第十話 武器選定会

 黒い円を通過した瞬間、肌で感じる室温が少し上がった為か別の場所に移動した事が分かった。


(ここがオーチュ首都の武協本部か…)


 武器選定会の期間だからか、ゲートポータルの部屋にも家族連れが何組か見える。

 父に手を引かれ部屋を出たら近くにあった受付に向かった。



「選定会参加希望です」


 父が受付にいた人間族の若い男性に言った。


「はい、ではこちらの端末に必要事項をご入力下さい」


 軽くお礼を言って黙々と父が端末を触っている。

 まるでタブレットにスマホのフリック入力をしている様な手の動きだ。

 しばらくしたら入力を終えた父が端末を受付の男性に渡した。


「これでお願いします」

「かしこまりました、確認いたしますね」


 受付のヒトが端末を黙って確認し、


「いつもご利用有難うございます、ベッコウ様。

 本日のご予算はお決めでしょうか?」


 さすが父、大鎌脳筋戦法が好きなだけあって武協との付き合いは良好の様だ。


「予算は特に決めてないのでこいつとの相性を最優先に考えてます」


(出た!安定の親バカ。

 いや、嬉しいけどさ…ガードナーってそんなに儲かるの…?

 心配になる…)


「父さん無理はしなくていいからね、俺には魔法もあるし…」

「ん?子供は親の心配なんかするんじゃねぇよ。

 もしお前が鎌と相性良かったら父さんも嬉しいしな!」

「う、うん…」


(そうか、鎌が俺を選ぶ可能性もあった…

 それは想定外だった…

 まぁそうなったらそうなったで覚悟を決めて厨二親子として仲良く父さんと庭で素振りをするか…)


「かしこまりました。

 それではベッコウ様、奥の扉から会場へお進み下さい」


 そう言われると俺と父は軽く会釈をして扉を開け、人口密度が上がりさらに少し室温が上がった広い部屋に入った。



 その広い部屋には壁一面、所狭しと色んな武器が飾られており、何個か置かれた即席カウンターの様な物の前に家族連れが列をなしていた。

 順番待ちをしている間は終始、選定の結果に一喜一憂しているのか、色んな感情の声があちらこちらから聞こえた。

 しばらくしてやっと俺達の順番が来て、


「こちらへ!ようこそ!いらっしゃい!」


 絵に書いた様な武器屋っぽい、スキンヘッドで体格のいい人間族のおじさんが手招きをした。


「じゃあさっそく簡単に説明するぞ!

 この端末に坊っちゃんが両手をかざしたら体内に魔力を通して、坊っちゃんの魔力と筋力が測定される。

 で、そこから成長後の魔力と筋力が計算されて相性のいい武器とこの端末が共鳴するって訳だ!」


(何か思っていたよりすごいな…

 成長後の予測は統計学でも参考にしているのか…?)


「分かりました、有難うございます。

 ではこれに両手をかざせばいいんですね?」


 そう言ってまずは父の顔を見たら父は黙って頷いた。


「そうだ!じゃあやってみようか!」


 武器屋の親父っぽいヒトに促されたので俺は両手をかざした。


 ピリッ


 電気の様なナニかが体を駆け巡った。

 その瞬間、


『儂はここや!』


 何か聞き覚えがある声が頭の中に響いてきた。

 振り返って父を見たが「ん?」と言いそうな顔でキョトンとしている。

 少ししたら端末が成長後の予測を終えたのか、


 フォンッフォンッ


 と何かに共鳴しだした。


「よし、武器が決まった様だな。

 どの武器になったのか…?」


 武器屋の親父さんがそう言うと立ち上がってキョロキョロしだした。


『儂はここや!』


 また声が聞こえた。


『ここやって!自分から見たら右手の壁の一番上におるわ!』

「あの…もしかしたらあの壁の一番上に武器があるかもです…」


 俺はそう言って右手の壁の一番上を指差した。

 すると少し不思議そうな顔をしながら、


「お、そうか?

 じゃあ取って来るから少し待っていてくれるか!」


 そう言うと武器屋の親父さんは端末を持って走って行き、少ししたら人の頭ぐらいの大きさの立派な箱を持って帰ってきた。


「確かに、これと共鳴してるな!

 これはたぶん竜人族の武協が提供した物だな!

 しかし箱にある紋章は竜人族の王室が使う紋章だった気がするが…」


 そう言うと親父さんは首を傾げながら箱をこちらに向けてゆっくりと開けた。

 中には拳大の水晶に似た玉が入っていた。


『五年ぶりやな!儂が誰か分かるか!?』


(この関西弁…絶対にあいつだ…)


 転生前に会った光る玉を思い出した。


(冗談で、「これはやめときます」って言ってみるのも面白そうだが…)


「玉が武器っていうのも何か変わってるね」

「俺もこんな武器見た事ないなぁ…

 鎌に変えてもらうか?」


(きっと冗談ではなく本気で言ってそうなので早くこれに決めなきゃ…)


「いや、俺魔法を使えるから闇と風併用してこれを武器として使いこなしてみるよ!

 刃物だと殺傷力高そうでちょっと怖いし…」

「まぁ確かに安全そうな武器ではあるな!

 じゃあ親父、これを買わせてもらうよ!」

「有難うございます、こちらがお買上げ金額であります!」


 会計になったら親父さんも精一杯の敬語を使う様だ…

 金額が表示されているだろう端末に父がいつものタグを当てて決済が終わった様だ。


「父さん有難う」


 そう言って俺は父の足に抱きついた。


「有難うございました。選定会は以上であります!

 帰りに再度受付に寄ってもらって坊っちゃんの武器所持許可証だけ発行してもらって下さい!」


 俺と父はお礼を言い、玉が煩かったので箱をガッチリ閉め、許可証を発行してから会場を後にした。

 その後は、疲れたので寄り道等する事もなく、来た時と同じルートで家路に着いた。

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