拝啓、カスハラしたら最弱キャラにされました。それでもなんとかやってます。敬具

みかん畑

FGSの世界へようこそ

1日目 固有スキルは攻略するもの

第1話 1日目 FGSの舞台

「ちょ、ちょっと待って、おい、ちょっと待てーい…」




コボコボコボ、ザッブーン 



 目を覚ますと、目の前には抜けるような青空を背景に巨大な噴水がそびえ立っていた。


 その宮殿のように煌びやかな噴水部分の下には数えきれない程の受け皿が上下左右不規則に並び、頂上から吹き上げる大量の水を受け止めている。


 俺の周辺でも水飛沫が舞い散り、霧状になっては陽光に照らされ七色に輝いている。



 うん、知ってる。ログイン直前に見たプロモーション映像の光景だ。ついさっき見た。


 俺はどうやら早々にFGSの世界に来てしまったらしい。いやいや、まだキャラ作成の途中だったんだが? 嬉し恥ずかしワクワクキャラ作成の時間だったんだが?


 周りを見渡すと、巨大噴水を中心に広大な広場になっている。あちこちにパーティーだと思われるプレイヤーたち、一人でログインしてパーティーメンバーを募集してるプレイヤー、広場を走り去っていくプレイヤーが目に入る。


 たまに光る地面からは数人のプレイヤーが現れて周りをキョロキョロと見渡している。たぶん俺もあんな感じでこの世界に来たんだろう。


 近くのプレイヤーの様子を横目で伺うと、大きな剣を背負った人、法衣を着ている人、魔法使いの帽子に杖を持った人、背中に弓を掛けている人など様々な容姿をしている。猫の耳やキツネの尻尾が付いている姿は獣人族だろう。


 自分のお尻を見ると尻尾はない。ということは獣人ではないということか。


 自分の姿を確認するため噴水の水受けの皿を覗き込む。


「へえ、これかあ… ま、悪くないじゃん」


 肩ほどに垂れる薄い緑の髪に後ろ髪を束ねた美少年。それが俺のアバターだった。


 どことなくあどけなさを感じさせる顔に身長は… だいぶ小さいな。どうなんだろ、感覚的には140㎝を切るくらいか。他のプレイヤーと比べるにそんなところだろう。


 実際の身長170cmよりかなり低いな。なんか小学生に戻ったみたいだ。


 で、ステータス画面ってどこだ?


 自分の視界を確認すると、右隅に「!」マークが点滅している。視界の中でその「!」マークに注目すると、目の前に小さな半透明の画面と文字が現れる。


『「ステータス画面オープン」と言葉もしくは思いで唱えると、あなたのステータス画面が開かれます』


 その説明に従って「ステータス画面オープン」と心の中で唱えると目の前に自分のステータスと思われる半透明の画面が現れる。



名前:スプラ

種族:小人族

職業:なし

属性:なし

Lv:1

HP:10

MP:10

筋力:1

耐久:1

敏捷:1

器用:1

知力:1

固有スキル:【マジ本気マジ

スキル:なし

装備:なし

所持金:0G



 えっと、なんだこれ。


 目の前の半透明の画面に表示されているのはおそらく俺のステータス。でもどうやら表記がバグってるらしい。ステータス値全部1とか、なんか笑える。そういや中学でこんな成績取った同級生がなぜか自慢気に見せてきたことあったな。


