第2話 カスハラなんて…やりました

【Fresh Green Stage ~新緑のステージ~(通称FGS)】



『世界初の進化型フルダイブVRMMORPG』

 …という謳い文句で世間の期待を煽りまくって発売されたゲーム。


 世界中から一心に注目を集めるこのゲームは日本の元自動車メーカーの人工知能(AI)開発チームが制作した。



 奇人変人の集まりだと言われ続け社内で煙たがられいたそのチームの面々は、とある一人の男の手によって引き抜かれてAI開発会社「Z-stream社」として組織される。


 変人の皮を被った天才集団が、その埋もれさせ続けてきた潜在能力を存分に注ぎ込んで開発したAI。そのAIが作り出したMMORPG『FGS』は、「AIがAIを開発をする」というセンセーショナルな特殊技術の発表と共に世界に発信された。


 …が、同時に「危険な技術」との某AI大国からの情報操作を受けまくって期待が大失速した可哀そうなゲームでもあった。


 なにより1アカウント12万円という強気な高額設定であることも人気低迷に拍車をかけた。初回一万台の出荷分は4週間前から予約が開始されたが、3週間経っても予約が埋まることがなく、大金を積んだ大規模な情報戦を仕掛けることでようやく埋まったのであった。その日、関係者の安堵のため息で社内の空気清浄機が一斉作動したらしい。


 その後の発表された第二陣の追加販売は当初の四万本から一万本へ予約数を減らし、第三陣以降に持ち越されることとなった。


 大国、大資本による弱者の強制淘汰。多分に漏れずFGSもその淘汰の波に飲み込まれるであろう。誰もがそう思っていた中、FGSは配信開始の日を迎えたのだった。



§



~FGS内、配信開始1時間後~

 

 始まりの街 中央広場噴水前。



 ゴボゴボゴボ、ザッブーン



「マジかよ、雑魚にも一撃でやられるんか」


 いろいろあって、とにかく何かしようと街の外に踏み出した俺。だが、ひょっこり出現した可愛らしいリスの体当たり一撃により電光石火で死に戻る。死に戻り先はログイン時の馬鹿でかい噴水の前。


 死に戻った理由? それは俺の固有スキルにある。


 キャラ作成時に調子に乗ったら、変な海賊からのパワハラに遭って「全ステータスが1」とされてしまったのだ。その原因なのが海賊から押し付けられた【マジ本気】というふざけた名の固有ユニークスキル。


「そんなこと言っといて、結局やってみたらなんとかなっちゃうんでしょ?」と街の外に踏み出してみた結果、1分も経たずに噴水前に強制ワープしてきたという訳だ。


「くっそ、【マジ本気】とかふざけた名前つけやがって。AIが人間様をおちょくるとかどいう事だよ。ったく、あのレイスって海賊、絶対GMコールで首にしちゃる」


 俺はステータス画面をチョイチョイしてGMコールを探し出すとすぐさまコール。電話の呼び出し音が1回、2回となり、ガシャッと受話器を取る音が聞こえる。昔のドラマで電話を取るときの感じだ。レトロかよ。


『おう、どした?』

「げっ」


 GMコールで出た相手。それは俺をこんなステータスにしてFGSに放り込んだ張本人の海賊レイスだった。



§



 そう、俺がこのFGSにログインしてキャラ作成を始めたのは今から1時間ほど前。つまりFGSが配信された今日の正午だ。


 昼食を済ませてトイレも行き、準備万端にした俺は機材を装着、そしてFGSにログインした。



 FGSを手にしたのは偶然だった。もともとAIがAIを開発するっていうゲームが発売されることは知っていた。だが、そのニュースと共にネットやマスコミが物凄い勢いでネガキャンを始めた。


 ちょっと引くくらいの誹謗中傷の嵐だったが、要するに「人類置いてけぼりにしてAIだけの世界でも作る気か。そんなAIが勝手に作り出す世界に人が飛び込むなんて危険すぎる」っていう事だった。


 そのネガキャンを聞いて俺はそのゲームに興味を持ったのだ。


 俺自身は大学卒業して29歳までそこそこの企業で働いてきた。しかし、上司が最悪のパワハラ気質だった。映画化したら面白いんじゃないかってくらいの見事なパワハラを6年もの間、全集中で俺に注ぎ込みやがった。多分、俺がコミュ障ゆえに歯向かってこないから気をよくしたんだろう。


