海ねこビーム

京極 道真  

第1話 横浜の港に海坊主

「なんだあれは?」

海から大きなタコの海坊主が氷川丸の先端に、へばりついている。

僕は部屋の窓から真下の横浜の港を見下ろした。

誰も気づいていないのか?

あんな大ダコ!

それとも僕の目がおかしいのか?

昨日遅くまでゲームしていたしな。

もう一度、僕は目をこすった。

間違いない。大ダコだ。

日曜日の10:38。

もしかしたら山下公園でイベントでもしているのか?

夏休みも、とっくに終わった9月の日曜日。

僕はお気に入りの青の海ねこTに急いで着替えて、

愛車の自転車Bに乗り、坂道をくだった。

山手234を抜け、小学校を抜け、

なんとなく、心の中で頭を下げながら、近道の外人墓地をすり抜ける。

港前の大通り。

「キー」っと自転車のブレーキ音が、カラダの中を駆け巡る。

早くいきたいのに行けない。

『急げ。急げ。』誰かの声が聞こえた瞬間「わーっ!」

坂道したの交差点、急に赤信号。車にぶつかりそうになる。

「ビー!」車のクラクション。

遠くの氷川丸が目に入り、目の前の信号が変わるのに気づかなかった。

危ない。危ない。

信号が変わる。

公園内に自転車は入れない。公園前の駐輪場に急いで止めて、点滅する横断歩道を渡り切った。

入口のポールを飛び越えて、緑のローズガーデンを走り抜ける。

「結構、人が多いな。」

小さい子供とぶつかりそうになる。得意のフェイントですり抜ける。

『急げ。急げ。』また誰かの声が聞こえる。

「言われなくってもわかってる!。」思わず声に出した。

僕は息が切れ切れで氷川丸まで走った。

「着いたぞ。」

周りを見渡したけどイベントは、なさそうだ。

いつもの山下公園だ。

じゃあ、あれは?

見えているのは、僕だけ?

僕が寝ぼけているのか?

岸壁反対側の先端、あの大ダコは、まだへばりついている。

大きな吸盤をゆっくりと動かしながら、長い足を絡ませ今にも船内に入りそうだ。

わあー!それでも周りの人達は誰も気づいていない。

甲板デッキには見学の家族連れもたくさんいる。

「やめろ!」僕は大声で大ダコに叫んだ。

大ダコの長い足が僕のカラダをつかんだ。

「わーっ!」「ザッブン!」僕は海に放りこまれた。

「子供が落ちたぞ!!」

海面に響く大人たちの声。

オレンジの浮き輪が飛んでくる。大きな腕が僕の脇をつかんだ。

「大丈夫か!」大きな太い声が聞こえた。

アスファルトに横向、氷川丸を見た。大ダコは消えていた。「そんな・・・」

僕はそのまま、毛布にくるまれた。

「大丈夫です。」と小さく答えた。





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