第5話 ………気付かない侵食……②
久しぶりに人の温かさを感じた、私の手を握る彼女の手は温かい。
私は元々手足は冷えてる方で冬場になったらそれはもうキンキンに冷えた手になる、その手をよくファスの体に当てて手を温めていた。
当然だけど怒られるがとても楽しかったのを覚えてる、抱きついて、匂いを嗅いで全身で彼女の暖かさを感じていた…
今、私の手を握ってる彼女の手は温かい。
私の手は久しぶりに誰かに握られている。
最後に握られてたのは………
そう、ファスが亡くなった後の葬式に出席した時に私の母と彼女の両親に抱き合い泣いてた時だ。
彼女がこの世を旅立ってから私の見ている世界は色を失い灰色に感じていた、もちろん色は認識できる、でもそれだけになってしまった…
暖かい色、冷たい色、優しい色、鮮やかな色、華やかな色。
それらの色が何も感じなって灰色のフィルターを通したように見えていた。
このショッピングモールもファスと何度も訪れている。
声が蘇ってくる。
「今日は何から見る?因みに私は2階のあの服屋だな、後は…ゲーム屋と宝石店も見たいな、紗凪は?」
にこやかに私に振ってくる、その時の顔も声も本当に心地よく一緒にいるだけで本当に満足してしまう。
「私も服と輸入食品店と紅茶の専門店に行きたいな」
この時間限定の茶葉を手に入れなければならない!
「Gut!じゃあ2階からだ!」
私の手を強く握ってエスカレーターに向かっていく。
あぁ、とても輝いてた、視界も私も輝いてた。
私の手を握っている雨湯児さんの手は温かい、その温かさが私の中まで届いていく錯覚に陥る。
「あれ…」声が漏れる。
「ん?先輩どう…したんですか?」
世界が眩しい、人の声が聞こえる、ガヤが聞こえる、華やかな世界がまた私を包み込んでいた。
「ううん、なんでもない」
私は笑えていただろうか。
「先輩、少しは楽しめてますね、良かった良かった、さ!服屋から行きましょう」
「え、あ、うん、行こうか」
あれ?この子はこんなに綺麗に見えてたかな?ここに来た時は可愛いぐらいだったのに。
「先輩にはまともな服を着てもらわないといけませんし!」
なぜ強気に言うのだろうか。
「捕まった事ないからこの服も立派なまともだよ」
私は少し反論する、続いて提案を。
「それなら雨湯児さんが私と同じコーデにする?似合うと思うよー」
私はニッコニコに言った。
「無理です無理です私にはその格好は無理ですー」
首を振りながら拒否をする。
「それに!先輩がその服装で変な人が寄ってきたら面倒じゃないですか!」
そう私の心配をしていた、まぁ確かに声をかけられたことはある、けども大体つまらない男ばかりだったけども。
「はいはい、行きましょうねー」
私は離れた雨湯児さんの手を引きエスカレーターに向かった。
「あっ…先輩……ふふふっ」
彼女『も』楽しそうだ。
私も楽しい…のだろうか、それとも……
何処か強引な雨湯児さんをファスと重ねてしまってるのだろうか…
ううん、今は折角の機会を無駄にはしたくないから…幸せに生きると言う彼女の願いも忘れてはいない。
けど、私は…本当に楽しんでていいのだろうか…
「せーんぱい、ここですよ、夏物いっぱいです!これとか先輩どうですか!?」
私の抜け出せぬ思考から呼び覚ましたのは雨湯児さんの声だった。
爽やかな青を基調としたワンピースを私に当ててくる。
「私よりそれは雨湯児さんが似合いそうだよ、私にはそんだけ布面積があったら重いわ」
服を手を取り彼女に合わせる…可愛い……
「先輩それは何処の星の人ですか、ケレスに住んでましたか?」と笑って言ってくる。
ケレスを知っているとは中々の天体マニア…なのか。
「いや、実は」と私はフリを作り。
「じ、実は?!」と乗ってくる。
「イアペトゥス人なんです!」と告白した
「どっせーい!」と驚いた雨湯児さん、ノリが良くて面白い。
「あははは、どっせーいって」やばいツボった、お店の中なのにツボった。
「先輩、なかなか天文学に足を突っ込んでますね、せっかくですからこの服は買って帰りましょう、似合ってるようですし!」
「うん、似合ってるよ、私はこのツバの広い帽子買おうっと」
それいいですね!っと2人で楽しんで会計をすまして次の店へ。
「ふふ、先輩可愛いですね」と小さな声が聞こえたような気がした。
「ん?どうかした?」と聞こうとしたら
「さ!次は紅茶を買いに行きましょう!」
そう言い私の手を取り歩き出した。
もしかして無意識に行きたい場所口に出してたのか…危ない危ない…
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