第16話 お買い物?


 俺たちは領主屋敷の執務室に集まって、今後のことを相談していた。


「ノスリア領への使者は朝に出発しました。色よい返事をもらえればいいのですが」


 アリアナちゃんがいつも通りに告げて来る。


 俺たちはアーベンを捕らえたのだが、その時には彼はすでに重症を負っていた。


 アーベンの部下たちが奴を袋叩きにしてたからな。特に顔はボッコボコにされていて無残であった。


 そんなアーベンだがノスリア領に送り返すことになった。アーベンの部下は俺たちに従うと言っているので、アーク領の代表を連れてすでに出発している。


「急に借金を返せだなんて驚きましたよ。まだ十年も返済期限があるのに……はっ!? もしかして西のトゥリア領も同じようなことを言ってくる……?」


 ユーリカさんは慌てて声を出した。


 ……そういえばアーク領って東西南北の隣領すべてに借金してるんだっけ。もう東の領地は巨人帝国に滅ぼされたけど。


「そのトゥリア領とやらも回収に来てもおかしくない。アーク領が帝国に滅ぼされると思ってるならあり得ます」

「い、いやでも! トゥリア男爵はお優しい人なんです! いつも私に美味しい食事をご馳走してくれて、お土産まで渡してくれるのです! 無茶なことはしないはずです!」

「姉さま、逆です。トゥリア男爵は最低の人間です。いつも私たちを下卑た目で見ています」

「なにを言ってるのアリアナちゃん。トゥリア男爵の悪口はメッですよ!」


 姉妹で言ってることが真逆過ぎる件について。


 トゥリア男爵は聖人なのかクズなのかどっちなのか。ユーリカさんは他人を信じすぎるタイプな気はするが、逆にアリアナちゃんは他人を全く信用しなさそう。


 結論から言うとどちらの意見も微妙に信じられない。


 するとユーリカさんが手をポンと叩いた。


「あ、そうだ! それならこちらからトゥリア領へ行って、男爵に挨拶をしに行きましょう! 塩も不足してきているから、買い付けに行く必要もあるわ!」


 おおっと。塩が不足しているとな。


 それはマズイ。なにせ塩が尽きたら毎日の食事が美味しくなくなってしまう。


 そもそも塩不足だと人は生きられないとか聞くし、なんにしても結構な緊急事態だろう。


「あのー、ウエスギ様もよろしければ一緒に来ていただけませんか? ウエスギ様が手に乗せて下されば、移動がすごく楽なので……」

「もちろんです。塩は村の問題ですからね」

「ありがとうございます!」


 すごくいい笑顔をするユーリカさん。だがアリアナちゃんは小さくため息をついた。


「姉さま。ところで塩はどうやって買うのですか? うちにお金なんてありませんよ?」


 俺もそこが気になっていた。散々借金をしまくってるこの領地に、塩を購入するお金があるのかを。


 するとユーリカさんは目を逸らす。よく見れば汗もかいていた。


「……はっ!? そ、そうだったわ!? …………トゥリア男爵にもう少しお金を貸してもらうしか!?」


 こうして借金が溜まっていくのか、と思ってしまった。


 でもただでさえ全方位借金なのに、これ以上借りるのは絶対によろしくないよなあ。


「あの、俺の力で金を稼ぐのは無理でしょうか? これ以上の借金は危ないかと」

「だ、大丈夫です! 借金が多すぎて多少増えても誤差ですから! あはは!」


 ユーリカさんの目はすわっていた。人、それを諦めという。


「ウエスギ様が協力して下さるのでしたらお願いがあります。トゥリア領との間にある山があるのですが、そこに山賊が住み着いているのです。彼らを捕縛してお土産にしましょう」


 それはお土産じゃなくて嫌がらせでは?


 そんな考えが顔に出ていたのか、アリアナちゃんが俺に笑いかけて来た。


「山賊だって奴隷にすれば貴重な労働力なんです。特に隣領は鉱山都市ですので、鉱山奴隷としての需要も高いです。つまり売れば金策になります。売れなくても山賊がいなくなれば治安がよくなるので」

「あー、なるほど」


 鉱山奴隷というのはなかなかエグくはあるが、相手が山賊ならば仕方のないところもあるのだろう。放置したら危険だろうし。


「しかし隣領には鉱山があるのですね。それならアーク領にも少しくらい鉱脈が眠ってたりしないの? 俺がそこらを掘れば見つかるかも」


 鉱山はいいぞ。ものすごく儲かるし鉄なども自前でとれるから、経営シミュレーションでは確保しておきたい資源だ。


 だがアリアナちゃんは首を横に振った。


「残念ながら無理でしょう。と言いますか隣領に鉱山はありません」

「……え? でも鉱山都市があるんですよね?」

「鉱山のない鉱山都市なんです」

「???」


 意味が分からない。鉱山都市なのに鉱山がない? 


 それは海洋都市に海がないくらい意味不明ではないだろうか。アイデンティティが崩壊してないか?


 するとユーリカさんが少しドヤ顔で口を開いた。


「鉱山の代わりに巨神の箱船があるんです! その箱を削って鉄などを得ているんです!」

「巨神の箱船?」


 よくわからない。巨大な箱があるということしかわからない。


「この世界では信じられないほど大きなモノが、時として現れることがあるのです。それこそウエスギ様が扱うようなサイズのモノが。隣領には変わった形の箱舟に見えるモノがありまして、巨神の箱船と言われています」

「どんな形なの?」

「文字通り、巨大な箱船に近い形です」


 鉄で作られた箱船……うーむ。どうせ近いうちに行くなら見た方が早そうだな。


「ただ山の中の山賊を捕まえられるかは少し不安だな。小さすぎて見つからないかも。木を抜きまくってはげ山にするくらいじゃないと……」


 俺の本来の大きさならば、この世界の山は俺の半分もないくらいの高さだろう。


 だがそこからアリみたいな大きさの人を捕まえるのは大変だ。草むらの中のアリを見つけるのは難しいだろうし。


 木を抜きまくっていいならなんとかなるかもしれないが。するとユーリカさんが俺を見てきた。


「いいですよ。なんなら山ごと崩してくださっても構いませんよ! あの山、邪魔なんです! ちょうどアーク領とトゥリア領を塞ぐようにあって、あの山のせいで商人が来てくれませんし」

「いいんですか? 生き埋めにしてしまう恐れも」

「あの山賊たちは残虐で何人もの商人が犠牲になってます。それならそれで構いません! あの山がなくなったら、トゥリア領との交易がやりやすくなりますし!」

「でも可能であれば山賊を捕らえてもらえると助かります。お金になるので」


 叫ぶユーリカさんに冷淡なアリアナちゃん。山賊がお金になるってのも怖い世の中である。


 まあいいや。それなら山を崩してついでに山賊も出来れば確保するとしよう。


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