2日目 特殊クエストは頑張るもの

第24話 2日目 ステータス変化と初就職

 2日目は朝8時にログインした。



 宿屋のベッドで目が覚める。


 FGSのログイン場所はログアウトが街の中であれば宿屋か噴水前になる。宿屋に泊まれば誰にも見られることなくログインでき、その部屋は宿屋を出るまでプライベート空間として使用できる。宿屋以外でログアウトした場合は噴水前だ。



 ちなみに、町の外でのログアウトには専用のアイテム『宿泊テント』が必要だ。これは道具屋で売っているが、プレイヤーのレベルによって値段が変わる。基本は100G×プレイヤーレベル。あとはレベル10毎に上昇率が上がっていく。



 まあ、そのへんはレベルが上がらないだろう俺には関係なく、この先ずっと100Gで定額料金となる。



 閑話休題



 目が覚めた俺がベッドから降りると、部屋の中には昨晩の武具改良パーティーの残骸が散乱していた。



「うわあ、せめて掃除くらいはしておけばよかった」



 後悔の念を抱きながら、とりあえずは部屋の片づけを済ます。残骸は【ゴミ】という名前でアイテム化されている。備え付けのごみ箱に入れると吸い込まれていった。【ゴミ】と【布きれ】【革きれ】の違いに頭をひねりながらゴミを拾う。



 部屋も片付き、いざ部屋の外へ出ようとすると、若干足元がふらついた。慌ててステータス画面を開くと、黄色いバーが4分の1程になりゆっくりと点滅している。



「そういえば、昨日は昼ご飯食べた後は何も食べずにログアウトしちゃったな。ちょっとはしゃぎ過ぎたか」



 宿屋の受付で一角亭の営業時間を聞くと、朝5時半からやっているとのことだった。



 ロビーに用意されてる姿鏡で自分を見ると、上からヘアバンド、ネックレス、そしてローマサンダル、略してローサンを身に着けた自分の姿が見える。ジャージの部分だけ視界から排除すると、まんざらでもない。


 それだけでも宿屋から出る足取りも軽い。「やっぱ恰好って大切なんだな」としみじみしながら。そのまま気分だけ軽い足取りで一角亭に向かう。



「ねえ、あれ」

「へえ…」


「おい、あれって」

「ああ、あれな」



 なんとなくプレイヤーからの視線を感じる。昨日みたいにあからさまな侮蔑の雰囲気は感じないが、なんとなく複雑な空気であることはわかる。



 そりゃそうだろう。なんたってオヤジ臭強いジャージの下に黒艶のローサン履いてるんだから。俺が見たって「お前は何がしたいんだ?」ってなるわ。



 で、一角亭への移動だが、今はまだステラさんの配達クエスト中。少しだが移動が速いのが助かる。ただ空腹度の減りは配達中ゆえにやっぱり速い。黄色バーを逐一確認しながら中央広場前の一角亭を目指す。



 朝の一角亭は朝8時過ぎという時間にも関わらず盛況だった。すでに数人の客が並んでいる。俺もスッと最後尾に並ぶ。が、その時『一角亭&空腹』と言うパワーワードに俺の頭に警鐘。ネヒルザ襲来が頭をよぎる。これはあれだ。パワハラ上司にも植え付けられたからわかる。『トラウマ』というやつだ。



 プチバイタル異常と戦いながら周りを何度も振り返る。そんな不審者さながらな風で待っていると、意外にも数分で店内に通された。客の回転が思ったより早かったらしい。体から緊張が抜けた瞬間だった。



 店内を見渡すと客のほとんどがをしていた。アイコンが青いプレーヤーに限らず、緑のアイコンのNPCも鎧を着て剣と盾を背負っている。



「俺がこんな冒険者に仲間入りするのはいつになるやら」



 昨晩のローサンとヘアバンド作りが成功し、草鞋を卒業できたことで内心かなり喜んでいたのだが、こういった厳つい冒険者然とした装い連中に混じると、自分がやっぱり場違いなんじゃないかと感じてしまう。だって耐久補正0のチャラい系装備なんだもん。



 自分の場違い感に落ち着かず隅っこの席から店内をキョロキョロ見渡す。すると女性の店員さんがメニュー表を持って来てくれた。


 渡されたメニュー表には料理の価格とその料理の説明と効果が載っている。店員さんは渡すものを渡すと、すぐに別の席へと別のメニュー表を持って去っていった。その去り際にチラッと視線を落としていく。



「今、俺の足元に目がいったな。ローサンか? だとするとやっぱりこのジャージは何とかしたい」


 しかし、今はジャージより満腹度。とりあえずメニューを開くと、どの料理にも横にチェックを入れる箇所がある。そして各ページの下段には今の自分の緑、青、黄色のバーが分かるようになっていた。1つの料理の横にチェックを入れてみると、それに合わせて自分の黄色いバーが増えた。どうやら食べる料理とその効果が事前にわかるようになっているようだ。親切設計でありがたい。



