第21話 特殊生産物

「万事屋さん、こんばんはー」



 数分後、俺が万事屋さんで買ったのは、タワシだ。


 事情を説明したら「それでしたら…」といって紹介してくれたタワシ『針金ズミ君』。丈夫な針金がまるで針ネズミの針のように全体を覆っているタワシだ。手で触ると非常に痛いので、専用の皮手袋もセットで購入した。こちらセットで3800G。うん、お安い。そして所持金がヤバい。一食分くらいは残しておかないとな。



 夜遅くに嫌な顔一つせずに相談に乗ってくれた万事屋さんにお礼を伝えて部屋に戻る。そして買ってきた『針金ズミ君』で先のサンダルの裏の皮部分をグリグリと削る。削って削って、そして思った通りの感じになった。


 サンダルの裏だけ使い古された革靴の裏みたいな感じ。リザードドッグの革がいい感じにささくれ立っている。多分これで滑らなくなったんじゃないか?



「よし、じゃあこれが最後の試着だな」


 廊下に出ると、床はまださっきと同じくらい湿っている。そこを改良黒光りサンダルを履いてさっきと同じように大股で一歩歩き出す。



 ギュッ


「おっ、来たか?」


 まったく滑らない。滑らないだけじゃなくて床に吸い付くようなこの感じすらある。これはいいんじゃないかな。

 


 ギュッ、ギュッ、ギュッ


 数歩歩いても全く滑らない。徐々にスピードを上げ、最後にはシュパーンシュパーンをして廊下を行ったり来たり。それでも全く滑る気配がなかった。



「よし、完成だな。これは… そうだな、『リザードドッグのビーチサンダル』と名付けよう。水でも滑らないという…うわ、なんだ」



ピッカーーン


 俺がビーチサンダルの名づけをした瞬間、急に足もとが激しく光り出した。突然のことで理由もなく光を凝視してしまった。失敗した。うおー、目が、目がーー。



ピンポーン

『称号【不断の開発者】の効果により特殊生産物が生産されました』



【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】

 鈍く光る野生の革が挑戦に身を焦がす男の足元を艶やかに照らす。紳士的な包容力に子供のような無邪気さを併せ持つその足元の気配は通りすがりの婦人すらも魅了するだろう。



「んっと、なんじゃこりゃ」


 よくわからん文言は置いておいて、俺の作ったビーチサンダルが急に光ったと思ったら違うものに変わってしまった。なんて言ったらいいのか。ああ、そうそう、ローマ帝国の兵士が足に履いてるカッコいいサンダルみたいなやつ。あれの黒艶バージョン。



 手に取って眺めてみる。うん、確かにカッコいい。落ち着いててちょっとだけセクシーさも感じるよな。なんか履くのが恥ずかしいんだけど。ま、でも履くんだけどね。だって俺が作ったんだし。


 脱いだ海賊マッチョの草鞋はストレージの隅にでも追いやっておく。



「おおお、かっけー」


 何とかのローマサンダルが意外と俺に似合った。そしてかっこよかった。足元だけは。ただ如何せんジャージがすべてを台無しにしている。このジャージ、レイスのジャージが…



「もしかしてこのジャージも切れるんじゃね?」


 バッサリ君を手に取ってジャージに当てる。そして滑る。


「切れねえのかよ!」


 ごっつい革よりも丈夫なジャージってなんだよ。耐久補正0のくせに丈夫いとか無駄でしかない。だったら耐久補正もあってしかるべきだと思う俺は間違っているか?



 まあ、しょうがないよな。


「あ、じゃあ布切れとかで作れないかな。…いやいや無理無理無理。針も糸もないし、あっても俺に使いこなせるわけがない。なにしろプレイヤースキルがゼロだからな」



 ストレージを探ってパンツ系の防具を探すが一つもない。あれだけ買わされて全部上着とかマジか。今度お金ができたら買っておくとしよう。



 さて、この後どうするかな。もう一時間くらいで連続ログイン制限になっちゃうんだけど…この目の前の【革きれ】【布きれ】のほにまだ何にもできてない武器とかああるんだよな。これなんとかならんもんかな。



