えだしたら止まらない。
『先輩は自殺とかしようとしなかったのですか?』
「!!」
今日言われた事が彼女の顔と共に思い出される。
「追いかけたかったに決まってるじゃん!私みたいな人間をあんなに包み込んでくれた人なんだから」
あの子は一体なんなんだろう、なんでこんなに思考が乱されるのか。
「はー、今日はもう寝よう」
身支度を済ませてベッドに潜り込む。
三、四ヶ月ぐらい前まではファスと一緒に寝てたのに今は一人。
今だに一人で寝るのが寂しくて辛い。
「一人ってほんと慣れない」
高校を卒業してからずっと二人で居たから一人暮らしはまだ二ヶ月になるかならないか…
雨湯児さんはよく一人暮らししてるよな…
「あの子は変わってると思うわ」
私のスマホが鳴る。
手に取り見ると雨湯児さんからのメッセージだった。
『今日は楽しかったです!また明日よろしくお願いします!おやすみなさい』
「タイミング良すぎて怖いわ」
雨湯児さんが頭に浮かんだらメールが来るのは軽いホラーな気が……
こちらこそありがとう、また明日ね、と返して私は眠りについた。
翌朝はいつもより遅めに目が覚めた。
「はぁぁあ」っと一つ伸びる。
「さて、ご飯食べよう」
私はいつものメニューに取り掛かる。
「今日の紅茶はっと、んーー、白桃にしよう」
パンをトーストして苺ジャムにバターを準備してテーブルへ行くとスマホに通知が来た。
雨湯児さんからだった。
『おはようございます!13時に家の前で待ってます!』
おはよう、了解なり、と返信して朝ごはんを食べる。
タブレットで登録してるチャンネルの動画を流し時間が過ぎていく。
さすがにいつもの格好で行くのは何処か気が引けたのでシャツを着てボタンを留める。
「今日はこれでいいかな、掃除してたらなんだかんだでいい時間だね」
私はバッグを手に取り玄関へ。
「ファス、会いに行くね」
おそらく納骨は来月だろう、火葬されたファスは実家にある。
雨湯児さんに家を出ることを連絡して車に乗り込む。
「ふー、雨湯児さんと二人か。なんか緊張するな」
音量を少し上げて雨湯児さんのアパートに車を走らせた。
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