第4話 冒険者ギルドでの扱い

 コミュ障でも他のプレイヤーの動向は気になる俺。プレイヤーが集まる一角がすごく気になる。


 なるべく目立たない経路でじわじわ近づく。考え込んだまま向かってもいいが、この服装だ。変に絡まれるのも御免こうむりたい。そうして進むこと数分後、はっきりと見えてくるその建物。



「ああ、冒険者ギルドか」



 建物には大きな看板が掲げられ、『冒険者ギルド』とデカデカと書かれている。入り口付近には数名のプレイヤーが並んでいるのが分かる。



「そっか、これがあったじゃん。なんで忘れてたんだよ」



 RPGにはなくてはならない冒険者ギルド。そうだった。冒険はここから始まると言っても過言ではない。冒険者はここで仕事の依頼を受けたりして金を稼ぐのが王道だ。



 冒険者ギルドには、魔物の討伐依頼など危険な仕事以外にも街のお手伝い的な依頼があるはず。それなら死に戻りせずに金を稼げる。そしてそのお金で武器や防具を買えば死に戻りの危険も少なくなるだろう。



 遠巻きに見ていると、しばらくして建物の前に並んでいたプレイヤーの姿が少なくなり、列が途切れる。俺はその途切れた瞬間を逃さず中に入る。中の様子はまあまあの数のプレイヤーがいたが、それぞれ自分の事に集中して俺のことを見てくる奴はいない。



 よし、じゃあ、まずは掲示板からだな。



 少し探すとすぐに掲示板が見つかる。でっかい木製のボードに紙切れが大量に張り出されている。目的の依頼の有無を確認するため掲示板に近寄っていくと、結構遠くからでも掲示板の内容が視界のウインドウに表示される。



「お、あるじゃん、あるじゃん」



 掲示板の画面リストにはモンスター討伐依頼から薬草などの植物採取依頼がずらっと並ぶ。割合的にはモンスター討伐系依頼が6割、探索・採取系依頼が3割、そして俺のお目当てである街のお手伝い系依頼が1割存在していた。



 報酬は討伐依頼が1000G以上、採取依頼は400G以上、お手伝いは200~1000G程といった具合だ。お手伝い依頼だけは所要時間も記載されていて、殆どが1時間程度となっていた。



 ふむ、お手伝い系は時給計算ってことか。200Gって、最低賃金大丈夫か?



 お手伝いクエストには必要スキルの条件付きのものもあり、高額報酬のものはすべてスキル条件付きだった。初期スキルでは見ていないスキルなので、今はまだ受けられない。まあ、「こういうスキル習得を目標にしろ」ってことなのだろう。



 唯一初期スキルで見たことのあるものは【よく見る】。確か、職業『探索士』の初期スキルだったはずだ。こちらは300G以上の報酬が約束されている。ちなみにスキル条件のないものは一律200Gだった。



 リストは抽出機能付き。全体表示にすると文字がグレーになっているものがズラッと並ぶ。このグレー表示は他のプレイヤーにより受注済みということで、討伐依頼は7割ほどが受注済み、採取にいたっては8割以上が受注済みだった。お手伝い依頼に関しては条件なしの依頼は全くの手付かずだ。



 まあ、配信開始日に誰も200Gのために1時間もかけたくはないのだろう。それにフィールドなら採取も討伐も同時に進められるんだから、誰でもそうするだろうし。



「ま、俺にとってはいい傾向だな。この際200G依頼は独占させてもらうか」



 一通り依頼を確認した後は空いているカウンターに進む。



「冒険者ギルドにようこそ。本日はご登録ですか?」


「はい、登録をお願いします」



 鼻筋の通った少し切れ長の目をした女性が笑顔を向けてくる。営業スマイルというやつだろう。それでも不愛想よりは数段良い。コミュ障には気位高い美人と無愛想はかなりきついのだ。



「ご登録ですね。承知しました。説明の方はこちらのパンフレットをご確認ください。ご質問があれば問い合わせ窓口にて承っております」



 そう言って受付女性は三つ折りのパンフレットを差し出し、隅っこにある仕切りに囲まれたスペースを示す。質問は別窓口ということか。



 パンフレットを受け取ると周りの音が聞こえなくなった。どうやら別空間に飛んだようだ。



「では、こちらにお名前とご職業をご記入ください。ご職業に見合った依頼は優先的に受けることが出来ます。依頼が入った時点で情報が自動配信されますので」


「えっと、職業?」



 カウンター越しに発せられた言葉にドキッとする。ステータス画面をチョイチョイ。うん、どう見ても絶賛無職の表示が見える。



「自動配信サービスは要らないんで名前だけで登録したんですけど」


「申し訳ございません。ご職業の提示がないと冒険者としてのご登録自体ができないのです。異人の皆様ならどなたでもご職業をお持ちだと王都から聞いておりますので」



 異人。そう、異人とはプレイヤーのこと。さっき掲示板の前でプレイヤーが話してた。プレイヤーが必ず職業を持っているはずなのは理解している。キャラ作成で見てきたらかな。だけど例外もあるんだぜ。ほら目の前に。



