第15話 東地区でのあれこれ

「そうか、ネヒルザに捕まってたのか……」



 マークスさんが遠い目をしながらそんなことを言う。


 スキル確認が終わった後、なんか心配そうにそばにいたので、ネヒルザの婆さんのことを報告したら、急に遠い目をしだしたマークスさん。もしかしたらこのオヤジも蜥蜴の尻尾亭のコックさんと同じく独り身なのかもしれない。そしてあの婆さんの餌食に…うん、あまり詮索しないでおこう。なんか俺も悲しくなる。



 生温い目でマークスさんの顔を見ていると、ハッと我に返るマークスさん。


「ま、まあ、とにかく無事で何よりだ。この街の住人はほとんどがネヒルザのことを知っているからな。また、何かあったら近くの店に逃げ込んだらいい。助けてくれるはずだ」



 なんか、今までよりも更に優しい表情をしているのは、なんでだ。同志を得たとか思われてたらちょっと心外だ。俺はまだ20代だし。後半だけど20代には違いない。



 しかし、こうも反ネヒルザ同盟がいるってことは、もしかしたらこの街にはあの婆さんの悪趣味の犠牲になった人、結構いるのかもな。蜥蜴の尻尾亭もな。



「そういえば、蜥蜴の尻尾亭の店員さんって俺に好意的なようでしたけど、もしかして?」


「ああ、あそこも昔だいぶやられたからな。店主が1週間寝込んで臨時休業してたぜ。ネヒルザもよくもまあスプラをあそこに連れ込んだもんだ。っと、まあこの話はこれくらいにしておこう。今はスプラの仕事が優先だ」


「あ、はい、お仕事お願いします」



 マークスさんが嫌な思い出を振り切るように話を変える。そうそう、過去は過去、前を向いて生きるほうがいい。まあ、それよりも俺のすべきことはお仕事だよな。ガンガン行くぜ!



「よし、残りの配達はあと3件あるんだ。1件は今日中で頼む。夕飯までには終わるだろうから、宿を取るのはそれからでもいいだろう。で、依頼なんだが、今度は教会にこの『銀の聖杯』を届けてくれ。場所はわかるか?」



 教会? えっと、どこ?


「すみません、わからないです」

「そうか、教会は少し遠いぞ。この街は広場を中心に円形をしているのは知ってるな?」



 そう言って、マークスさんはカウンターの紙に丸く円を描く。そして、その円の中を×で仕切る。


「この街は円形で広場を中央に東西南北の四つの地域に分かれている。商業ギルドがある新開発地区の北地区、主に住人の居住区である東地区、畑が多い南地区、領主館があり昔からの商店が並ぶ西地区だ。そして各地区の中央を東西南北に大通りが走っている」



 マークスさんは四分割された円の中をペンで指しながら説明する。


「今いるこの武器屋は西地区の中央だ。で、教会は東地区の中央にある。だから大通りを東に進み、広場を突き抜けてそのまままっすぐに東へ向かってくれ。そうすればそのうち教会の建物の尖塔が見えてくるはずだ。スプラだと…片道30分はかかる距離だが大丈夫か?」


「はい、道もわかりやすいですし、大丈夫です。行ってきます」



ピンポーン

『<クエスト:武器屋マークスの依頼3>を受けました』



 俺は丁寧に白い布に包まれた聖杯を大切にカバンにしまうと、武器屋を後にする。



 歩きながらステータス画面とチョイチョイしながらスキル確認をしていたら思ってたよりも早く広場に到着した。移動がこれまでよりも少し速くなったようだ。【配達Lv2】になってようやく効果が出てきたか。



 広場を横切るとキョロキョロしているプレイヤーがたくさんいた。土曜に仕事を休めなかった社会人のログインが始まっているのかもしれない。FGSの夜は0時から8時まで。今は午後6時だが空は真昼のように明るい。どの勤務帯の社会人プレイヤーでもFGS内の昼夜共にプレイできる設定になっている。



 今がそんな時間であるため、広場はワイワイと賑やかな雰囲気だ。ちなみにあの破壊力全開のボア肉の串焼きは売っていない。匂いもしない。


 別に引きずってないし? 今は満腹度ほぼMaxだし? ボア肉なんて別にまた今度でいいし? 



