第30話 パワハラ上司と茶菓子

「で、ゴルバ。どういうことか説明できるんだろうね」



 ギルドマスター室にはマジョリカさん、ゴルバさん、俺とベニーヤの4人。大きなギルドマスター専用デスクには当たり前のようにマジョリカさんが座っている。ゴルバさんと俺はソファーに座らせられ、ベニーヤはお茶とお菓子を持って来させられた後はそのまま入口横で立たされている。



「は、はい。今朝になって急に領主のセゾール様から冒険者ギルドに『依頼はすべてモンスターの討伐依頼のみにするように』とお達しがあったんです。理由を聞いても『そっちが知ることじゃない』の一点張りで」



「ふむ、理由を『言わない』ってことは『言えない』ってことだ。きな臭いね。で、理由もわからないまま受けたって事かい? この間抜け」



 マジョリカさんは茶菓子の包装を開けるとポイッと口の中に放り込む。それを見て俺もお菓子を口に放り込む。うん、旨いなこれ。



「そう言われても…」


 ゴルバさん、間抜け扱いされて涙目。お茶にもお菓子にも手を付けず、背中を丸めて流石にちょっと可愛そうに感じる。なんか自分を見てるようで…まあ、俺の場合の相手はこんな優しくはなかったけどな。



「ま、確かに異人が来だした日に馬鹿領主のこの達しはちとタイミングが良すぎるね。もし裏があるんだとしたら…さすがにあんたの手には余るかもねえ」



 マジョリカさん、お茶をズズーっと啜る。



「ところで、昨日は異人からはどれだけの量の素材が持ち込まれてるんだい?」


「え、あ、ええっと、そうですね。昨日のモンスターの素材の買い取り額は…いつもの30倍近い量ですね」



 手持ちの書類を慌てて確認するゴルバさん。これが俺のクソ上司だったら「はあ?確認してねえのかよ、ペッ」って感じだな。



「ほう、半日で30倍かい。大した量だ。で、その買い取った素材は今どこにあるんだい。来るときに倉庫を覗いたけどそんなものどこにもなかったんだがね」



 マジョリカさん、二個目の茶菓子を口に放り込む。俺も負けじと二個目を食べるとしよう。ゴルバさん食べれる状況でもないだろうし。って、茶菓子見てるけど、だめだぞ、ゴルバさん、今は絶対にやめたほうがいい。



「それがですね、聞いて下さいよ。実は昨夜のうちに商人が訪ねてきて全部買っていったんですよ。しかも相場の2割増しで。いやあ、数が数なんで結構な利益が出ましたよ。しかも、また来るから是非よろしくって、ハハハ」



 ゴルバさん、笑いながら茶菓子に手を伸ばす。そうか、その手を伸ばしてしまったか。これは…荒れるかもな。



「おい、今なんて言った。2割増し? 相手は誰だい。身分はちゃんと確認したんだろうね、ゴルバ」



 マジョリカさんの声が荒くなる。と、同時に茶菓子へと伸びたゴルバさんの手が止まった。行き場を無くした手が机の上で彷徨っている。



「ええ、エア・ブランコ商会という新興の商会だということでしたけど…」


「あたしが言ってるのは商会の名前のこっちゃない。商業ギルドに登録がある真っ当な商会なのかどうかってことだ」



 お、手を引っ込めたな。うん、それが正解だな。話が全部終わった後でマジョリカさんの表情から読み取ってから判断するほうがいい。まあ、俺はもう一つ貰っておくけどな。包装紙がキラキラして高級感が凄いし買ったらメチャクチャ高いはず。それにここでしか食べられないかもしれないからな。



「商業ギルドに登録ですか? うーん、確認はしてませんけど…」


「そんなことだろうと思ったよ」



 マジョリカさん、お茶を啜るとまた茶菓子を口に放り込む。さっきから同じ柄のものばかり選んでるようだ。それが気に入っているのかな? それじゃあ俺ももう一つ。うん、これも旨い。



「スプラ、菓子もいいけどこれは勉強になるから聞いておきな」


「あ、はい」


 しっかりチェックしてるんだな、マジョリカさん。



「いいかい、この国の税金は週計算。だから真っ当な商会なら毎週棚卸しするんだ。そして昨日はその締め日。どこの商会がそんな大忙しの日に大量の仕入れなんかするってんだい。しかも仕入れが2割増し? 怪しい以外の言葉が見当たらないよ」