≪釘こん棒≫〈必要筋力15〉

≪木の盾≫〈必要筋力5〉×4

≪森狼のショルダーバック≫〈必要器用5〉

≪魔力貝のネックレス≫〈必要知力10〉


 バッサリ君で何とかなりそうなのってこれくらいなんだよな。他は鉄だし無理。じゃ、まずは釘バットの釘でも抜いてみるか。多機能付きのこのバッサリ君で。



 一時間後


 やったりました。


「釘こん棒」改め「丸釘」30本と「穴空きバット」

「魔法貝のネックレス」改め「ただのネックレス」


 バッサリ君に搭載されていた釘抜き機能は万能だった。


「バットにぐっさり刺さった釘もほらこの通り。全部簡単に抜けた。筋力要らないんですね~」


 深夜のテレビショッピングで外国の人が大げさなリアクションでCMしてても違和感ないくらいの万能感だ。


 魔法貝のネックレスは魔法貝を取る時に粉々になってしまった。



 そしてコレだ。



【孤高狼のターバン風ヘアバンド】

 一人孤高に生きる男の魂は確固たる決意と共に住む。その隠された額に込められた気高き意志は男をさらなる高みへと導こうというのか。



 俺には理解不可能な説明文と共に現れたヘアバンド。頭にがぶるターバンの上側を取っ払ってキュって絞った感じの奴。濃い緑色したナチュラル派のヘアバンドだ。


 俺の薄い緑の髪との色合いもいいし、束ねた長髪を上から出した感じがちょっとヤンチャな雰囲気になってる。もともと140㎝くらいしかないアバターなだけにこれくらいやっても大丈夫だろう。



 これができた経緯はこうだ。


「森狼のショルダーバック」のファスナー部分をバッサリとやらせてもらったら丁度頭に被れそうな感じになった。だから細かく調整しながらいい長さに切っていく。そしてふと被ってみたら意外にもぴったりだった。肩掛け紐はとりあえず鉢巻の如く額に巻いて縛る。



「こりゃ帽子と言うよりヘアバンドって感じだな。森狼のヘアバンドってところか」


 なんて言ったら被っている帽子もどきが光り出した。びっくりはしたが二度目ともなると意外と冷静に行動できるらしい。目をつぶって光をやり過ごし、うっすら目を開けて部屋の鏡で確認するとナチュラルヘアバンドを装着していたというわけだ。



 あれ、でも称号の効果って確か、「確率で」特殊生産物ができるってことだったよな。俺、今のところ確率100%なんだが…。これはまた運営がやらかしてるってことだろうか。まああのレイスの事だからな。


 残りの「鎖帷子」と「黒鉄の大盾」、そして「バスターソード」は流石に軽くしようがなかったから諦めてそのままストレージ行きになった。



 ただのネックレスを首から掛けると、シンプルだがターバン風ヘアバンドとよく合っている気がする。これならよれたTシャツも不思議とよく見える。


 だが、その下、ジャージだけはどうにもならんかった。


 まあ、ともあれ、頭、胸元、そして足は結構俺好みになったと思う。



 よし、今日はこれで終わりかな。初日からいろいろあったけど、まあまあ、楽しめている方じゃないか。遅くまでやってしまったが、まあ初日だから。大目に見てね、お医者さんの先生。



 じゃ、明日は教会に行ってステラさんに報告したら、武器屋に行ってマークスさんに作ったアイテムを見てもらおう。で、要らないもの、剣とか盾とか鎖とかは売っちゃう。それからは万事屋さんの商売のことを考えてみようかな。


 俺はこうしてログアウトし、FGSの初日を終えた。



❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


 だーっはっはっはっはっは。あかん、よじれる。

 なんだよ【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】って。

 どこのご婦人が魅了されんだよ。

 NZか、NZを魅了しようってか。あっはっはっは。だめだ、もう無理。

 こんなギャグ称号誰が仕込んだんだ。いいセンスしてんじゃねえか。



 おお、また光った。今度はなんだ。ヘアバンド? ただのヘアバンドっぽいな。ふむ、そうなると、どうやら【不断の開発者】はステータス補正なしのお遊び称号ってことで確定か。


 ま、エンジョイな坊主にはお似合いな称号だな。



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・万事屋で針金ズミ君を購入する。

・リザードドッグのビーチサンダルを作ろうとする。

・創作:【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】【孤高狼のターバン風ヘアバンド】

・その他武具をできるだけ分解してみる



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし!

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv3】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】

 装備:【孤高狼のターバン風ヘアバンド】new!

    【ただのネックレス】new!

    【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】new! 

 所持金:約0万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

〇進行中クエスト:

<クエスト:教会ステラの依頼>

●進行中特殊クエスト

<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>

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