 で、6年耐えたが結局は気分を病んで会社を休職した。出勤しようとすると吐き気が止まらなくなり体と頭がアフリカゾウでも乗ってるんかってくらい重くなった。どうしようもなくなって医者に行ったら「休みましょうか」とあっさり休職を指示されたのだ。


 如何ともしがたい挫折感と自暴自棄の中、社会で吹き荒れるネガキャンの的になった「危険だと言われるゲーム」の存在を知ってなんだかよくわからんが惹かれたというわけだ。アカウント代の12万? パワハラ地獄の末に無我の境地に達した俺が躊躇するはずがないさ。


 配信当日になり、機材を装着し、電源を入れる。ピコピコとした音が流れてセキュリティーチェックが終わると、俺の意識は深く沈んでいく。


 気が付くと俺は椅子に座っていた。


 そこはうちのリビングほどの大きさの部屋の中、正面の壁には見たこともない空白だらけの世界地図が描かれている。子供の頃にやったRPGゲームを思い出させるその地図に妙に心が癒される。そして世界地図の端に置かれた海賊の置物は子供の頃に抱いていた冒険心を掻き立てる。あの頃は毎日が楽しかったな。


 周りを見渡すと、左右にはびっしりと敷き詰められた本棚や調度品の数々。これらもまた魔法や錬金術、ポーションに調合、俺が子供の頃の没頭したファンタジー世界を彷彿とさせる。


 あれだけネガキャンされてたけど、いい感じじゃん。


 コンコン


 後ろからドアをノックする音が聞こえる。


 見ると、部屋のドアが開いて個性豊かな二人の人、というかAIが入ってきた。ニコニコとした営業スマイルを湛えながら俺の前でこっちに向き直る二人。


 片方は西洋モデルのような天使風美女。

 もう一方は中世ヨーロッパ騎士風のイケメン男。


 二人を順番に見渡し終えると、そのタイミングを見計らったかのように真ん中のモデル美女が俺にヒラヒラ手を振ってくる。


 いや、すごくかわいいんだが…


「ようこそ、FGSへ。わたしたちはあなたを心より歓迎します」


 あ、だめだ。これ、かわいいけど、どうしていいのかわからんくなるやつ。学生の頃、人生最初で最後の合コンでこんなんあったけど、嫌な思い出しかない。無理無理。


「あ、はい、よろしきゅ… お願いします…」


 ほら、噛んだ。もう、こうなるんだって。俺コミュ障だから。


「わたくしは、『アマデウス』と申します。まず、あなたのお名前をお聞かせいただけますか?」


 アマデウスという目の前の美女に噛んだことを華麗にスルーされた俺はいたたまれない気持ちで過去の黒歴史を頭から追い出す。


 ピコン


 そんな俺の目の前に無機質なSEとともに現れる名前入力フォーム。でも、そんなやっつけ感が俺を黒歴史の束縛から引き戻してくれた。


 いいじゃん、この「さっさと決めろよ」感を出してくる感じ。俺は嫌いじゃない。表面上の駆け引きに身を投じるよりは、こういった無機質なやり取りのほうが安心感を覚えるんだよ、俺は。


