第7話
家へ帰るとリビングは暗かった。そして、何かが転がる音が聞こえた。それはタイヤがフローリングと擦れて、ゴロゴロとなる音だった。
聡貴は休憩時の同僚との会話を思い出し、戦慄する。恐怖で固まっていると、さらに続けざまにフォンという高い音がなる。だが、その音で逆に聡貴は安堵した。音は家事ロボットが充電機器に繋がれたものだったからである。
聡貴は念のため、トイレ横の引き戸を開けて中を検める。そこには、手前側に掃除用具、奥側に災害用の鞄やストック品、1度しか使っていないキャンプ用品が積まれていた。そして、その家事ロボットは最も手前側にあり、黒い長方形の箱になって、電力を蓄えていた。家事をするタイミングになると、変形して人型となる。身長は150センチ程度で小柄だが、腕と足を伸ばす事ができ、天井にまで易々と手が届く。
聡貴は何も異常がないことを確認すると、扉を閉めた。振り返ると、リビングの電気はついていた。やはりタイミングがおかしいよなと疑いながらも、色々と学習中なのかもしれないと思うことにした。
リビングに着くとテーブルの上に白い箱と使い捨ての木のフォークが置いてあった。それは昨晩届いた荷物に違いなかった。触れてみるとまだ冷たく、ついさっき出されたばかりのようだった。
どうしてここに?
聡貴はそう思いながらも箱を開けてみた。そこには大きなモンブランが1つ入っていた。クリームが糸のように細く、頂点には大きな栗の粒が乗せられている。
聡貴はそれを見てすぐに目を輝かせる。聡貴は無類の栗好きであった。
もしかして瑞姫がこれを?
そう思って、瑞姫の部屋の方へ振り返る。瑞姫は反対に栗が嫌いで、モンブランは絶対に食べない。ということはつまりそういうことだよなと、聡貴は嬉しさを隠しきれなかった。
「ありがとう。いただきます」
聡貴は手を合わせ、食べ始める。ほどよい甘さが口の中に広がり、これまで食べた中でも最高の一品だった。食べる手は止まらず、あっという間に完食する。
「美味しかったな。瑞姫にお礼をしないと」
聡貴は同じ家にいるにも関わらず、スマホを取り出した。
「妹にメッセージ。モンブランありがとう。うまかった」
スマホは反応してポンッとなり、送信が完了する。すると、すぐに反応が返ってきた。スマホの画面には『何言ってんの? 私何も買ってないけど』と表示されている。
「素直じゃないなあ」
瑞姫から来たその字面を微笑ましく見つめていると、今度は電話が来た。瑞姫からかと期待をしたが、非通知と表示されている。
誰だろうかと思いつつも、政府の重役の可能性もあると一応出てみることにした。
「はい……」
返事は無かった。代わりに今ではほとんどあり得なくなったノイズのような音が入り込んでいる。
「あの……?」
聡貴は訝しみ問いかける。しかし、ずっと幼少の頃に見たテレビの砂嵐のような音が続いているだけだった。
イタズラか?
聡貴は電話を切る。そして、スマホをすぐにテーブルの上に放り出した。スマホの柔らかなボディがボンとくぐもった音を立てる。
『幽霊は電化製品と親和性が高いという話もありますからね』
昼間の翼の言葉が脳内にこだまする。
「いやまさかね……」
聡貴はしばらく生きた心地がしなかった。
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