第18話 お嬢様力、解放

「うちは春瑠子。赤坂春瑠子。東京は赤坂家の……お嬢様

「赤坂家いうたらあんたが噂の赤坂家の養子か!

 こんなどこの馬の骨とも知れん跳ねっ返りを迎えるとは、名門赤坂家も落ちたもんやね」


 その瞬間、糺ノ川の体からエネルギー波のようなものが広がったような気がした。

 その波に触れた瞬間、全身の毛穴に針を突き立てられたような感覚に陥り足元が揺れる。体に力が入らず、思わず片膝を付いた。


 糺ノ川が発する異様な気迫に、本能的に意識をシャットダウンしそうになっていた。


「平民は跪いてるのがお似合いやわ」

 糺ノ川がうちに向け五度目の引き金を引く。うちの体は全く動いてくれない。蓮歌がぎゅっと目をつぶった。


 しかし銃声は鳴り響かなかった。糺ノ川がつまらなそうな声を上げた。

「あーら、ルーレット終わってしもたわ。あんた運がええね」

「あなた、麗気を……! 恥を知りなさい、この痴れ者!」

「やっぱりあんたは平気なんやね」


 蓮歌はすこし苦しそうだが、先ほどと変わらない様子だ。うちは気を失わないようにするので精いっぱいなのに。

「ならあんたの方を殺すことにするわ。あんたの方が危険やさかい」

「お前……、なに、を……」

「さっき言うた『運がええ』は訂正するわ」

 声を絞り出したうちを糺ノ川が見下ろし、蹴りを入れる。


「あんた、赤坂の娘なんやろ。なら金はあんたん家から取ればええやん。まあ情に深い山手町家なら娘の死体でも買ってくれそうやけどな」

「ふざけ……んなや!」

「ウチは好き勝手言われて黙っとれるほど優しくないんよ。だから五十六人ほど殺したわ。こういう生意気なお嬢様は」

 糺ノ川はうちに向けていた銃口を、ゆっくりと蓮歌へ向けた。


「……いねや」

「やめろーーーーーー‼」

 その瞬間。うちの視界が真っ白に染まった。


 脳天を突き抜けるような強い怒り。先ほどまであれだけ怠かった体に力が漲っている。


 目の前に垂れ下がったうちの前髪が、ひとりでにウネウネ動き始めるのが見えた。クルクルとねじ曲がり、らせん状になってゆく。


 見覚えのある光景。うちの髪は再び総と化していた。

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