第6話 春瑠子の決心

 結局うちはこの明朗快活にして優しく、気高く、竹を割ったような性格のブリリアンスな金髪お嬢様とは大変気が合い、すぐに仲良くなった。そして蓮歌と四六時中つるむようになった。


 また蓮歌は校内ひいてはお嬢さま界で名の知られた大お嬢様らしく、顔の広い彼女がうちを随所でいい感じに紹介してくれたおかげで、少しずつ聖プラにも馴染めるようになっていった。


 後から聞いた話では、うちは転入日前から噂になっていたらしい。

 「聖プラの生徒は転入生に慣れておりませんの。気を悪くしないでくださいね」と蓮歌は言った。

 聖プラは幼稚園から大学までの一貫校で、中等部や高等部へ上がるタイミングくらいしか生徒の出入りが無いそうだ。うちにとっては落第や中退が殆ど無い学校というのが異文化でびっくりするけど。


 そんな慣れない環境の中で、蓮歌の嘘偽りない親切心はとても心強かった。

 蓮歌は「お嬢様力の譲渡ですわ」と暇さえあれば四六時中、人目もはばからずにうちの手を握ってくれた。そのおかげでお嬢様力仕様の調度品も不自由なく使う事が出来た。


 『東京は人が冷たい街』というイメージがあったうちにとって、彼女の華奢な五指から流れ込んでくる体温は、生活必需品であるお嬢様力以上にうちの生活を支えるようになっていったのだった。


・・・・・・

「うちにお嬢様力の使い方を教えて欲しい」

 東京にも聖プラにも赤坂家でのお嬢様生活にも慣れ始めたある日、うちは蓮歌の目を真っ直ぐ見てそう言った。


「毎回、便してもらうの申し訳ないし」

 いつまでも連れ回すのは悪いと思っての決断だったが、なぜか蓮歌は気まずい様子だ。


「お教えするのは構いませんけれど……まずはお言葉遣いを直しませんとね」

「……便?」

「違いますわ」

便?」

「いいえ」

「わかった! や!」

「もう! と言ってくださいまし!」

 うちがケタケタ笑うと蓮歌は拗ねたようにプイと横を向いた。


「ともかく! この先、お嬢様力は絶対に必要になりますわ。わたくしでよろしければお教えいたしますわよ」


 こうしてうちのお嬢様力修業が始まったのだった。どんなに厳しい特訓でも耐え抜いてみせる。うちはそう決意し、小さく拳を突き出した。

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