第7話 ユニークスキルの真価

「おい、お前それ…」



 オヤジは明らかにムッとした表情だ。いや、直角お辞儀で下を向いているから表情は見えないんだけど、すごっく語気が荒いから怒ってるはずだ。



 あの時と同じだ。あのクソパワハラ上司。いいこと言っといて、いざミス告白したら怒鳴り散らかしやがって。でも、それでも謝り抜いた自分を褒めてやりたい。



 思い出したくない過去が脳裏をよぎる中、チラッと目線を上げると、オヤジがグローブみたいな手袋をしてカウンターを出て来た。これから俺はあれで首絞められたりするんだろうか。向かってくるオヤジの厚い胸板とぶっとい腕が俺を威圧する。



「おい!」

「はい!」

「さっさと寄越せ!」



 垂直お辞儀に力が籠る。折れた短剣は自分の頭よりも上にし、垂直ながらも頭はできる限り地面へ落とす。パワハラ上司と数年やってきたことでこの辺の対処の仕方は心得ているつもりだ。



「はあ… で、大丈夫だったか?」

「…へ?」



 垂直お辞儀のまま顔だけ上げてオヤジを見ると、その顔は怒りというよりも困り顔? 俺が両手で差し出していた短剣を手に取ると刃こぼれした部分を光に晒して嘆息する。



「ほら、怪我とかなかったか?」

「あ、いえ、それは大丈夫です」



 直角お辞儀の俺の姿勢を戻させるオヤジ。なんかパワハラ上司とは違った反応に戸惑いを隠せない。



「この剣はな、さっきまでここにいた連中が自分の剣を打ち付けて刃こぼれさせてったんだ。って言っても、悪いのは刃こぼれするような剣をこんなところに並べてたこっちだ。冒険者が命を預ける剣がこんな脆かったら信用問題だろ。欠けたらしいことが分かった時にさっさと片付ければよかったんだが、すぐに兄ちゃんが来たから引きそびれちまってな。まさかこいつが… いや、心配させて悪かったな」



 おじさんはそう言って俺の肩をポンポンと叩く。



「あ、いえ、大丈夫です」



ピンポーン

『特定行動により【正直】のスキルを習得しました』



ピンポーン

『固有スキル【マジ本気】の特殊初期状態からのスキル習得が確認されました。固有スキル【マジ本気】における効果解放条件を満たしました。固有スキル【マジ本気】の効果が解放されます』



「はい?」

「お、どうした?」



 ホッとしたのもつかの間、いきなりのアナウンスに今度は違った意味で心臓が高鳴る。俺を心配する武器屋のオヤジには悪いが、ステータス画面をチョイチョイ。



【正直】

 特定NPCに自分に不利益がもたらされる恐れのある情報を正直に伝え、その行為が当該NPCに認められることで習得されるスキル。自身が被る恐れのあった不利益が甚大であるほど習得率が上がる。

 当街全NPCからの信頼度が一段階上がる。



【マジ本気】

 三柱の一人レイスに認められ、この世界を全ての可能性を求めて生き抜く覚悟を持った者に与えられた固有スキル。初期種族は最弱を誇る小人族。レベルが極端に上がりにくく、スキルの習得には多大な犠牲が求められる。初期における、職業、属性、所持品、所持金を失う。死に戻るたびにレベル、職業、属性、所持品、所持金、スキルが初期状態に戻る。

 new! 小人族がひとたびスキルを習得すれば、その秘めた可能性は次々と開花するだろう。その美しさは満開の山桜の如く。


 ≪解放効果≫ 

 ・削除:スキル習得率減少(極大)

 ・スキル習得率上昇(大)new!

 ・スキル成長率上昇(大)new!



 おいおいおいおいおい、おーい。なんだよ、なんだよ、海賊め。【マジ本気】ってこんな効果があったのかよ。もう、そういう事なら先に言ってくれたらよかったのに。



 それにしても【正直】か。ミスを隠したら後でとんでもないことになるって事は経験してきたからなあ。「ミス告白してもどうせ怒られるんなら言わんとこ」って思ってて、後からバレたときのクソパワハラ上司の激怒ぶりにはいっそ殺してくれとさえ思ったもんな。



 で、なんだ、「自身が被る恐れのあった不利益が甚大であるほど習得率が上がる」…いやいや、スキル習得率減少(極大)を突き抜けてくる不利益ってどんなだよ、めちゃくちゃ気になるじゃん。聞いてみる?