「っていうか、職業がないんです」



 ないもんはしょうがないんだ。あの黒いおっさんのせいだからな。



「えっと、そう言われましても職業がない異人の方はおられないかと…、ちなみに人に言えないご職業、犯罪関連のご職業ですと町の衛兵を呼ぶことになりますが」


「あ、いえ、そういうんじゃないです。また改めてきますね。それじゃあ」


 話の雲行きが怪しくなってきたところですぐさまUターンを決める。パワハラ上司仕込の早業だ。牢獄行きとかになったらシャレにならん。これ以上のハンディキャップを負うことになったらマジで耐えられそうにない。


 さて、これでいよいよやれることがなくなってきたな。完全にというやつか。なんか疲れたな。





 ゴボゴボゴボ、ザッブーン。



 もう何度この噴水の音を聞いたかね。


 初めて見た時には、現実にはあり得ないスケールにちょっとは感動したものだが、5分に1回打ち出される大量の水の音を連続で聞き続けることすでに5回以上。もう感動なんてものはこれっぽっちもなく、ただ無益に時間だけが過ぎていくことを伝えてくる鬱陶しい雑音に成り下がっている。



 街の外に出ても駄目、街中でも依頼を受けられない。やれることが見つからない。



 2時間前、冒険者ギルドを出てからは、何かしらのクエストが発生しないかと街中を歩いてみたりした。



 南地区、西地区をあちこち移動してみたんだけど、迷子のこどもが泣いているだとか、行方知れずのペットを探しているだとか、重労働をしている老人とかわかりやすいイベントフラグはない。



 で、変に目につくのはプレイヤーばかり。狂ったように同じ行動を繰り返す奴らや地面や壁や草や石ころなんかも調べて歩く奴ら、なんか綱渡りしてる奴もいた。なんか別のゲームでもしてんのかって感じだが、そういう俺もたぶん別ゲーをしてるんだろう。人の事は言えない。



 そうして、たまにすれ違うNPCに話しかけるもテンプレな会話しか成り立たない。



 つまりは何も起きない。



 で、これといってやることもなく、一番馴染みのあるこの噴水前で黄昏れているって訳だ。もう周りからの視線もひそひそ声も気にならなくなった。



「おい、早くしろよ!」


「ちょっと待ってよ、もう」



 そんな俺の前を走っていくプレイヤーたち。なんかすっごい急いでる様子。



「もう、どうやったら北地区と南地区を聞き間違えるのよ」


「知らねえよ、通りすがりのプレイヤーの話が聞こえてきただけなんだから。そいつらに言えよ」


「南地区なんて畑ばっかりだったじゃないの、もう」


 言い争いをしながらパーティーは北地区へ向かっているようだ。コミュ障の俺が何があったか聞くことはない。ないのだが気にはなるな。


「おい、早く」


「ちょっと、わたしだってMP回復しないといけないのよ。MPポーション買いに行きたいのに」

「それは後でも買えるだろ。短剣買えないとしばらく狩り無理だぞ。ほら」

「あ、ちょっと、もう。行くから待ってよ」


… 


 なんだ? 短剣が買いたい? 背中に大きな剣背負ってるのに? 


 って言ってもさっき回ってみたけど北地区はなぜかプレイヤーが多いんだよな。今の俺は人込みはちょっとな… あ、確か武器屋だったら西地区にもあったよな。そっか、武器屋か。見るだけならただだし行ってみるか。



❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


 だっはっは。リスのサンドバッグの次は犯罪者扱いか、ほんと飽きねえな。

 いくら歩いたって見ず知らずの異世界人に心開くわけねえだろ。ちっとは考えろ。レトロゲーじゃあるまいし。


――――――――――――――

◇達成したこと◇

・冒険者ギルドで犯罪人扱いを受ける

・クエストを探して街中を歩く

・噴水の音を嫌になるほど聞く

・武器屋へ行きたくなる



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 装備:なし

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:なし

 所持金:0G

 



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