第3話 復讐のとき
「そうか。無事国境を超えられたか」
アイラの報告を受け、俺は歯噛みした。まさかレギアの奴がここまでするとは思わなかった。仲間の命を何とも思っていない所業だ。あんな奴が竜王狩りの英雄として名を馳せることなど、あってはならない。
「申し訳ありません。次こそは必ず……」
「次なんてない。中央連合の国境には大聖女の結界が張られている。教会の敵と認定されているドラゴンロードの身では、侵入すらできない」
やはり俺が自ら出張れば良かった。それなら、囮に気を取られるなんてヘマはしなかった。
「恐れながら、方法があります」
「なんだそれは?」
何か秘策でもあるのか?
「勇者レギアは、先代ニズヘグ様の首級を持ち帰っています。それを依り代とし、分身を送り込むのです」
なるほど。ドラゴンロードの超常的な回復能力によって、先代の肉片のほうを再生させるのか。
「やってみよう」
俺が壁の一点を凝視し、意識を集中させると、移動する先代の魔力が感じられた。ここに意識を向け、遠隔操作するようなかんじでいいはずだ。やがて、視界が暗転する。ここは、レギアの抱える袋の中か。
「聞こえるか? レギア・スクアーロ?」
「な、その声は?」
よほど狼狽したのか、レギアは袋を取り落とした。途端に先代の生首からは胴体が生え、俺の分身と化した。
「シ、シスイ? なぜだ? 生きていたのか?」
「えぇ、地獄の底から舞い戻りましたよ。あなたを殺すためにね」
「く、くそっ、どんな手を使ったのかは知らないが、俺を殺すのは無理だぞ? なんといったって俺には聖剣が……」
言いかけた途端に、レギアは苦しみ始めた。
「なにを……した?」
「なにも? ただ、毒の巡りが速まったようだ」
肌感覚で分かる。俺の身体からは常時猛毒が発せられている。先代の巨体ではなく、人間サイズの俺の身体に毒が凝縮されているのだ。濃度は戦闘時より高まっている。
「立つこともできないようですね!」
俺はレギアの腹を蹴り上げる。呻き声を上げてレギアは崩れ落ちた。
「なんだ。もっと楽しませてくれるのかと思いましたよ。僕だけでなく、仲間をも平気で切り捨てる人でなしなんですから、もっとしぶとく粘ってくださいよ」
俺は拳にドラゴンの鱗を纏わせ、レギアを殴り続ける。だが、しばらくして飽きた。
「抵抗もできないのですね。じゃあここらで死んでもらいましょう。勇者レギアの英雄譚はここで終わり、ドラゴンロードの威光に世界中が怯えることになる!」
まだドラゴンロードになったばかりだが、俺はその座に相応しくありたいと思う矜持が芽生えていた。
俺が右手を鉤爪に変形させ、首を刎ねようとしたときだった。
「させない!」
白い甲冑の騎士が割り込んできた。
ドラゴンロード二代目~見捨てられた冒険者は、竜王の力を継いで復讐する~ 川崎俊介 @viceminister
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