第3話  煽り耐性

 はっ、いかん、自分でGMコールしたのに海賊レイスの声を聴いたらキャラ作成の嫌な記憶がフラッシュバックしてしまったらしい。


『おいおい、人を呼んどいて「げっ」てなんだよ。俺とお前の仲なのに。落ち込むぞ』


 そんなことを言いながら俺の前に現れたドアから出てくる海賊のおっさん。周りの風景は一時停止中のように止まっている。これがGMコール仕様らしい。


「いやいや、なんすか、この固有スキル。マジなやつじゃないっすか」


『そう、マジなお前に俺からのマジなプレゼントだ。イカしてるだろ?』



【マジ本気】

 三柱の一人レイスに認められ、この世界をリスクを顧みず貪欲に生き抜く覚悟を持った者に与えられた固有スキル…


≪効果≫ 

・小人族:初期ステータス減少(極大)、レベル上昇率減少(極大)、スキル習得率減少(極大)

・初期職業、初期属性、初期所持品、初期所持金の喪失

・死に戻りにつき初期状態に戻る。



 イカしてるも何も「ずっと最弱キャラのままで死に戻りを繰り返せ」って風にしか読めんのだが。


 そもそも「リスクを顧みず貪欲に生き抜く覚悟持った者」ってなんだよ。そんなやつが6年間もパワハラ上司に気を使いながらせせこましく生きるかよ。


 そりゃあのクソ上司の顔が浮かんでカスハラもあったかもしれん。だが、さすがにコレはない。


「カスハラ対応はわかるけど、これはやりすぎでしょ。消費者センターに言いますよ」


『お前なあ、俺は聞いてたんだぞ。お前コリンズに「属性欲しい欲しい。全部くれなきゃやだー」って言ってただろ?』


 く、このおっさん。内容は正しいがそんな言い方はしていない。


「そんな子供みたいな言い方…」

『だよな。お前は子供じゃない。だったら自分が言ったことには責任持たないとな。それが因果律というやつだ』


 責任って…俺、なんでAIに上から目線で講釈されてるんだ。クソ上司思い出しちゃうだろ。


「もう、いいですよ。他の人に言いますから。あ、そうだZsteam社にクレーム入れますから」


『ああ、残念だが、そこにクレーム入れても無駄なんだなあ。お前さん規約読んでねえだろ』


「規約?」


『第8条に書いてあんぞ。FGS内でプレイヤーのとった行動による結果に付きましてはプレイヤー自身の責任となります。それに関しての一切の申し出は受けかねますってな。ほれ』


 レイスのおっさんが見せてくる画面には確かにその文言が書いてある。


 くっそ、こんなこと書いてあったのかよ。てかそんな規約読んでる奴いねえだろ。


「こんなの卑怯でしょ、もういいです。キャラ作成しなおします。初めからやります」


『ふっ、いいぜ、キャラクターの再作成料金は12万だな。ほら12万。ほらほら』


 くっそ、このAI、そんな当たり前みたいに金を要求しやがって。リアルでプロ野球観戦した時にお茶こぼしたら、前の席の女が少し服が濡れたからってクリーニング代5000円要求してきて、その怒った顔が怖くて頭下げて払っちゃったこと思い出したじゃねえか。


「じゃあ、もう消費者センターに言います」


『おやおや、自分のやったことに責任持てなくなったら今度は行政に泣きつくのか。そんな責任感のないやつはFGSには要らねえな』


「…責任感…要らねえ…」



~責任感のない奴は要らねえんだよ、クソ雑魚野郎~


 海賊レイスの言葉に俺の頭にフラッシュバックするクソパワハラ上司の言葉。

 


 …俺は責任感がないわけじゃねえ。

 


「じゃあ、責任とって12万払いますよ。で、もう一度コリンズさんと一緒に自分の好きなように楽しく作りますから。それじゃあさようなら。今後あたなと会うこともないでしょう」


『おお、そうかそうか、やっと12万払う気になったか。初めからおとなしく払っておけばよかったんだ。これで俺もこの金使ってアップデートできるってもんだ。何がいいかな~あ、そうだ演算処理チップを追加してもらおっかな。でもそうしたら今以上にモテちまうよな。デヘヘヘ』


 く、マジか。俺の12万ってこのオッサンに使われるのかよ。…そんなもん絶対に嫌に決まってるだろ。


「やっぱりやめます」


『なんだよ、やつだなあ』


「…このまま続けます。さっさとお引き取りください」


『え、続ける? お前、状況わかってんの? あ、もしかしてこの固有スキル持っててまともにプレイできるとでも思ってる? 頭の中お花畑なの? 責任感の意味はき違えてる?』


