第9話 梅は成長中……?

 梅はオスなのかメスなのか、中々判明しない子でした。


 オスであれば、生後二、三ヶ月の頃に求愛のためのさえずりの練習で、奇妙な声を出し始め、とまり木の上で飛びねる行動が見られるんですが、梅にはその兆候ちょうこうもなく。


 松と竹はメスで産卵を経験しています。


 一歳を過ぎてもオスらしい行動が無く、梅もメスかぁと、残念がる家族。






 梅に対し、あれ? と思ったのは、梅が一歳半になった頃でした。


 松たちのカゴは前面扉で、手前に大きく開きます。松が住むカゴの扉の先端に乗り、頭を下向きにし、くちばしをギュリギュリと音を立て、頭を上下させる仕草を見せたのです。


 私も文鳥を飼うのは初めてで、知らない事ばかりですが、梅の行動が何を表しているのか、調べる事に。


 頭を上下させ、体をふくらませてピョンピョンとねる『求愛ダンス』になんとなく当てはまるかなと思いました。


 梅がカゴの扉に乗り、頭を上下させていたので、なんとなく、人差し指を立てて梅に見えるように上下に振ってみたところ、指を見ながらジャンプする仕草をしたんですよ!!



あんた! オスだったの!? 求愛のさえずりの練習もせず、人の指でリズムをとってジャンプする仕草? しかもジャンプじゃなく、どう見ても屈伸くっしんだよね?)



 私は心の中で盛大に突っ込みました。



 文鳥のオスは生後二、三ヶ月から求愛の練習をするのに、梅は一歳半からって、遅くない!?



 家族に報告すると、すごく喜び、毎日梅に向かって指を振る家族。


 しばらくは屈伸運動くっしんうんどうが続いたある日、梅のあしの指が扉から離れました。


 歓喜かんきした家族の指振りに力が入り、梅も指を見ながら一生懸命ジャンプします。


 ピョンと高くねたら体が前に出たらしく、そのまま床まで落ちていきました。


 床に落ちた梅は私の方に飛んで来て、低く小さな声でグゥグゥ言いながらてのひらに乗り、手をつついたり、くちばしの先で皮膚をつまみ、ひねりながらギリギリと噛むんです。



 噛む力が強い梅に噛まれて、痛いのなんのって! 完全に八つ当たりです。噛まれた跡に小さな血豆が出来ていました。







 梅の求愛ダンスの練習は二歳になった今も続いています。筋力が付き、梅のももは固くガッシリしてきました。


 家族が振る指を見ながら体をふくらませ、ジャンプが続きます。梅の中できょうに乗ったらしく、ジャンプする高さもスピードも増して、いい感じだと見ていると。



「スゥ〜ヒィ」



 小さな声で鳴いたんです! おぉ〜? と驚く私と家族。その瞬間。



「キャン!!」



 うるさい!! とばかりに竹が鳴くと、梅の動きがピタリと止まり、呆然としていました。



 梅の顔が鳩が豆鉄砲を食らった様な表情をしていたのが、印象に残っています。

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