第9話 変わりゆく何か…③

 気付けばもう金曜の午後だ。

 月曜日から毎日仕事をして家で好きな事をしてたらもう金曜日だ。充実しているとも言えるし、ただ明日の事が楽しみなのか…不安なのか…


「これで今日の分のデータは整理して必要な部署別に分てますので確認お願いします」

 自分の分の仕事をこなして部長に声をかける。

「あい、お疲れ様、今日はもう時間が来たら帰っていいよ。最近は少し顔色が良くなったね」

 部長が私の顔を見て少し微笑んで答えた。


 そういえば部長の顔…細くなったかな?聞いてみよう。

「気にかけていただきありがとうございます。ところで部長、すこし顔が細くなりました?」

 素直に感じたことを投げかける。

「よくぞ気づいてくれた!そうなんだよ!ダイエットを妻と協力して始めたんだよ。やーっと気づいてくれたか!」

 部長は両手を机につき前のめりでそう吠えた。


「そ、そうなんですね、頑張ってくださいお疲れ様でした失礼します!」

 私は口早に言い部屋を出る。

「あ、ちょ!苦労話ぐらい聞いてー」

 部長が呼び止めるも「はーい邪魔しなーい」と百瀬さんが割って入り私に対して「お疲れ様ーー」と言いウインクしてくれた。


 従業員玄関から出たところで雨湯児さんと会った。

「夜月先輩!お疲れ様です!」

 元気に挨拶してくれた、いつ見ても元気な人だ。

「うん、お疲れ様。気付けば明日になったね」

 当然明日とはファスの実家の事である。

「はい、よろしくお願いします!しっかりガソリン代は持たせていただきます!!」

 元気に敬礼をしありがたい言葉をいただく…一つ訂正しないといけないことがあるが。

「ふふ、ありがとう。でもね雨湯児さん。私の車は軽油なの」

 そう、私の車はディーゼル車なのだ。ガソリン車タイプとディーゼル車タイプを試乗した時に私の感覚にぴったりだったのがこの車だ。初期費用は高かったけどね!

「トラックできてたんですか!?」

 雨湯児さんは驚いてる。

「普通車よ、軽油だから燃料費は安く済むわ」

 長距離走るとさらに燃費もいいからお得かんがある。

「へー、そう言えば最近はディーゼル車が人気ーみたいなニュース見た事ありますね」

 思い出すような仕草をして雨湯児さんは呟く。

「そうそう、昔は色々煙やらなんやらでいい話はなかったけど、今は排ガスも綺麗なんだよ」

 実際昔の東京とかは光化学スモッグやらなんやら大変だったと授業でやっていたのを覚えてる。

「そうなんですね、気にした事なかったのでしらないですねー。車ほしいなぁ」

 ため息混じりに言う雨湯児さんが微笑ましい。

「あ、そうだ先輩!今晩は私の家でご飯食べませんか?家の場所も実際に確認したら明日も迷うこともないでしょうし!」

 雨湯児さんが両手を合わせて提案してきた。確かにその方がお互い安心できるだろう。

「分かった、何買ってく?」と訪ねる。

「私の家の近くに美味しいお弁当屋があるのでそこにしましょう。メニューはこんな感じです」

 とメニューを見せてきてくれた。どれも美味しそうだ。

「うーん、じゃあ私はレバニラ炒めにしよう」

 久しくレバニラを食べてないし美味しそうだった、雨湯児さんは酢豚にしていた。

 雨湯児さんが電話で注文してくれて後は取りに行くだけ。

「それじゃ先輩、行きますね!後ほどお弁当屋さんで!」

 そう言い駐輪場へ走って行った。

「よし、私も行きますか」

 自分の車に乗り待ち合わせのお弁当屋に行く。

 帰宅時間だけあって道は混んでてなんだかんだで雨湯児さんとほぼ同時にお弁当屋に着いた。

 「なんだかんだで一緒でしたね!さ、買って帰りますか」

 うん、と答え会計を済ました。

「それじゃ付いてきてくださいねー」

 そう言い先導して10分ほど走り雨湯児さんのアパートに着く。

 私は近くのコインパーキングに車を停めて彼女の部屋に招かれる。

「何もない部屋ですけどどうぞー」

「お邪魔しまーす」


 彼女の部屋はワンルームの一人暮らし用の部屋だ。

 部屋は綺麗に整理整頓されて…。


 玄関を入るとトイレと脱衣所があり洗濯機がある。扉を開けて入ると綺麗なキッチンと最低限の食器。ベッドが一つに少し広い台が一つある。

「誰かとこの部屋で食べるの先輩が初めてです!」

 と少し嬉しそうだ。

「そうなんだ、私も誰かの家で食べるのは初めてかも、ずっとファスと一緒に食べてたからね」

 確かに友達とか同僚とか誰かの家で食べるのは初めてだ、色々気にしてしまう。

「先輩はどうぞくつろいでください、飲み物出しますね」

 雨湯児さんがコップを二つとペットボトルのお茶を出してくれた。

「先輩は何か気になるのですか?」

「え?あぁ、人の部屋にいるのはホント久しぶりでね、ちょっと緊張してる」

「そうなんですね、先輩かわいいですね」と笑いながらお茶を入れてくれた。

「ありがとう、それじゃ」と食べる用意をして二人合わせて「「いただきます」」と言い食べはじめる。

 私が緊張してるのは正直、女の子と二人きりの状況とこの部屋の状況のせいだ。

 女の子の部屋なのに…この人の部屋は『何もない』のだ…テレビもなく可愛い家具もなくぬいぐるみの類もなくカーテンも柄もない黒色。

 飾り気もないベッドにごく普通の台が置いてあるだけ。

 クローゼットには何か女の子らしい可愛いものとかあるかもしれないけど生活感がない部屋だ。

 そんな生活空間にいる雨湯児飛燕と言う子は住んでる…

 この子は一体…どんな子なんだろう……

 私は雨湯児さんに興味を持ち始めていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る