 くそ、バンバン煽ってくるな。何度も何度もクソ上司の顔を思い出させやがって。こっちだって6年も耐えてきたんだ、舐めんな。煽り耐性はカンストしてんだよ。


「このままで結構です。続けることに決めました。もうお引き取りください」


『なんだよお、期待させといてそりゃねえぜ。ったくもう、まあでも無理だと思ったらいつでも連絡して来いな。コリンズにうまく作り直してやれって伝えとくから。な?』 


「はいはい、もう邪魔なんで戻ってください」


『ちっ、使えねえ奴』


 海賊レイスは捨て台詞を吐いて渋々ドアを開けて戻っていった。


 くっそ、「責任感ない」とか何度も言いやがって。こうなったら意地でも続けたる。





 中央広場噴水前。


 ゴボゴボゴボ、ザッブーン


「だー、もう、マジかよ」


 これで5回目の死に戻りだ。


 海賊レイスのおっさんにいい思いさせないためにこのまま続けることを選んだ俺。こんなステータスでも「採取くらいならできるはず」、そう思って、フィールドに出てみた。


 周囲を警戒しながら進むもヒョコっと出てくるもふもふのリスに見つかり、体当たり1回で強制送還。死に戻ってから今度はさりげなく他プレイヤーの影に隠れながら移動。採取ポイントを見つけてこっそりと採取を始める。


 でも、採取を始めたはいいが、採取完了までにやたらと時間がかかる。こんなものかと他のプレイヤーを見てるとあっという間に採取を終えて次のポイントへ移動してく。


 それを見て俺は悟る。



「採取時間もステータス依存なのかよ!」



 これは器用さとか筋力あたりが怪しいな。


 で、なかなか完了しない採取を続けているうちに計算されたようにポップするリス。急いで逃げる俺の背後に体当たりをかます。そして三度目の噴水の音。


 それでも諦めずに頑張った。そしたら奇跡が起きる。なんと青草、治癒草、毒出し草の採取に成功したのだ。青草を採取して街に戻ろうとしたら道中に採取ポイントを立て続けに発見した。リスも現れず無事採取完了。そして俺の物欲センサーがMAXに達したとき、計算通りとばかりに背後にポップするリス。俺はあえなく噴水送りにさせられた。


 最後は街を出た瞬間に待ち構えていたリスにやられて、今噴水の音を聞きに戻ってきたところだ。



「くっそ、こりゃ確かに頭お花畑かって言われるよな」


 頭を過る後悔の念との泥仕合を続けていると周りからヒシヒシと刺さりまくる視線。


「ねえ、あの子、15分くらい前にも死に戻ってなかった?」

「え? 嘘、初ログインじゃない? 弱そうな格好だし」

「違うわよ、しっかり15分前に見たんだから。ジャージに草鞋なんてあの子くらいだし」

「おいおい、15分やそこらで移動できるってことはこの近辺ってことだろ? 雑魚しか出ねえのにどうやったら死に戻るんだよ。そんなんわざとやろうと思ってもできねえって」

「ん、ま、それはそうよね… でも確かに見たのよね」


 はいはい、そのできないことをやってるんですよ。門出た瞬間にやられましたよ。しかしあのリス公、とうとう俺が噴水から門まで移動する時間すら計算し出しやがったよな。


 って、そんなことより早くこの場を離れないと。変な噂とかになっても嫌すぎる。こりゃしばらく死に戻りは避けとくか。


 周りの目を誤魔化すために腕を組みながら考え込む素振りでその場を立ち去る。クソ遅いのに走ってるという情景が余計目立つということを理解したのだ。


「ねえ、ほらすごく考え込んでるみたいじゃん。やっぱ死に戻ったんだよ。もしかして突発クエストとかじゃない?」

「そんな突発クエストとか掲示板でも見たことねえぞ」

「でもほら、考え込んでるじゃない…」


 まだなにか話してるみたいだけど知らん。どうせろくでもないことなんだろう。


 去りながらこっちを見て話していた連中を横目で追う。すると、俺が去ったのを見てこぞって移動して行くようだ。どうも広場の東側にある大きめの建物に向かっている。


 そう言えば、いつもあの建物周辺にはプレイヤーが集まっていた気がするな。


「俺も行ってみるか。もうリスは飽きた」



❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


 いやいや、ちょっとばかし煽ってやったらコロッといきやがったな。大人成熟AIの煽りを舐めんなよ。

 そもそもたった12万で超性能AIの俺をどうこうできるわけねえだろ。四桁違うっての。しばらくはリスのサンドバックでもやってやがれ。はっは。


――――――――――――――

◇達成したこと◇

・海賊に煽られキャラ作り直しを固辞する

・リスに5回死に戻りさせられる。

・死に戻りの噂が広がる事を恐れて採取を諦める



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 装備:なし

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:なし

 所持金:0G

 

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