 ふと、オヤジを見ると、俺がステータス画面を開いているからか待っててくれてるらしい。


 ま、いっか。とくかく、これでスキルを習得しやすくなったってことだな。ステータスは相変わらず紙くずだから戦闘は無理にしても、生産とかならできるかもしれん。ちょっと楽しくなってきたじゃん。



 俺が画面を閉じるとオヤジが話し出す。


「そうか、怪我がなくてよかった。じゃあ、お詫びにと言っちゃなんだが、この俺が兄ちゃんにぴったり合った装備を選んでやるよ。ちなみに予算はいくらだ? それと欲しいのは武器か? 防具か? 見たところどっちも持ってなさそうだが…、にしても冒険者になるにしてはずいぶん貧相な格好だな…。おい、兄ちゃん、まさかとは思うが金もないとか言うんじゃないだろうな」



 いや、そんなハッとした顔で見られてもないものはない。なーんにもない。



「えっと、実はお金は1Gも持ってないんすよ。財布空っぽ」

「なんだ、装備もなくて、金もないのか。珍しい奴だな、兄ちゃん」



 俺が一文無しをカミングアウトすると、なんだか一層まじまじと見てくる武器屋のオヤジ。



「さっき来た冒険者連中も初めて見る顔だったが、なかなかいい装備を揃えてたぞ。一人は自分の武器を売って上等な短剣を買っていきやがったからな。金もある程度は持ってたみたいだったぞ」



 上等な短剣? あ、この辺のやつか。げ、40,000Gもすんじゃん。え、てことは、初期装備ってそれ以上で売れんの? マジか?



「ま、まあ、冒険者ってのはだ、そう、人それぞれだ。金なんかなくたって地道にモンスター狩ったり依頼をこなせばいいんだよ」



 俺の動揺を察したのか、オヤジが焦ってるようだ。なんか慰めようとしてくれる。このオヤジ見た目によらす優しいんだな。



「キャラ作成でやらかしちゃったんすよ…。いじめというかパワハラに遭いまして」



 当然、武器屋のオヤジにキャラ作成とか言っても通じるわけもなく、ただ不思議そうな顔をしている。



「ふん、ちょっと何言ってるのかわからないところはあるが、兄ちゃん悪い奴じゃなさそうだな。よし、じゃあ、ちょっくら頼まれてくれないか。さっき言ってた『依頼』ってやつだ。これは俺の依頼だから、ギルドに登録してなくても大丈夫だ。なあに、装備も金もない兄ちゃんにだってできる簡単な依頼だ。少ないが、ちゃんと報酬も払うぞ。どうだ?」



 オヤジがそう言うと、頭の中でピンポーンと音が鳴り、視界に文字が現れる。



『クエスト<武器屋??の依頼>が発生しました。受けますか? 』



「え、クエスト?」

「くえすと? よくわからんが、受けるのかい? やめとくかい? 報酬はきちんと出すぞ」



 うおおおお、来た来た。初クエスト。もう諦めてたのに。こんな形で来るとか。



「あ、受けます。是非やらせてください」



ピンポーン

『<クエスト:武器屋??の依頼>を受けました』



 頭の中にアナウンスが響く。


「よし、じゃあ、このナイフを中央広場のすぐ南にある薬屋に届けてくれ。草と瓶の緑の看板だから、広場に行けばすぐにわかるさ。よろしくな」



 そう言って武器屋のオヤジは俺に皮の鞘に入ったナイフを差し出す。そのナイフを丁重に受け取った俺は、ナイフを肩掛けカバンに仕舞って武器屋を後にする。



 いやったぜい。念願の初クエストに足取りも軽い気がするぞ。ん? 子供に追い抜かれてる? うん、気にしない気にしない。




❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


 はああああああああ? 効果解放だと?

 ないないない、ありえんだろ。

 なんでスキル習得した?

 しかも【正直】っていや破格効果で超難易度だろ?


 これはちょっと調べんといかんな。


――――――――――――――

◇達成したこと◇

・習得【正直】

・固有スキル【マジ本気】の効果が解放される

・武器屋の依頼を受ける



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 装備:なし

 固有スキル:【マジ本気】new!

 スキル:【正直】new!


 進行中クエスト:

 <武器屋マークスの依頼>new!



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