第14話 蓮歌のもとへ

「蓮歌あ!」

「春瑠子さん!?」

 鎖の男から聞き出した倉庫の重い引き戸を開け放つと、奥から蓮歌の弱弱しい声が聞こえた。


 手を縛られトゲトゲが付いた首輪をはめられた蓮歌が床に座り込んでいた。あれが酒寿さんたちの話していたというやつだろう。


「蓮歌、今行く!」

「き、来てはいけません!」

 倉庫の中ほどで首筋がゾワっとした。ジョセを構える。しかし周りに敵は見えない。


「どこや!」

 前後左右に向きを変えながら叫ぶ。

「上です!」

 蓮歌のその声が聞こえた時にはもう、うちは頭上から飛び降りてきた男のナイフをジョセで受け止めていた。刀身をデコったラインストーンが飛び散る。

 ナイフの男はそのまま反対の手のナイフを振り下ろす。うちは蹴りを入れて距離を稼ぐ。


 男は両手のナイフで次々と斬撃を放ってくる。その攻撃は速く鋭い。ここまでのチンピラたちとは段違いだ。

 距離を詰めてくる男に対し、木刀の間合いを稼ぎたいうちはどうしても後ろへ下がりつつ戦うことになる。その隙を逃さず男の猛攻が続く。


 男が壁を蹴って大きく跳んだ。先ほどの不意打ちと同じ軌道だ。しめた! うちは着地のタイミングで迎え撃とうとジョセを引き絞る。

 その時、男の左手が閃き持っていたナイフを投擲した。うちは慌ててジョセを振る。ジョセにナイフが突き立つ。

 ジョセを振り終わったうちの無防備な体に、男の右手のナイフが迫る。


「春瑠子さん!」

「このシャバ僧がーー‼」

 うちはとっさに後ろへ倒れ込み、ジョセを床に突き立てる。男のナイフは空を切り、ジョセの柄が落ちてくる男の顎を捉えた。ダメ押しで顔面に頭突き。男の身体から力が抜けてだらりと倒れ込んだ。


「春瑠子さん、大丈夫ですか!?」

「うん、なんとか」

 うちは男の下から這い出しながら答えた。よかった、蓮歌も怪我してないみたい。

「いま行くからね」

「あうっ」

 首輪に繋がった鎖が引かれ、蓮歌が床に倒れ込む。


「……その木刀捌き、あんた東京都ひがしきょうともんちゃいますね」


 喪服のような着物の女が、積まれた木箱の陰からゆらりと現れた。手には首輪の鎖を持っている。途端に周囲の空気が泥のように重くなった。


 間違いない、こいつが例のボスだ。

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