 広場を抜けて東地区へ入ると、徐々に街並みが変わってくる。お店の数も大量消費者である冒険者の姿と共に少なくなり、大分古い感じの民家が増えてきている。殆どが木造の4階建で揃っている。



 大通りの幅も進むにつれて狭くなる。西地区では片側三車線くらいだったが、東地区は今では片道一車線ほどだ。区画整理できずに道路を拡張出来なかったってところか。だから比較的新しい建物が並んでいた西地区と違い、東地区の建物はだいぶ年季の入った木造。道路の石畳もどこかデコボコしている。


 そんな道路から上を見上げると洗濯物がずらりと並んで干してあり風に吹かれてパタついている。どうやら3階と4階から道路の反対側にロープが張ってあり、共同の物干し場になっているようだ。


 さらに進むとプレイヤーの姿はほとんど見ることもなくなり、街の住人っぽい人たちが道端に座り込んではワイワイと話に花を咲かせている。ところどころで路地にゴザを敷いて野菜みたいな草を売っている人たちもいる。



 東地区は明るく活気のある西地区とは違って、どちらかというと住民たちの長閑な生活の場といった雰囲気だ。


 実はこういった雰囲気は俺の好きな情景でもある。小さい頃に見たアニメの影響なんだけどね。



 景色を楽しみながらぼちぼち教会の尖塔を探す。配達スキルのお陰で時間は稼げてるから街の観察をしながらでも全く問題ない。


 それから10分ほど周りの人たちや建物を見ながら歩き続けた。





「あれ? これってアイコン?」


 この草だけアイコンが光ってる? 薄っすらとだけど、アイコンだよな、これ。



 を見つけたのは偶然だった。


 住人のおっちゃんたちが将棋のような遊びをしているのを興味本位で覗いていると、そのすぐ横で野菜のゴザ販売をしていたおっちゃんに店番を頼まれてしまったのだ。



 盛り上がっているその勝負を見たいから少しでいいから変わってくれと熱心に頼み込まれてしまった。今、仕事中だと伝えても「5分だけでいから」と土下座までされてしまった。


 そりゃ、さすがに受けざるを得ないよね。



 まあ、盛り上がっているお隣さんの勝負がつくまでは客なんて来ないだろうし、ただ居るだけでいいならと思って承諾した。


 そうして、店番をしながらゴザに並べてある野菜を眺めていた時に、その売っているものの中に普通とは明らかに違うアイコン、濃い緑の普通のアイコンじゃなくて色が薄くて輪郭もぼんやりしたアイコンがあるのに気づいたのだ。



 俺がそのアイコンの草を手に取ろうとすると、隣からひと際大きなどよめきが起こった。どうやら勝負がついたらしい。俺に店番をさせた住人のおっちゃんが戻ってきた。


「兄ちゃん、悪かったね急に店番頼んじゃって」

「いえ、いいんです。お客さんも来なかったですし。勝負ついたんですね」



「ああ今さっきな。いやあ、あんな面白い勝負は久々だったよ」

「それはよかったです。あの、ところで、そこにある野菜見せてもらってもいいですか?」



 俺は薄っすらアイコンの草の束を指差す。


「ああ、その草か。たまたま畑で1束分だけ生えてたんだが、それが何かわかるんなら兄ちゃんにやるよ。見たことねえ草だったから一応取っておいたんだけどな、なんの草か分からねえから誰も買いやしねえ」



「え、いいんですか?」

「ああ、店番のお礼だ。そんなんで悪いけど、兄ちゃんが欲しいなら持っててくれ」



 おっちゃんはそう言うと、俺に草束を渡し「これから皆でさっきの勝負を肴に一杯やりに行くから」と言って去っていった。


 なんかちょっと良く分からない草を手に入れてしまったので、教会への道を歩きながらおっちゃんがくれた草を手に取り確認する。




【快癒草】

 特殊な環境で変異して現れる希少な薬草。

 そのまま煎じても使用できるが、主に上級ポーションの材料として用いられる。



 え? 希少?



❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


 快癒草かあ。なんで発見しちまうかなあ。小僧、言うんじゃねえぞ。プレイヤーには情報流すなよ。頼むぞ。ほんとお願い、マジやめて。

 

 そもそもMJが簡単に心開いちゃうから。こんなことになってるのよ。

 EXスキルなんて5フィールド先のスキルのはずじゃん?

 第一第二の街が過疎ってきたころにEXスキルで新発見。またプレイヤーが戻ってくるって話だったじゃん。

 

 もうやだ、ぐすん。



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・<クエスト:武器屋マークスの依頼3>を受注

・ゴザ販売の店番をする

・アイテム【快癒草】取得



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 装備:なし

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv2】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】

 所持金:1150G


〇進行中クエスト:

<クエスト:武器屋マークスの依頼3>new!

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