第9話 シャル・ウィ・社交ダンス?

 乗馬に始まったお嬢様力強化合宿は、その後、華道、茶道と続き、果ては乙女の嗜みとして戦車の乗り方まで教え込まれた。……何故?

 そして最後に、ドレスを着せられてダンスホールへ連れてこられたのだった。


「社交ダンスはわたくしたちお嬢様にとって必修科目ですわ。春瑠子さん、ダンスのご経験は?」

「中学ん時の体育の創作ダンスしかないわ」

「創作ダンス……そうですか……。いえ、あの話はもう……」

 蓮歌は顔を曇らせて話を打ち切る。聖プラ中等部にもあの黒歴史製造の授業あるんかい。

「ともかく! 聖プラでは学校行事でもなにかと社交ダンスしますからね。基本のステップだけでも今日中に覚えてしまいましょう」

「よっしゃ、運動なら任せてや!」

 うちはシュッっと拳を突き出した。


 しかし、経つこと一時間。

「あ痛ッ!」

「ほんとすんません!」

 うちは慌てて飛びのく。

「……いえ、少し休憩にしましょうか」

「はあい……」

 社交ダンスの練習を始めてから既に、蓮歌の足を十回は踏みつけてしまっていた。


「全然できんわ……」

「春瑠子さん運動神経よろしいのに何故こんなにできないんでしょう……」

「わからん。気が付いたら蓮歌が目の前から消えて真後ろにおるんよ」

「そんなわけないんですけどね……。もう一度お手本をお見せしますね」


 蓮歌は片腕をすらりと伸ばし、もう片手を緩やかに曲げた構えを取った。重力から解放されたかのような軽やかなステップを踏む。

 蓮歌の細い背中に一対の白い翼が見えたような気がした。

「こんな感じですわ」

「その細い体のどこにそんな力があんねん……」

「春瑠子さんもすぐにできるようになりますわ。自然界を構成する力は電磁気力、重力、大きい力、小さい力、お嬢様力ですもの」

「筋力は無いん? 筋力なら自信あるんやけど」

「春瑠子さんってば、相変わらずお冗句がお上手ですわね!」

 蓮歌は愉快そうにオホホホと笑う。

 うちは本気やねんけどな。お嬢様力が入るなら筋力もあるやろ。


「お嬢様力は極めれば〈麗気れいき〉として様々な使い方ができますしね。お嬢様力こそパワーですわ」

麗気れいきぃ? なにそれ」

「覇王色など様々……そちらは追々説明します。とにかく今はダンスのステップが先決ですわ」

 うちは一人でお手本のステップの再現を試みる。しかし腕を広げて不格好にバタバタ足を動かす姿はまるでアヒルの子供だ。情けない。先は長そうだ。

「はぁぁぁぁぁ~~~~…………」


 大きなため息をついたうちの背中に蓮歌が励ましの言葉をかけた。

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