第八話 魔法を教え、失くしていた童心を教わる

 数分が経った。



 庭から門扉の方を見て待っていると嬉しそうに手を振りながら走って来るダンサが見えた。

 聞かなくても結果は分かる、俺に魔法を教わってもいい許可をバタンさんにもらったのだろう。


「お待たせ!大丈夫だった!」


 肩で息をしながら親指を立てている。

 この国でもオッケーサインはサムズアップをする様だ。


「良かった!じゃあまずは基本六属性の勉強からしようか!」

「「はーい」」


 二人共元気に手を挙げて返事が重なった。



 俺はまず、魔法の基本的な事や危険性を教え、続いて、属性単一だと生活魔法程度にしかならない事、攻撃性を高めるには全属性を並行して練習する必要がある事等を説明した。


「その上で、二人は魔法で何をしたい?」


 俺はまず二人が目指すゴールを聞いた。

 戦闘でも使える様になりたいなら俺と同じ様に全属性並行して練習する必要があるし、戦闘を考えていないならそこまでしなくてもいいからだ。


「俺は…やっぱ男だし父ちゃん母ちゃんや仲間を守れるぐらい強くなりたい!」


 俺は少しだけ小さく頷いた。


「私は…」


 少し間があいた。


「私は、戦うのは怖いけど魔法の事もっと色々知りたい…

 それに…」


 また少し間があいてモジモジしながら、


「それに、せっかくできた友達だからサンノ君やダンサともっと一緒にいたい…」


 やってしまった…

 こんな四才の女の子に何て可哀想な羞恥プレイを強要してしまったんだ…


(ごめん、リハマちゃん…ついでにジヒメさん…)


「い、いや、俺達もう友達なんだから別に無理はしなくてもいいよって言いたかっただけだから!」


 俺達友達とか前世では歯が浮いて総入れ歯になりそうなセリフだ…


「ま、まぁじゃあ俺もまだまだ練習してるところだしこれからは三人で一緒に練習していこ!」

「おう!」「うん!」


 返事の仕方は違うがまたハモった様だ。



「じゃあ早速、全属性を覚えないといけないけどまずはどの属性から覚えたいとかある?」

「俺は何でもいいけど…リハマは?」

「うーん、私もまだよく分からないから…

 サンノ君のオススメとかある?」

「んー、最初は魔法が発動しても変化が小さいから分かりやすいのがいいんじゃないかな。

 今は明るいから光や火は分かりにくいし、風は今でも既に吹いてるし、闇は重さを測る物がないから水か土かなぁ…」


 ここまでオタクの早口みたいに一気にしゃべってしまった気がしたから少し間を置いて、二人が話しに付いて来ているか表情を見たが目をキラキラさせながら頷いているから大丈夫そうだ。


「ダンサは土、リハマちゃんは風の適性が高いだろうから、二人一緒にできるだけ歩幅を合わせて練習し始めるなら水から覚えた方がいいかも!」


 我ながら綺麗な中間地点に着地できたと思う。


「おぉ、さすがサンノ!何かすげぇ!」

「ね!

 あ、でもサンノ君、私だけちゃん付けは何か嫌!

 私も同い年なんだからダンサみたいに呼び捨てにして」

「あぁ、うん、じゃあリハマちゃ、リハマも俺に君付けやめてな!」

「うん!」


(あぁ、俺は今四才の子と青春の一ページ目を開こうとしてるのか…?

 いや、そうじゃない…そうじゃないんだ…)



 そんなこんなで、まずは水の初級魔法から練習する事にした。

 水のイメージ化の参考になればと思い、魔法書のページを開いて海、川、滝、雨、噴水等々、古今東西色んな水の絵を見せた。

 その後は二人共目を瞑って頭の中で水をイメージしながら、


「うりゃ!」

「んんっ!」

「やぁ!」

「んーー!」


 二人が交互に合いの手の様に声を出している。

 その声を出す度、ダンサは犬の様なフサフサの尻尾がピンッとするし、リハマは背中にある妖精の様な虹色の羽がピクピク動いているのが何とも愛らしい。


 そして何回目かの掛け声でまずはリハマの突き出した手の平からポタポタっと水が数滴落ちた。


「!!」


 リハマが嬉し泣きしそうな顔でこちらを見た。

 互いにいい年した大人ならこのタイミングで喜びに便乗してハグをするが相手は四才児だ。

 当然、俺も四才児だ。

 ハグはまだ早いよな…等と考えている内に何の打算も下心もない純粋少女リハマからタックルにも似たハグをされた。


「ねぇ!今成功したよね!?今水出たよね!?」


 心が汚れている事を分からされた俺の目からも水が出そうだが、


「うんうん、見た見た!すごいな!

 俺よりも早く成功したからリハマは才能あるよ!」

「そんな事ないよ!サンノの教え方が良かったからだよ」


 謙遜もできるこの少女、末恐ろしいな…


「いやいやいや、まぁでもダンサはまだ集中してるしリハマは今できた事をもう一度やってみようか」

「うん!」

「ダンサも焦らなくていいから!

 適性も関係するし、ヨソはヨソ、ウチはウチだから」


 日本の言葉だが何となく意味は伝わった様でダンサは静かに頷いた。



 途中、家の中からジヒメさんに呼ばれて皆で昼食を取り、落ち着いてからまた練習を再会した。

 昼食後はリハマには魔法書の初級土魔法のページを先に見せた。

 土の適性が高い獣人族のダンサならすぐ追い付くだろうと予想したからだ。

 俺は、嫌味にならない様、二人に気付かれにくい闇の重力操作や無の性質変化を中心に練度上げをした。


 日が落ちかけた頃、一際大きな声で、


「はぁっ!」


 とダンサが声を出したので振り返ると突き出した手の平からチョロチョロチョロっと少し水が滴った。


「んんんーーーっ!」


 ダンサが声にならない声を出している。

 俺も思わず嬉しくなり、同時にリハマも俺と同じ様に嬉しくなったのか、


「「んんんんんーーーーっ!!」」


 俺とリハマの声なき声がハモった。


「「「やったぁーー!」」」


 今度は三人でハモって抱き合った。


「今出たよな!?俺、成功したよな!?」

「うんうん、ちゃんと俺も見たよ!水出てた!」

「ね!私も見たから気のせいじゃないよ!」

「有難う!ほんと有難う、サンノ!

 リハマも待っててくれて有難う!」


 こやつ、こんな時にもちゃんと皆にお礼が言えるなんて…

 二人共いい子過ぎて俺には眩しいよ…

 いい子は俺みたいな腹黒い大人になるんじゃないぞと言いたいが変な奴認定されてせっかくできた友達を失いたくないから言葉を飲み込んだ。

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