 あれこれチェックを入れてみると、値段が高いほど満腹度の回復度も高かった。メニューを読み進めると、「おすすめセット」なるものもあり、こちらはメイン料理だけでなく、スープ、サラダ、パンなどがセットになっていた。価格を計算してみても特に割安という訳でもなくセットにする意味を不思議に思ったが、チェックを入れてみると理由が分かった。ステータスにバフが付いたのだ。筋力、耐久、敏捷、知力、器用の一部が一定時間上昇するらしい。もちろん、こちらも価格が高いほど上昇率や時間も増える。



 しかし、どれも昨晩大金を手放した今の俺にはとても払える額じゃなかった。まあ、別にモンスターと戦う訳ではない今の俺にはバフなんて贅沢なものは必要ないだろう。



 セットを一通り確認した後も興味本位でいろいろいじっていると、注文する料理の組み合わせによって若干回復度も変わってくることがわかった。料理にも相性がありそうだ。まあ、たしかにリアルでも食い合わせが悪いと下痢したりするしな。



 自分なりに想像しながら良さそうな組み合わせを考えては試していく。今回は金欠もあり黄色バーの回復だけを考えたコスパのいい料理セットを探す。そして見つけた。



 ウルフ肉の野菜炒め 550G

 黒パン       100G

 赤ダケのスープ   150G

          計800G


 これが俺の黄色バーを最安で全回復させる組み合わせだ。


 普通にセットを選ぶと3000Gとかして金が足りなかった。この組み合わせは一番安いものから組み合わせていったら見つけたお得セット。HP回復微というおまけつき。うん、たった今このセットの常連になる事が決まった。


 ちなみに俺のHPは100Gのポーションで全回復する程度だ。それを考えると食費ってすごいコストがかかる。100円の全快エナジードリンクと一食800円の外食。そう考えるとポーションが安く感じる。あの薬屋は良心的なのか。無愛想だけど。


 俺専用メニューにチェックを入れて決定を押すと、メニュー表は「注文完了」の文字を発して光の粒になって消える。金額分が所持金から引かれたのを見ると、これで注文完了ということでいいんだろう。


 頼むものを頼んだ後は、周りをチェックする。貧乏でも最弱でも情報収集くらいはできる。


 朝だからか客は本当に強そうな見た目の気合の入った冒険者ばかり。料理をがっついているプレイヤーを興味本位で見ていると、偶然目が合ってしまい笑顔を向けられたため、急いでステータス画面を開いて誤魔化す。


 情報収取は奥が深い。貧乏でも最弱でもできるが、コミュ障にとってはそのハードルは高かった。



 とりあえずここは、「俺は今ステータス画面を見ているので話しかけないでくださいね」という空気を出しておく。で、リアリティを出すために本当にステータス画面を開く。



 名前:スプラ

 レベル:1

 種族:小人族

 職業:なし(!)

 属性:なし

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv3】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】

 装備:【孤高狼のターバン風ヘアバンド】new!

    【ただのネックレス】new!

    【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】new!

 所持金:…


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

●進行中特殊クエスト

<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>

〇進行中クエスト:

<クエスト:教会ステラの依頼>



 ステータス画面を開くと俺は気づく。


「おっ、職業んとこに(!)があるじゃん。そっかそういや職業解放されてたっけ」


 

 いろいろあったとはいえ、職業が解放されていることを忘れてしまっていたとは… うっかりさんにも程がる。


 よし、では忘れてた解放された職業から見てみますか。



【薬師見習い】

 中級以上のNPC薬師に才能を認められることで解放される。

 習得スキル【調合Lv1】



 おお、【調合Lv1】だ。これがあれば【薬の基本知識EX】が生かせるじゃん。これは薬師になって調合しまくるって手もあるな。



「じゃあ、もう早速無職から卒業しちゃいますか? ポチッとな」




❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


 あ、薬師を思い出しやがった。

 できればもう1,2日忘れててほしかったが、まあ、プロモーションもあるしな。ここはオッケーだ。

 よし、小僧、いいとこ見せてみろ! バッチリ撮ってやる。



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・初めての装備装着

・一角亭で食事(サービス込み800G)

・食事セットのお得システムに気が付く

・転職を試みる




◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv3】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】

 装備:【孤高狼のターバン風ヘアバンド】

    【ただのネックレス】

    【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】

 所持金:約0万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】



◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

●進行中特殊クエスト

<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>

〇進行中クエスト:

<クエスト:教会ステラの依頼>

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