第25話 豪華サービスも突然に

ピロン

『一度転職すると、48時間は転職できませんがよろしいですか?』



 転職決定ボタンを押すと、初めて聞くSEと共に警告メッセージが現れる。



 え? そうなの? 48時間… 丸2日間は転職できなくなるのか。っていうか、今回の俺は「転職」じゃなくて「就職」なんだけどな。



 うーん、これはちょっと悩むぞ。まだ実質12時間くらいしかプレイしてないんだよな。もしかしたらこの先に俺でも戦闘が出来るようになる職業が解放されるかもしれないしな。今回、いくら解放されたと言っても【薬師】だ。生産職でしかも駆け出し感出まくりの職業なんだよな。ここは転職を我慢するっていう手もあるよな。



 そんな迷いに迷っていると、さっきの店員さんが料理を持ってきてくれたようだ。



「こちらオーク肉の香草包み焼きと、ジバードの卵スープ、特性黒揚げパンです」


「はい?」



 店員さんの言葉に俺は耳を疑う。明らかに俺の見つけたコスパ最高セットではない。


 両手と腕の上に器用にお皿を乗せてきた店員さんに申し訳ないが注文したもの違う旨を伝える。すると彼女はにっこり微笑んだ。そしてメニューが違うことの理由を説明してくれる。



 ご親切に



『こちらは、当店の自慢のおすすめ料理なんですよ。女将マーサさんからのサービスです』



「…………」

「…………」

「…………」



 店員さんの大声に周囲の喧騒が一斉に止む。



 嫌な予感がして恐る恐る周りを見ると、ほとんどの客が食べる手を止めて俺を見ていた。プレイヤーもNPCも…NPCも?



「どうかしましたか?」



 店員さん、ポカンとして俺を覗き込んでいる。「なぜ喜ばないのか?」という表情なのだが…



「あ、いえ、ちょっと周りからの圧力が…」



 俺がそう言うと、店員さんも周りの様子に気が付いたようで、はっと口を手で塞いだ。



「ごめんなさい、大きな声で言うことじゃなかったわね」


「え、ええ。でも大丈夫ですよ」



 店員さんとそんなやり取りをしているうちに、消えていた音が再び聞こえ始め、次第に元の食堂の喧騒さを取り戻していった。俺も胸を撫でおろす。



「女将さんがサービスするなんてこれまで一度もなかったのよ。いつもは『うちの料理はどれも逸品なんだから、全部サービスみたいなもんだ』って」



 店員さんがそう耳打ちしてくるんだけど、そんなすぐそばに顔を近づけられるとちょっと照れる。この店員さんおっちょこちょいだが、結構かわいい系でもあるのだ。



「あ、それで周りのお客さんがこっちを見てたんですか」


「アハハ、そうね。あの女将さんがサービスするなんてどんな奴なんだってことでしょうね」


「あはは、は。じゃあ、いただき…ます」



 不味いな。いや、料理はおいしそうなんだけど。いやしかし、これって周りからの嫉妬感が半端ないんじゃないか? 俺はなるべく敵は作りたくはない派なんだが。



 とりあえず、現実から目を背けるために目の前の料理に集中する。そして俺は目を見開く。ただ現実逃避のために料理を口に運んだのだが、一口食べたら周りへの心配は遥か遠くへ吹き飛んでいった。



「うんっま。やばいな、これ」



 オーク肉は噛み応えのある豚肉のような食感だけど、弾力があるだけで固いわけじゃない。プリっと簡単に歯が通る。そして噛めば噛むほどにうま味が口の中に氾濫する。最高級の豚の角煮といえばいいか。溢れる肉汁に香草のスパイシーな刺激が絡まってしまうともう俺は手を止めることができなくなっていた。