「えっと、って言うこたぁ、昨日の商会は…」


「締め日に棚卸しをしない、つまり税金計算をしていない奴らだってことだ。新興の商会が2割増しで仕入れてどこで売りさばこうって言うんだい。それに30倍の素材量って言ったらこれまでだったらひと月分の量だ。そんな資金がある商会がいきなり設立されたら街で話題に上らなけりゃおかしいくらいの話だよ。これ以上怪しいものを見つける方が大変なくらいだ」



 そう言ってまた同じ茶菓子を口に放り込むマジョリカさん。これ何個目だ? 目の前の器には同じ種類のはもうなさそうだ。これ、追加で持って行った方がいいんじゃないか? ベニーヤさあ、入り口で突っ立って欠伸している場合じゃないんじゃないの? 俺の上司だったら別室で軟禁説教もんだぞ。



「ってえことは、つまり…どういうことなんすかね?」


 いや、わかってないんかい。ゴルバさん、ある意味すごいな。



「つまり、異人が大量の素材を持ち込むようになった。ギルドは一気に在庫過多。そこに都合よく新興の商会が素材をすべてを2割増しで買い取るといい出す。ギルドが過剰在庫を高く売却できる手段を確保した翌日、馬鹿領主から依頼はギルドの在庫を増やす討伐依頼だけ受けるようにと達しが入る」



 まあ、わかりやすい悪徳領主のテンプレだな。怪しいというか確定だ。


 しかし、そんな事より、もっと重要なことがある。どうやらマジョリカさんがお気に入りの種類の茶菓子がもうないことに気が付いらしい。自分に向けられた殺気に気づいたベニーヤが慌てて部屋を出て行った。


 さて、領主がらみだとわかったところでそろそろ俺も動きたくなってきた。つまらん話を聞かされ続けたら、クソ上司の飲みに付き合わされた時を思い出してしまったし。



「あの、マジョリカさん、いろいろ大変そうなんですけど、要するにすぐには採取依頼を出せそうにないってことですよね?」



 そう言いながら茶菓子を器をマジョリカさんに差し出す。こっちにはマジョリカさんの好みがちゃんと残っている。俺が食べずにおいたから。



「まあ、あたしから勧めといて申し訳ないが、今回はそうなるかもしれないね」


 マジョリカさん、早速お気に入りの茶菓子を見つけて嬉しそうにしている。てことはマジョリカさんの方の器はこっちで貰っても大丈夫そうだ。お土産に全部持って帰えることにするか。



「じゃあ、俺はこの辺で失礼して毒出し草の採取の方を考えてみますね」


「ああ、悪いね」


 マジョリカさん、湯呑に残った最後のお茶を飲み干す。話の区切りを見てゴルバさんが茶菓子に手を伸ばす。そろそろいい頃だろうな。



「ああ、そうだ。ゴルバ、お前、スプラの毒出し草採取の間の護衛をやってやりな」


「え、俺がですか? 護衛なら冒険者に…」


「護衛依頼も出せないだろ。お前が馬鹿な達しを断らなかったせいで」



 残念ながらゴルバさんの茶菓子に伸びた手は空しくそのまま引き戻される。これはしょうがない。そんなこともあるさ。



「ってことで、スプラ、これからこのゴルバが一緒に付いて行ってくれるから毒出し草取っておいで。数は多けりゃ多いほどいい。で、今日中にはあたしのところに持ってくるんだよ。ゴルバがいない間はあたしはここにいるからね」



「じゃあ、そう言うことだ。行くぞ、スプラ」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 俺とゴルバさんがそのまま一緒に部屋を出ていくと、入り口のドアで新しい茶菓子を持ってきたベニーヤとすれ違う。ベニーヤ、ゴルバさんに置いて行かれてこの世の終わりのような顔をしているところ悪いけど、その持ってる茶菓子の中にマジョリカさんのお気に入りが入ってないんだけどわかってるか? そのドアの先に本物のこの世の終わりが待ってるぞ。まあ、頑張れ。



 俺はその後のベニーヤの修羅場を想像しながら、ゴルバさんと南の平原に向かう。ストレージを見ると高級包装の茶菓子がいっぱい追加されてた。ラッキー。




❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


 マジかよ。GBに護衛してもらうのか。

 GBの護衛付きじゃ絵にはできねえじゃん。


 それより、小僧意外と気が利くな。

 これならお茶係として俺の秘書にでも雇ってやってもいいかもな。

 【レイスの秘書】って職業でも作っとくか。



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・ゴルバさんとマジョリカさんの話をおとなしく聞く。

・茶菓子を合法的にくすねる。



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv4】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】

 装備:【ただのネックレス】

    【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】

 所持金:約0万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

●進行中特殊クエスト

<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>

<特殊職業クエスト:マジョリカの弟子>

〇進行中クエスト:

<クエスト:武器屋マークスの個人的な依頼>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る