 そして実のところ名前は既に決めてあったりする。


 ちなみに俺の名は大森双葉。双葉は英語でスプラウト。ということで…


『スプラ』


 フォームにチョイチョイと入力して決定する。


「はい、では『スプラ』さん、よろしくお願いしますね。では、名前が決まったところですし、キャラクター作成に進みましょっか」


 金髪美女のアマデウスさんがかわいらしく首を傾げると、今度は左にいたイケメン騎士が深緑色の髪をかき上げる。


「じゃあ、ここからは担当を変わるよ。僕はコリンズ。よろしくね、スプラ君」

「あ、はい…」


「じゃあ、これから僕と一緒に君のキャラクター作成をしていこう。まずは種族から順に聞いていこうかな」

「あ、種族は… なんでしたっけ?」


 投げやりで始めただけだから何も知らん。わからん。


「種族は大きく分けて人族と獣人族があるよ」

「人族と獣人族… ちなみに他のプレイヤーの傾向とかってわかります?」

「えっとそうだねえ… 今のところ人族が42.4%で獣人族が57.6%ってところだね」


 コリンズさんが空中の一点を見つめながら答えてくれる。おそらくリアルタイムの数字を答えてくれているんだろう。


 そっか、まあどっちでもいいんだけどな、やるからには他のプレイヤーには勝ちたいよな。


「有利なのはどっちとかあります?」

「うーん、そういうのはないかな。やりたいプレイによってって感じだね。よし、説明するからこっちに移動してもらおうかな」


 コリンズさんがそう言うと、俺は瞬時に暗い部屋の中に移動する。


 目の前には巨大なスクリーン。さながら一人映画館のようだ。スクリーンには初めコリンズさんの姿が映されていたが、画面が暗転して次のような文字が映し出される。



①種族…ステータス値に影響

②職業…スキルに影響

③属性…初期得意属性(火→風→土→水→火)

④初期装備…性能選択と見た目のカスタマイズ



「まあ、こんな感じだね。種族でステータスが決まり、職業で習得スキルが決まる。属性は四すくみの関係。戦闘では火は風に強いけど水には弱いっ感じ。あと属性は生産活動にも影響があるかな。初期装備は一律で破格の高性能。あとは見た目を結構自由に弄れる感じだよ」


 コリンズさんがざっくりとした説明をしてくれる。


「じゃ、種族から詳しくいくね」



【人族】

・初期ステータス値合計:80

・基本値合計:50 割り振りpt:30

・10≦各ステータス値≦20

 

(例)

 筋力:10 →20(+10)

 耐久:10 →18(+8)

 敏捷:10 →15(+5)

 器用:10 →15(+5)

 知力:10 →12(+2)



【獣人族】

・初期ステータス値合計:75

・基本値合計:40 割り振りpt:35

・5≦各値≦25

 

(例)熊の獣人

 筋力:12 →25(+13)

 耐久:10 →23(+13)

 敏捷:8  →13(+5)

 器用:5  →9 (+4)

 知力:5  →5 (+0)

 


「簡単に言うと人族は何でも一通りこなす万能型、獣人族は何かに秀でた特化型と思ってくれていいよ。序盤のステータスバランスはこれで決まるんだ。中盤からは種族進化があるからそこまで行くとこのバランスは変更できるよ」


 へえ、人族は万能型でパラメーター合計は多いけど最大が20までしか振れない。獣人族は特化型でパラメーター合計は人族より5少ないけど最大25まで振れる。なるほど、面白いじゃん。


「あ、ちなみに獣人族の種類は44種類だ。リスト見てみるかい?」


 現れた画面には動物の名前が画面いっぱいに表示された。犬、猫、牛、豚、狼、熊、虎、猿といったメジャーどころから、バク、コアラ、アリクイ、カワウソといった珍しいものまでずらりと並んでいる。


 ごめん、今の俺、こういうの無理。お薬の影響で考えるのが無理。


「ひ、人族でいいです」


「オッケー、数値の割り振りは後でゆっくりやってくれ。じゃ、次は職業だ。初期職業はこの5つだけだ。職業はスキル習得のためと思っていい。取得したいスキルに注目してこの中から選んでくれ」




【狩人】

 モンスターを狩ることを得意とする

 初期スキル【短剣術】


【探索士】

 探索することを得意とする

 初期スキル【よく見る】


【術士】

 魔法を使うことを得意する

 初期スキル【初期魔法※】

 ※属性により決定


【学徒】

 知識を得ることを得意とする

 初期スキル【読書】


【作業者】

 身体の強化を得意とする

 初期スキル【ルーティンワーク】



 ふむふむ、なるほど、狩人は戦闘系、探索士は調査系、術士は魔法系、学徒は研究生産系、作業者は…ルーティンワーク? なんかよくわかんないけど身体強化系スキルってことでいいんだろうか。


