第4話 裏切りものの湯田朱音

 湯田朱音は山崎君を観察するのが好きだ。


 だって山崎君のことが好きだから。


 「さっきから山崎君ばかり見てるね」


 そう話しかけてきたのはクラスメイトの詩音だ。


 「私の頭の中では山崎君は私の彼氏やねん」


 「なにそれ、受けるんですけど」


 詩音はそう言うとバカにしたように口端を吊り上げた。


 「でもさ、詩音も山崎君のこと好きやんな?」


 「そうだよ」


 詩音は躊躇わず言った。


 「じゃあさ、二人で山崎君にバレンタインのチョコあげへん?」


 バレンタインは2日後にやって来る。


 湯田朱音は一人でチョコを渡すのは難しいと感じていた。詩音となら一緒に渡せると思った。そのほうが心理的な負担も少ない。


 でもひとつ気掛かりなことがあった。


 山崎君に彼女がいるということだ。しかも彼女が誰か今だに謎だということだ。


 それに彼女がいるのに果たしてチョコを渡していいのか。

 

 もし朱音がチョコを渡すと彼女に対して背徳を感じるだろうなと思った。それにもしチョコを渡したあと、山崎君が私に好意を抱いたとしたら、そんなことはないと思うが、詩音に対しての裏切りになるのではないかと思った。

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