第九話 首都へのお出掛け
五才になった。
あれから、ダンサとリハマはほぼ毎日の様に俺の家に来て三人で魔法の練習をしている。
今はもう二人共当然の様に全属性初級魔法は使いこなせる様になったので、三人一緒であれば町の外に出てもいい許可をもらい、多属性や適性属性の練習をする事が多い。
俺のゲートも、目視距離なら思い描いた出入り口ポイントにヒト一人が充分通れる大きさで発動できる様になった。
こうして、三人で練習をしながらお喋りしていると互いの家族内会話を聞く事が増えたので最近分かった事がある。
この世界のヒトは大半が全属性初級魔法は使う事ができ、普段の生活はそれを前提に成り立っている。
もちろん、ヒトに寄って魔力量が違う為、俺が以前勝手に命名したプロパン魔石等で補助をしてもらう場面も多い。
ただ、大半のヒトが生活魔法として各初級魔法を扱うが、攻撃性や汎用性を高める為の多属性併用は子供の頃から訓練しないとできない為扱えない人が多いらしい。
事実、ダンサとリハマの親は単一でしか使えない様だ。
俺の父は一応併用できるが、闇適性が高い為中級の部分重力操作等で身体強化魔法を中心とした脳筋戦法を取っている。
きっとどうしても大鎌を使いたいのだろう…
そんな魔法がある世界でこの国は多種族共存で永世中立を謳っているが、地球同様、平和や安全は言うだけで簡単に成立はしない。
多種族共存は同族争いへの忌避感で他国からの侵略を防ぐ、すごく悪い言い方をすれば人質に近い存在なのかもしれないが、それだけでは弱いので武力も当然備えている。
とはいえ、基本的には日本の専守防衛に近い考え方で、防御結界と反撃がメインだ。
「俺、サンノに魔法教えてもらってさ、将来はこの魔法を使って大好きな人が一杯いるこの町を守りたいって思うんだ!」
練習を中断し、三人でお弁当を食べている途中ダンサが誇らしげに言った。
「私は…誰かを傷付けるのは嫌だけどこうやって皆が楽しく暮らせる為の結界を作れる様になりたい!」
「じゃあ二人共将来はこの国の軍に入りたいって事?」
「おう!俺は町の中でも外でもいいから悪い奴らをやっつけたい!」
ちなみに、この国は国内の取締りをする警察組織も軍が行っている。
いわゆる、軍警察だ。
「私も軍に入って結界を張るお仕事をしたい!」
「サンノも一緒に軍に入ろうぜ!
サンノはすごいから軍のトップになれるだろ!」
何もすごくない、だって俺、脳筋種族と言われる竜人族だし…
それに、
「誘ってくれるのは嬉しいけど、実は俺、大人になったらこの町を出て自由気ままに世界を旅してみたいんだ…」
「おぉ、それも楽しそうだな!
やっぱ軍はやめて俺もサンノと一緒に行っていいか?」
「私も…」
リハマが言い掛けたところで俺は首を横に振った。
「どんな危険があるか分からないし、帰る地元があるってのは俺の大きな心の支えになるから二人にはこの場所を守ってほしいんだ…
例え、軍に入らなかったとしても、ここに二人がいるという事だけで安心するから…」
これは本心だ。
前世でも地元を離れ、都会で働いていたが、安息を求めて帰れる地元の存在は大きかった。
「でも…」
リハマが何か言いたそうだが諦めて下を向いた。
「ま、まぁまだ大人になるまで時間があるからそれまでにサンノの気が変わるかもだしな!」
そう言いながらダンサはリハマの肩に手を置いた。
(ダンサ、ナイスフォロー!)
願わくば将来はこの子達二人で幸せな家庭を築いてほしい。
将来の話しは一旦保留になったが、五才になると一つ、大きなイベントがある。
全国の武器製造業協同組合、通称『武協』主催の武器選定会という催しだ。
簡単に言うと、鍛冶ギルドの様な武器造り職人の集合体組織があり、そこが参加者に相性のいい武器を見繕って売る展示即売会の様なものだ。
もちろん、この催し以外の時も武器は買えるし、それぞれの国にも武協支部があり他国でも同様の会はあるが、武協本部があるこの国の会は盛大らしい。
その為、ただの通過儀礼の一つなのにこの時期になると他国からわざわざやって来る者も多く、しかもそこまでする親のほとんどは財力の誇示や親バカを全力発動させて惜しみなく高額武器を買っていく。
当然、武協もそれを見越して全国から選りすぐりの武器をこの国に集めている。
そんなこんなの大人の事情は置いておいて、ヨソの家の事は気にせず俺も父と武器選定会へ行く事にした。
この催しは当然ながら親の同伴が必須の為、今日はダンサ、リハマとは別行動だ。
会場は住んでいる町ダクツではなく、オーチュ国の首都にあるので町にあるゲートポータルから首都に移動する。
(初めてのゲートポータル楽しみだ…)
父と家を出ると門扉の所に人力車タクシーと、牽引者であろう獣人の男性がいた。
「宜しくお願いします」
家の前に迎車してもらった獣人男性に父が言った。
「はい、伺ってます、ゲートポータルまでですよね?」
どうやら配車予約の時既に目的地も伝えていた様だ。
タクシーに乗りしばらくしたら白い神殿の様な建物の前に着いた。
タクシーを降りる時、父はネックレスに付いている名刺ぐらいの大きさのタグをかざしていた。
(この世界のタッチ決済の様なものなのか?)
中に入ると正面に受付、周囲には番号が書かれた扉が何枚が見える。
俺が興味津々に周りをキョロキョロ見渡していたら父が俺の手を引いて受付に近付いた。
「オーチュ首都の武協本部までお願いします」
「はい、首都の武協本部ですね?
大人お一人と子供料金のお子様お一人で宜しいですか?」
人間族の綺麗なお姉さんがそう言いながら少し俺に微笑んでくれた。
父も綺麗なお姉さんを見てテンション上がったのか、
「はい、それでお願いします!」
と同時に俺を見るフリをして少し下向き斜め四十五度でキメ顔をしている。
当然、お姉さんは華麗にスルーし、
「有難うございます、では合計一万【トート】になります」
後から聞いた話しでは、この世界は言語だけでなく通貨も世界共通でトートらしい。
金融商品は不動産以外詳しくないので為替がないのはいい事なのか残念なのか分からないが、他国に行く時両替等が必要ないのは異世界ヒャッホーだ。
「はい、ではこれで」
そう言うと父は少し色っぽくネックレスを手繰り寄せてタグを出した。
そしてお姉さんは俺の期待を裏切らず、完全スルーしてタブレットの様な物をタグに近付けた。
フォンッ
と何かが共鳴する様な音が鳴ったら決済終了の合図なのか父はタグを首から掛け直した。
「では四番の扉の前でお名前を呼ばれるまでお待ち下さい。
有難うございました」
そう言うとお姉さんはやっと解放されて安心したのか満面の笑みで四番扉を手の平で案内してくれた。
俺と父は軽く会釈してその場を離れ、番号が書かれた扉の前に並べられている椅子に座った。
少ししたら扉の中から父の名前が呼ばれたので扉を開けて中に入ると三人の人間族の男性がいた。
三人は魔法士の様で、どうやら三人でゲートを開いてくれる様だ。
その内の一人が、
「首都の武協本部にお二人でお間違えないですね?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました。では」
「「「ゲート」」」
三人が声を合わせてゲートと言ったら普段俺が一人で発動させるゲートより少し大きな黒い円ができた。
「さ、どうぞ」
俺と父は再び軽く会釈をしてゲートを潜った。
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