 スキルを見ていると、画面が二分割されて片方にコリンズさんが映し出される。そしてカメラ目線のコリンズさんが俺に向かって話し出す。



「ちなみに新しい職業は、『プレイヤーレベル』、『ステータス値』、『特定スキルとそのレベル』、『FGS内で行った特定の行動』とかで解放されることになるよ」


 そっか、まあとりあえずはモンスターでも狩っとくかな。


「じゃあ、『狩人』でお願いします」


「うん、了解。よし、じゃあ次は『属性』の説明だ。初期に選べるのはこの4属性だけど、どうする?」


 画面から職業リストが消え、次の文字が現れる。


 火属性……火との親和性が高まる。

 風属性……風との親和性が高まる。

 土属性……大地との親和性が高まる。

 水属性……水との親和性が高まる。


 優位性 

 火→風→土→水→火



 属性かあ。これ面倒なんだよな。凝り出したらキリがないというか。もういっそのこと…


「4つ全部ください」


「え、4つ? 全部? ははは、無理だよ、スプラ君。この属性システムはあえて得意不得意を設定することでプレイヤー戦略の多様化を目指すものなんだ。全属性所持となるとそのシステム自体が機能しなくなってしまうんだよ。そんなことを希望するなんて… なぜか0.2%のプレイヤーが希望したみたいだね。いや、なぜそうなるんだ?」


 コリンズさんが不思議そうに首を傾げる。どうやら俺と同じ輩がほかにもいたようだ。


「ま、まあ、属性は特殊イベントや種族進化で増やすことが出来るから。コツコツ頑張っていけばいつか増やせるようになるよ。だからこの場では1選んだほうがいい」


 だから、それがめんどいのです。もうランダムとかで決めてくれていいよ。


「じゃ、ランダムで」


「ランダム? いやいや、そこはよく考えようよ。ほら、初期魔法なんてこの属性で魔法の種類が決まるんだよ。生産活動するなら絶対に合った属性のほうがいいし」


 いや、ほんと。別になんでもいいから。なんならなしでもいい。


「じゃ、なしで」


「え、いや、なしとかはちょっと」


「じゃ、全部で」


「え? また全部? いや、そんな短絡的に決めちゃわないで。大人なんだしもうちょっと考えてさ。あ、なんなら…」


「…短絡的?…大人なんだし?」



 ~ほんと短絡的と言うか何というか、それでよく社会人やってんな~


 パワハラ上司が6年間俺に言い続けてきたパワハラワードがよみがえってくる。



 …短絡的で悪かったな。社会人なんてやりたくてやってんじゃねえよ。



「じゃ、なしでいいです」


「いや、あ、そうじゃなくてさ。ほら、そんな極端なこと言わないで、一つ選ぶだけだから」


「じゃ、ランダムで」


「いやいや、FGSは因果律が全てだから設定段階でランダムは無理…」


「じゃ、全部で」


「だから全部は無理だって」


「それでも全部で」


「いや、だからさ…」


 俺がパワハラ上司への貯め込んだ感情をちょこっとだけぶつけていると、スクリーンの向こうでコリンズさんの肩にそっと置かれる綺麗な手。


 コリンズさんが振り返り、アマデウスさんが首を横に振る。


 そして俺は瞬時に一人映画館から世界地図の部屋に移動させられた。


 目の前にはさっきまでの人好きな表情が一変して生気のない死んだ魚の目をしているコリンズさんと無表情のアマデウスさん。


 その二人の姿にノイズが走り、まるで電波妨害に遭った映像のように情景が乱れる。そしてそのまま数秒が過ぎると、俺の頭のすぐ上からマイクのスイッチを入れた時のような「ボフッ」と言う音が鳴った。



『非常に強いご要望と無理難題をいただきましたプレイヤー様に申し上げます』


 あれ? なんだこれ。


『当「新緑のステージ」における初期キャラクター作成では、キャラクターの総リソースは全プレイヤーの皆さま公平に一律となっております。そのリソースを各プレイヤー様が取捨選択した結果、各プレイヤー様が快適に新緑のステージをプレイいただくことが可能となっております。各プレイヤー様にはその旨を何卒ご理解の上、本キャラクター作成を進めていただけますようお勧めいたします。』


