第2話  悪いカモメと良い海ねこ

どうやら僕は岸壁から海に落ちたようだ。

すべてが一瞬のことだった。

悔しいが何も覚えていない。確か大ダコの足が僕のカラダを巻き付けて、海に放り投げられた気がする。

僕は毛布にくるまれ、ぬれたカラダを拭いた。海水は、ペタペタする。

しかも今日は暑い。太陽も眩しい。気温も高い。

洋服はすぐに乾いた。

「もう、大丈夫か?」助けてくれたあの太い声だ。

他の海上レスキューの人達も心配そうに僕を囲んだ。

まごつきながらも僕は「はい。大丈夫です。」と答えた。

あっ、お礼が先だ。

僕は顔をあげ「助けてもらってありがとうございました。」

意外とはっきりと言えた。

「よし。いい声だ。もう大丈夫だな。」

「はい。」

「もう、落ちたりしないように。柵越えは、しないように。」

「はい。」でも柵越え?そのあたりの記憶が僕には、ない。大ダコの足で海に落とされたなんて、今更いえない。

でも・・・僕はおもいきって言ってみた。

「大ダコに落とされたんです。大ダコ、見ませんでしたか?」

助けてくれた太い声のおじさん以外、レスキュー隊は一斉に「タコ?」

「海に落ちた拍子にこわいものでも見たのかな?タコはいないよ。」

少し離れた所にいる見物人たちも

「少年が柵越えしたの見ました。」

「私も見ました。」

「海に落ちそうで危ないなって見ていたらザッブン!って少年がおちてびっくりしました。」

みんな僕が誤って海に落ちたと言っている。

誰も大ダコのことは知らない。

「やっぱり僕の見間違えか?」

頭のてっぺんが暑い。もういいや。

帰ろう。僕は立ち上がり、去ろうとした。

まわりの見物人も散らばった。

次の瞬間。さっき僕が柵越えして海に落ちたと言っていた人達が「パッ」、「パッ」とカモメに変身。

あの人もこの人もカモメに変身。

カモメが人間に化けていた?

他の観光客やみんなは?

時間が止まっているのか、動いていない。

そしてカモメが羽ばたいた瞬間、時間が動き出す。人も歩き出す。

あのカモメたちは僕をからかうように飛んでいった。

「えっ?今のは、なんだ?」

僕と同じ年くらいの銀色髪の少年が僕の目の前に「大ダコ。僕も見たよ。あいつは危険だ。」

「えっ?君も見えたの?」

「そうだ。あの大ダコを倒すために僕が、君を呼んだんだ。急げ。急げ。聞こえなかったか?

カイ。」少年は羽根を広げ、海ねこに変身した。

そして僕を助けてくれたおじさんは海を睨み、「奴は伝説の大ダコだ。

大ダコは間違いなく、この海にいるぞ。」呟く。




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