 ステータス値以外も確認する。


 職業… なし

 属性… なし

 スキル… なし

 装備… なし

 所持金… 0G


「うわあ、このバグは酷いな。全部なしかよ。金もないって、ハハ。GMコールだな」


 一応、自分の体も確認してみる。


 見えるのは、上半身はグレーのヨレヨレTシャツ、下は黒に二本線のジョガーパンツ、すなわち裾ゴムのジャージだ。で、極めつけはなぜか素足に装着されてる草鞋わらじ


「いや、なぜ草鞋?」


 最後に肩には古ぼけたショルダーバック。ふたを開けると中は真っ黒。どうやらストレージにつながっているらしい。


 それ以外はない。武器や防具らしきものはどこにもない。


 俺は再度周りのプレイヤーたちを見る。


 皆、それぞれ鎧やローブ、武器、パッと見てどんな職業なのかすぐにわかるかなり良さげな装備を身に着けている。


 で、もう一度自分を見る。


 剣はない。鎧ない。兜ない。ないないない。


「ってか、この格好なんだよ、休日に近所のコンビニにいる中年オヤジじゃん」 


 服をじっと見続けると裾の部分にアイコンが登場。なんだろと思い、裾をめくって見ると、へたくそな字で「れいす」と書かれてあった。


「って、あの海賊のかよ!」 


 一通り自分のステータスと恰好の確認が終わるとあと気になる事は一つだけ。ステータスの中で唯一存在感を放つ固有スキル【マジ本気】。


「この名前なんだよ。あの海賊、ふざけんなよ。バグが出るようなら初めからやんなっての」


 GMコールする前にこのふざけた名前の固有スキルを確認しとこうか。全部にクレームつけてやる。


 ステータス画面をチョイチョイして確認。すると周りからヒソヒソと話し声。チラッとその方向を見ると青いマーカーが集まっている。つまりはプレイヤーたちだ。


「なあ、あいつ、なんであんな格好してるんだ?」

「…どんなキャラ設定したらあんな格好に…」

「ちょっと、聞こえるわよ。… 」

 ヒソヒソ

「もう、だから、聞こえちゃうって、フフフ」

 ヒソヒソ


 え、恰好? あ、俺のことなんか言われてる? いや、これバグだから。違うって。


「お、いや、ちが…」


 ダメだ、俺こういうのは無理だ。こうなったら… 逃げろ、俺!


 一目散に広場を去る。…はずが何かおかしい。


「あれ、なにこれ、全然進まない」


 必死に足と腕を動かそうとする俺。でも急ぐ心に反して動きは全く速くならない。すぐ隣を緑マーカーを付けたNPCの子どもが早歩きで追い抜いていく。


「くっそ、なんで進まねえんだよ。あ、あれか、フォームか」


 フォームが悪くて反応が鈍いのかと考え、シュパーンシュパーンと腕を振ってみる。が、身体の動くスピードはこれっぽっちも変わらない。


「いや、恥ずいから、マジで」


 キレッキレのフォームで遅いとか何の罰ゲームだよ。


 何分経過したかわからないが、必死に手足を動かしてやっとの事で広場を抜ける。そして勢いそのままになんとか建物の影に入ることに成功。そこからは周りを気にしながらただひたすら人気のない道を進む。なんだこれ、最終局面の逃○中かよ。


「マジでプレイヤーが黒スーツの鬼に見えてくるな」


 どこか落ち着ける場所を探して逃げ回っていると、徐々に街並みが途切れてくる。さらに進むと小さな小屋のような建物を見つけ、周りに鬼…プレイヤーがいないことを確認して中を覗き込む。


 小屋の中は田舎にある農家の倉庫、農屋といった様子で壁にはクワや鎌、スコップなどの農具が立てかけてある。


 ふう、誰もいないか。


 農屋に入って、ようやく一息つくことができた。休んでいると、気分もだんだんと落ち着いてきて、さっきの続きが気になるようになった。そこでステータス画面をチョイチョイする。



 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:なし

 装備:なし

 所持金:0G



 ああ、やっぱ、表記はバグったままだな… ん?ちょっと待て。


 俺の目は一つのステータスに目が行く。


「敏捷:1って、ええ? おいおい、え、あれ、そういう事?」


 ここで俺は重大な事実に気が付く。俺がただの表記のバグだと思ってたステータス。そのバグステータスが実際に反映されてしまっているいうことだ。


「ええっと、つまり、どういう事? バグじゃないとか? はっ?!」


 俺は急いでステータス画面を出すとチョイチョイ。

 


 固有スキル:【マジ本気】



 これをチョイ。



【マジ本気】

 三柱の一人レイスに認められ、この世界をリスクを顧みず貪欲に生き抜く覚悟を持った者に与えられた固有スキル。初期種族は最弱を誇る小人族。レベルが極端に上がりにくく、スキルの習得には多大な犠牲が求められる。初期における、職業、属性、所持品、所持金を失う。死に戻るたびにレベル、職業、属性、所持品、所持金、スキルが初期状態に戻る。



≪効果≫ 

・小人族:初期ステータス減少(極大)、レベル上昇率減少(極大)、スキル習得率減少(極大)

・初期職業、初期属性、初期所持品、初期所持金の喪失

・死に戻りにつき初期状態に戻る。



 おいー、海賊ー、やっぱりお前の仕業かー。




❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


だーはっはっはっは。いいリアクションしてくれるぜ小僧の奴。

バグな訳ねえだろ。FGSなめんなよ。


――――――――――――――

◇達成したこと◇

・FGSの世界に登場

・広場から農屋に逃げる

・ステータスを確認する

・固有スキル確認


 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:なし

 装備:なし

 所持金:0G

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