 頭上で再び「ボフッ」という音が聞こて 無機質な音声が聞こえなくなる。


 なんか、「ご自分の意志によって」と「ご自分のスタイルで」のところの強調具合が怖いくらいにすごかったな。


「じゃあ、スプラ君、わかってくれたよね?」


 目に生気を取り戻したコリンズさんが俺に語り掛けてくる。


「んじゃ、全部で」


 こういうやり方好きじゃないんだ。言うこと聞かないからって一人別部屋で高圧的に説得されるとか。正直あのクソパワハラ上司の顔しか浮かばんかった。


「そうか分かった。どうやら僕はここまでのようだ。じゃあね」


 口元を一文字に結んだコリンズさんは兜をスッポリ被るとそのまま部屋を出ていった。


 で、今度はアマデウスさんが困った顔で部屋を出ていく。



 部屋に一人残された俺はちょっとやり過ぎたかなと心が重たくなる。いや、相手にするの無理だからって去っていくとかありか?キャラ作成だよな、今。


 俺が戸惑っていると、徐ろに放たれる存在感。俺の意識は自然と部屋の隅の海賊の置物に向かう。黒い眼帯、黒いバンダナ、はち切れそうな筋肉に引き伸ばされる黒いシャツと黒パン。そんな海賊風の置物からふと息遣いを感じた。


 俺が乾いた喉を鳴らして見つめる中、視線の先の海賊の置物はゆっくりと動き始める。まるで鈍った体をほぐすように肩を回したり、首を左右に何度も傾けたりしている。そして大きく息を吐くと、こっちに向かってニヤリと笑う。その口元は前歯が二本欠けていてる。


 なんか置物かと思ってたらAIだった件。しかもSP的な感じの。


 SPってことはつまり俺はカスハラ客認定されのか。巷でお騒がせしてるモンスターカスタマー、俺がそうだと? いや俺がいつカスハラなんてした… あ、したわ。冷静に考えたら確かにさっきのはカスハラだと言われてもしかない。…ヤバいな、上司のパワハラにムカついてカスハラしてるとかやっぱ俺病んでるな。


「そんなに心配しなくても大丈夫だぞ。別に追い出したりしないからな」


 動揺する俺の心をさも見透かしたように話してくるマッチョな海賊風SP。実のところそれほど見透かせてもいないのだが。俺の心配は俺の病状だ。


「俺はレイスってんだ。いやあ、これまで… 4023人も話を聞いてきたんだが、一度も俺の出番が来なくてな。ちょっといじけてたんだ。俺なんて必要じゃないんだ、もう引っ込んじゃおうかなってな。でもお前さんがなかなか粋なことやってくれたおかげでやっと出番が来たってわけだ」


 レイスと名乗った海賊マッチョはそう言うと再び欠けた前歯を見せて笑う。俺が初めてってことはカスハラ客は俺だけってことか。すっげー恥ずかしいんだが。


「お前さんは実にいい。属性全部手に入れるためなら脅しでもカスハラでも何でもやる。俺は嫌いじゃないぜ、そういうギリギリを攻めていくやつ。お前さんはそれくらい『本気』ってことだもんな。そんな本気で強欲を満たそうとするお前さんにはこの俺こそが担当にふさわしい。だから俺に任せときな。強欲なお前さんにぴったりの種族と職業、ステータス、その他全部を選んでやるぜ」


 そう言ってレイスと名乗る海賊マッチョは俺の目を見つめる。

 

 強面の男に見つめられるだけの時間。なにそのゲーム。っていうかさ、まだ初期装備も選んでないんだけど? それに全部を勝手に選ばれるとか、そこまでのランダム要素求めてないから。見た目くらいは好みにしたいし。


 俺が一言物申そうと口を開こうとした丁度その時に、目を大きく開いて口角を上げた海賊マッチョのレイス。


「よし、お前の種族ほか諸々が決定したぞ。まあ、頑張ってこい。でな」


「ん? 決定した? って…は? いやいや、何言って…」


「はっは、もう決めちまった。諦めろ。じゃあな」


 有無を言わせず、俺の目の前が白い靄に包まれていく。


 え、いや、これマジのやつ? マジで勝手に決められちゃうの? は?


「ちょ、ちょっと待って、おい、ちょっと待てーい…」


 薄らぐ視界の隅で海賊マッチョのにやけた口元になんかイラっとした。そこまで思って、俺の視界は暗転した。



❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


あーよかった、俺の出番があって。

必要とされないとかマジで凹むもんな。

 

しっかしあの小僧、気が小さそうで肝が据わってるというかなんというか。

ただ、なーんか危なっかしいよな。


でもまあ、しばらくはなんにもできんだろうがな。


――――――――――――――

◇達成したこと◇

・キャラ作成の説明を聞く。

・パワハラ上司を思い出してカスハラをする。

・海賊レイスを起動させる。

・海賊レイスに勝手にキャラを作られる。

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