第31話 南の平原とその先へ

『キュー…』


 目の前のリスが一瞬で三匹同時に光の粒に変わって消えていく。



 かわいい顔して何度も俺を噴水前送りにしてきたリスたちが、いとも簡単に倒されていく情景が繰り広げられる現在。


 もちろん倒しているのは俺じゃない。隣でシミターと呼ばれる曲剣を流れるような動きで振り回す、冒険者ギルドマスター代理ゴルバさんだ。ギルドを任されていながら領主の無理なお達しを蹴らなかったことをマジョリカさんに叱られちゃった脳筋な人だ。



 で、今はマジョリカさんに命じられて俺の毒出し草採取の護衛をやってくれている。しかし、この人、マジョリカさんの前でのへっぽこ振りからは想像できないほどにキレッキレの剣技を披露してくれる。



「ゴルバさん、すみません、お忙しいのに俺の護衛することになってしまって」


「あん? しょうがないだろ。マジョリカさんの言いつけには逆らえねえよ。それよりそんなこと言ってる暇があったらさっさと採取してくれ」



 ゴルバさんはそう言って空を見上げては口に咥えた長い爪楊枝を上下させている。こう見えて周りを警戒してくれているようで、さっきからリス君と遭遇すると同時に素早く動き出して討伐してくれている。さすがはマジョリカさんから代理を任されるだけあって剣の腕は文句なしだ。



 毒出し草は今いる南の平原にはところどころに存在していて、目についたアイコンはすべて採取している。だけど俺の移動速度が遅過ぎてなかなか数が集まらない。目標の最低ラインの50個を採取するまでにはどれほど時間がかかるか。この調子だと今日一日かかっても終わらないかもしれない。



 まあ、どれだけ時間がかかってもやるしかないんだから、焦ってもしょうがないしな。精一杯やってればそれでいいでしょ。あ、そうだ、どうせならゴルバさんにいろいろモンスターや戦い方についても聞いてみようかな。



「あの、ゴルバさん。この辺のモンスターってリスがほとんどですけど、難易度的にはどうなんですかね」


「さっきのリスか? あれは最弱のモンスターだな。多少素早いが、攻撃力が極端に低いからな。あの素早さに付いて行けなくても、あいつらは攻撃後の硬直があるからそん時に一発入れれば誰でも倒せるくらいだ。場所はこの街付近じゃどこにでもでてくるぞ。この南の平原じゃ数匹程度の集まりだから問題ないが、北の山地でアレの群れにでも出くわさなけりゃ一般人でも問題ない… ま、普通はな」



 あの、ゴルバさん。俺を見て慌てて「普通はな」とか付け加えるの止めてもらえませんかね。ちなみに俺のステータスについてはマジョリカさんから極秘情報扱いでゴルバさんにも伝わっている。そう、俺は冒険者ギルドの極秘情報だ。



「ってことは、この南の平原って結構安全だったりします?」


「そうだな。それなりの装備さえしてれば死ぬなんてことはねえな。街の東西南北の中では一番安全な地域だ。と言っても街から離れすぎると一気に難易度が上がるから、お前は街の周辺だけにしとけよ。いくら俺でも大量の相手には討ち洩らすこともあるからな」



 そうか、じゃあ、この辺を回るしかないのか。


「ちなみに、街の周りの地域の難易度ってどんな感じですか?」


「ん? そうだな。難易度の低い順に言うと、今いるこの『南の平原』が一番低い。次は『東の森』、次が『北の山地』、『西の荒れ野』は初心者は行かないほうがいい。西門やギルドでも案内している通りだ。お、そこにあるんじゃないのか? 話もいいけどしっかり見ておけよ」



 右前方にアイコンが光っているが、毒出し草だった。さすがゴルバさん、冒険者だから戦闘だけじゃなく採取にも精通しているようだ。



「あ、はい、ありがとうございます。ところでこの辺には他の街などはないんですか?」


「ああ、ここから一番近い町は北の山地だな、頂上を越えた向こう側にある。が、まだ異人の通行はできないな。ちょっと北の山地でトラブルがあってな。まだ受け入れの準備が済んでないんだ」


 …そっか、まだ次の街は解放されないのか。ま、解放されたとしても俺が次の街に行けるのはいつになる事やら。おっと、あそこにアイコンもあった。


「あっ」



 毒出し草を採取しようとアイコンに近づく俺の横を通り過ぎる存在。見ると青いアイコンのプレイヤーだ。そしてそのまま先に到達して採取を始めてしまった。



 くっそ、敏捷1がここにきて再び足かせになるのかよ。



「まあ、しょうがねえわな。採取は見つけた順じゃねえ、その場に着いた順だ。次だ次。あ、知ってると思うが、モンスターは見つけた順だ。正確にはモンスターから敵視された順だな。別の奴が戦っているのに横から参加して倒してもすべて相手のもんだ。そこは気を付けろよ」



 まあ、そうなるよな。横取りありだったらレアモンスターの争奪戦を煽ってるようなもんだからな。



 目の前のアイコンを採取したプレイヤーは俺の方をチラッと見ただけで去っていった。目が合った時にはフリーズしてしてしまったが、特に話しかけられることもなく終わりホッとする。やっぱりプレイヤーは苦手だ。



