第三話 ハイハイ〜少し行動範囲が広がった期
――――半年程が経った。
まずこの半年という時間に関して分かった事は、恐らく地球よりも自転が早いからなのか、一日が地球より短いと思う。
時間の繰り上がり方は十進法を基準にしているのか分からないが、
100秒=1分
100分=1時間
10時間=1日
となっていて、体感的には一秒が地球の半分ぐらいに感じるから地球での一日、86,400秒より短いと思う。
時計の情報からだけでは月や年の繰り上がりは分からなかったが、時間の繰り上がりに関して、これならもし残業時間の申請をする事になったとしても分単位を時間単位の小数点に直すのは間違えにくそうで良かった。
体の成長は、大分舌や顎の筋肉が付いてきたので少し喋られる様になってきたとはいえ、ハキハキと喋るにはまだ気味が悪がられるだろう。
その為、こちらからはまだ簡単な単語をたまに喋るぐらいに留めてはいるが、聞く分にはほとんど意味が分かる様になってきた。
首も座り、ハイハイも出来る様になったし、捕まり立ちの練習もしているので自立歩行が出来る日も近いだろう。
前世で記憶していた一般的な成長速度より少し早い気もするが、転生前光る玉に聞いた通り重力が弱いから運動に必要な筋力が少なくていいのかもしれない。
首が座ったからなのか、最近は父が抱っこ紐で前に俺を抱えて外に連れ回してくれる様になったのも有難い。
その為、父の事やこの世界の事も少し分かってきた。
まず、今住んでいるここは【オーチュ国】が統治する【オーチュ大陸】の辺境、【ダクツ】という名の町の様だ。
この国は以前玉が言っていた、多種族が暮らす永世中立の国なので、日本にあった銃刀法の様な法律もあり、町中での武器所持は許可制らしい。
そして、父親の名前は【ベッコウ】、年は二十三才で【ガードナー】という仕事をしている。
ガードナーという職は、町の外にいる魔獣を定期的に狩って間引きする仕事との事。
町は城壁の様な物で囲まれていて、さらに結界士と呼ばれるヒト達が数人で防御結界を常に張っているらしいが、外にいる魔獣が増え過ぎて一斉に襲ってくるスタンピードが起こると決壊するので、ガードナーによる間引きが必要みたいだ。
なお、この国だけなのかは分からないが、徒歩以外での近距離移動手段は、浅草界隈でよく見掛けた人力車を馬車っぽくした感じのタクシーが主流で、風系統の魔法が得意なエルフ族や土系統の魔法が得意な獣人族が魔法を使って牽いている様だ。
後から聞いた話しでは、長距離移動は各地に点在するゲートポータルというどこ○もドアの様なものがあって、そのゲートを潜ると目的地まで一瞬で行けるという事と、人力車以上の物を動かすには魔力効率が悪いので車やバイク、飛行機というものはこの国にないらしい。
前世では車やバイクが好きだったのでこの国にはなくてガッカリだ。
しかしこの人力車、当然エンジンこそ付いてはいないが、タイヤ、アルミっぽいホイール、サスペンション、ブレーキ等は付いていて、大きくなったら是非マイ人力車を手に入れてカスタムをしたいと少年心(?)に火が点いた……
また、種族に関しても少し分かってきた。
俺は竜人族との事だったが、頑張ってハイハイして鏡で自分の全身を確認したら背中とお尻に灰色の突起があった。
羽と尻尾が生えそうな位置だ。
父親のベッコウは普段人間の姿をしているが、魔獣との戦闘中等は頭に黒光りする輪っかと天使の羽を真っ黒にした様な羽が腰から出ていた。
戦闘終了後、無邪気なフリをして羽に触ったら教えてくれたが、どうやら父は天使族と悪魔族のミックスらしい。
「天使と悪魔のミックスで堕天使だ!」
と笑いながらかっこつけて言っていたが、まぁまだ二十三才だから少し厨二病っぽさがあってもしょうがないと思う……
ただこの世界の天使の輪っかは、乳母さんとして来てくれた天使族の人も父も輪っかは浮いていなくて、頭の上にポンと置いた様な位置にある。
恐らく悪魔族の乳母さんに生えていた角の様に、輪っかも体の一部なんだろう。
ある日、そんな堕天使父が明らかに普段の乳母さんに対する態度と違ってメロメロになっている優しそうで綺麗な黒髪の乳母さんが来た。
俺の勘ではもしかしたら父が本気で狙っている女性なのかと思い、授乳後その女性にカタコトっぽく、
「おかーさん」
と、その人に家族になるという事を意識してもらう援護射撃になればいいなと思って言ってみたら、急にその女性は俺を父に優しく渡し、玄関から飛び出して行った。
締まりかけた玄関の隙間から見ていたら、その女性は竜の様な黒い羽と尻尾を生やしていそいそと飛び立って行くのが見えたので、あの羽と尻尾は恐らく竜人族なのだろう。
父の態度と竜人族という事を考えると、もしかしたらあの人は俺の母親だったのかもしれない。
ふと父の顔を見たら、悲しそうな、心配そうな、でも息子の事は任せてくれと誓ってそうな、何とも言えない表情で俺をいつもより少し強く抱き締めていた。
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