 ジバードの卵スープは、旨味が凝縮してほんのり甘みも感じる味だ。それでいて後味がさっぱりしている。


 黒揚げパンは揚げた香ばしい香りにシナモンの刺激、そして黒砂糖の複雑な甘みがよく合う。甘さは控えめで他の2品と喧嘩しない絶妙な組み合わせだ。



 くうう、こんなに旨い料理が食べられるなんて、本当に幸せだ。これはマーサさんには何かお礼しないといけないな。今度来るときに何か持ってこよう。料理に使える食材とかあったらいいけど。モンスター肉は俺には無理だけど。薬草なんかはどうだろう? 装備が整えばワンチャンあるかもしれんし。



 俺はすべてをペロッと食べ終わると「女将さんによろしくお伝えください」と言付けて店を出た。目の前は広場だ。さて、ここから東へ向かって教会へ行こう。



 ちなみにマーサさんからサービスしてもらった高級料理セットは1時間HP継続回復(微)、30分全ステータス10%UPという破格のバフが付いていた。でも俺のステータスは全部1なので小数点以下が切り捨てられて1のままという、マーサさんには大変申し訳ない結果となった。





「ごめんください」


「はあい」


 教会で声を上げると、出てきてくれたのはシスターのステラさんだった。朝ごはんの準備をしていたのか、いつもの修道着に黄色いエプロンをしている。白い卵のアップリケが不揃いに付いているのは子供たちが付けてくれたんだろうか。



「まあ、スプラさん、今日はお早いんです…ね」


 ステラさんの視線が俺の頭に。あ、これかヘアバンド。



「はい、今いろいろとやりたいことが多くて、この時間から活動しているんです。もしかしてステラさんは朝食の準備中でしたか?」


「はい、でも今ちょうど終わったところです。これから子供たちを起こしに行くところだったんです」



 そう言うと、ステラさんはエプロンを脱ぎ始める。金色の髪が乱れてぼさぼさに。こりゃ確かにヘアバンドしたらいいよな。



「そうでしたか、朝のお忙しい時間に来てしまってすみません」


「いいえ、そんなこと。わたしのほうこそ、昨日のあの夕刻から2件も配達をお願いしてしまって。忙しかったんじゃありませんか?」


「いえ、時間はたっぷりとありますから。あ、これ受領書です」


「はい、確かに。ではこちらが2件分の報酬460Gです。少なくて申し訳ないのですが」



ピンポーン

『<クエスト:教会ステラの依頼>を達成しました。

クエスト内の行動によりスキル【配達Lv3】のレベルが上がりました。

クエスト内の行動により【献身】のスキルを習得しました。

クエスト内の行動により【武具破壊】のスキルを習得しました。

クエスト内の行動により【武具劣化】のスキルを習得しました。

クエスト内の行動により【武具命名】のスキルを習得しました。

特定スキル群の内3つ以上のスキルが一度に習得されたため、【武具破壊】【武具劣化】【武具命名】のスキルが統合され【リサイクル武具】のスキルを習得しました』



 ええっと…………はい? 





❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


 いや、転職しねえのかよ! 見習いだとしても薬師よりもいい職業なんてそうそう解放される訳ねえだろ。さっさと転職して薬師の楽しそうなポーション作りを撮らせろよ。



 は? サービス? おい、MSよ、お前そんなキャラじゃねえだろ。勝手にキャラチェンすんな。それから、そのサービスのセット旨そうじゃねえか、くっそ。



 あああああああああああああああーーーーーー!!!!

 それはあかん、それはあかんぞ。

 そんなもんプロモーションなんかに絶対に使えんやつだろ!!!



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・完了 <クエスト:教会ステラの依頼>

・スキル【配達Lv4】【献身】【武具破壊】【武具劣化】【武具命名】

・スキル統合【武具破壊】【武具劣化】【武具命名】→【リサイクル武具】



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv4】new!【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】new!【リサイクル武具】new!

 装備:【孤高狼のターバン風ヘアバンド】

    【ただのネックレス】

    【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】

 所持金:約0万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】



◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

●進行中特殊クエスト

<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>

〇進行中クエスト:

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る