 他にも採取の合間を生かしてゴルバさんにはいろいろと質問をしてみたが見かけによらず面倒見がいい。面倒くさそうな表情をしながらも一つ一つ丁寧に答えてくれた。



 ゴルバさんの剣術について聞くと、初めは短剣を使っていたらしい。短剣が上達すると次第に他の武器も使えるようになり、今の曲剣術に落ち着いたとのこと。ちなみに曲剣は斬撃に特化した武器とのこと。斬撃耐性を持ったモンスターには体術で打撃を加えたり、予備の刺突武器を使っていると教えてくれた。



 また、冒険者ギルドで登録するメリットを聞いた。登録すると、依頼を受けられるようになること。貢献度を上げてランクを上げると割のいい依頼を受けることが出来たり、貴族からの依頼も受けることが出来るようになり、特別な報酬を得ることも可能になることなどがあるらしい。



 いろいろ聞いていたら、ゴルバさんとも少しづつ打ち解けてきて、面白い話ということで「動く草」なるものについて教えてくれた。なんでも冒険者が極稀に発見する草があり、その草はただの草のくせに目と口があり、話しかけてくるらしい。個体によっては危険度Aにもなるため敢えて近寄る冒険者はいない。



 しかし、最近ある魔術師が動く草を見つけたため、試しに遠くから火魔法を当てたら簡単に討伐できてしまったとのこと。ドロップは「焦げた草」だけだったが、それを興味本位で買い取った農家が畑にまいたらその畑の収穫物の品質が2つもあがったらしい。



 そして、その「動く草」が発見されたのがこの南の平原だった。その出来事以降、「動く草」を求めて農家の依頼を受けた冒険者が散々探すこととなったが、二度と見つからなかったとのこと。



 なんでいきなりそんな話をしてくれたのかよくわからないが、もしそんな草が見つかったら採取してマジョリカさんのところに持っていこう。また、大金が手に入るかもしれない。まあ、ゴルバさんがいてくれる今限定の話だけど。


 

ピンポーン

『運営よりお知らせです。現時点での各種統計データをお送りいたします。現時点での新規ログイン率は80%となっています。』


 

 へえ、統計ね。どうせ高レベルとかモンスター討伐数とかでしょ? そんなもん見ても凹むだけだし、スルーでいい。それよりもそろそろ満腹度がやばくなってきたな。



「あの、ゴルバさん、お腹空きません?」


「お、そうか、もうそんな時間か」



 毒出し草採取を始めてかれこれ2時間が経つ。気づいたら空腹度が残り4分の1になり黄色バーがゆっくりと点滅を始めている。



「んじゃ、一度戻って飯にするか」


 南の平原と言っても安全第一で行動してきた俺たちは街から15分もかからない程度しか離れていない。帰ろうと想えばすぐに帰ることが出来る。


 始まりの街に戻ると、ゴルバさんは俺を「蜥蜴の尻尾亭」に連れて行ってくれた。前にネヒルザ婆さんと来たときは全部注文してもらったけど、実際は一角亭のようにメニュー経由でセット注文するとバフが付くようだ。どうやら料理に関してはこれがFGSの仕様らしい。これもやり込み要素の一つだな。一通り落ち着いたら料理でもしてみるか。



「よし、じゃあ、チャチャっと採取して終わらしてくれよ」


「あ、はい。頑張ります。昼ごはんも奢ってもらってしまってすみません」



 蜥蜴の尻尾亭でメニューを決めて決定を押そうとすると、そのままゴルバさんにメニューを取り上げられてしまった。ゴルバさんが決定するとメニューは消える。俺の所持金は減っていないのを確認。それでゴルバさんが支払ってくれたことを知った。



「ああ、いいって。その代わり早いところ終わらすぞ。あと何個だ?」


「はい、あと…27個です」


「んじゃ、今日中には何とかなりそうだな。よし」



 ゴルバさん、採取が終わるように気を遣ってくれているんだな。やっぱり面倒見がいい。もうゴルバの兄貴と呼ばせてもらいたい。



 それから1時間で22個の毒出し草を採取し、必要最低量まであと6個と午前中のペースを遥かに凌ぐペースで採取は進んだ。



 理由はシンプル。午後に入ってすぐに【採取Lv1】を習得し、それまで半径5mほどだったアイコンが見える範囲が10m先のアイコンが見えるようになった。その後も度々レベルが上がり【採取Lv3】まで上がった時にはアイコンの視認範囲が半径15m先まで広がり歩いてアイコンを探す手間が大きく省かれることとなった。



 そして残り6個まで辿り着いた今、ピンポンさん再び。【採取】のレベルが上がったか?



ピンポーン

「特定行動によりスキル【採取者の勘】を習得しました」




❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


 あれ、動く草? いや、まさかな。さすがにないわ。


 【採取者の勘】か。MJの嫌がらせクエストを耐えきったら習得するスキルをここで習得するかよ。順番が逆だろうがもう驚かんな。



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・ゴルバと毒出し草採取(45/50個)

・習得:【採取Lv3】【採取者の勘】



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv4】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv3】new!【採取者の勘】new!

 装備:【ただのネックレス】

    【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】

 所持金:約0万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

●進行中特殊クエスト

<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>

<特殊職業クエスト~マジョリカの弟子>

〇進行中クエスト:

<クエスト:武器屋マークスの個人的な依頼>


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