第17話 山崩し
話し合いが終わって太陽が真上に差し掛かった頃、俺は村の広場で山を崩す準備をしていた。
「じゃあこのクワを借りていくね。後は山賊を捕らえた後に入れ物が欲しいな」
俺は土いじりで汚れてもいいように、チュニックという腰に紐を巻いて着るワンピースみたいな服に着替えている。
そして本来なら畑を耕す用の鉄製クワを手に取って、ユーリカさんたちにさらにねだる。
「カゴならありますけど少し大きすぎますよね」
「酒用の木のグラスでいいと思います」
ということでアリアナちゃんから木のグラスを受け取る。
俺が巨人化すればこのグラスも大きくなるし、アリを捕まえておくならグラスくらいの大きさで十分か。
「じゃあちょっと山を崩してくるよ」
「お気をつけて」
「……冷静に考えたら山を崩すっておかしいわよね? しかもちょっと農作業してくるみたいなノリって……」
ユーリカさんが腕を組んで悩んでいるが、巨人ならば山を崩すのだって可能なのだから仕方ない。
「
俺は元の大きさへと戻って、村の西のほうに視線を向ける。
周囲にはやはり霧が出ていてあまり遠くは見えない。だが十メートルくらい先に、俺の太ももくらいの高さの山が見えた。なのでさっそく歩いていく。
十歩くらい歩くと山の前についた。ちなみにこの世界の人だと、この山にたどり着くのに野営が必要らしい。
『ウエスギ様ー! やっちゃってください! あの忌まわしき山に裁きを! そしてついでに山賊たちにも裁きを!』
耳元にユーリカさんの声が響く。いつものようにアリアナちゃんの伝声魔法だ。
「分かってますよ、ユーリカさん。おい、そこの山にいる山賊ども! 今からこの山を崩す! 死にたくなかったらお縄に着け!」
俺は叫んでから少しかがみ、地面にグラスを置いてから小さな山を凝視する。
雑草が生い茂っているがよく見れば幹がある。たぶんこれは木なのだろう。
すると山から大量の蚊たちが飛び上がって逃げていく。よく見えないけどたぶん鳥なんだろうな。
だが地面を走って逃げるアリみたいなのは出てこない。
これ盗賊いるのか? 実はもう山から出ていってるとかない? まあどっちにしてもやることは変わらないけどさ。
俺は持っていたクワを握ると、山の端に向けて軽く振り下ろしてみる。
するとザクッと山にクワの刃が入った。土というより砂を耕してるみたいに思える。たぶんだがこの世界では土粒も小さいのだろう。
試しにクワを引いてみると山の端を削ぎ落せたようだ。
これならあと百回くらいクワを入れたら、山をなくすことも出来そうだな。
『あ、アリアナちゃん!? 山が! 山の一部が崩れたわよ!?』
「巨神様の体躯を考えれば当たり前では?』
『そうなんだけどね!?』
村からでも山が崩れるのは見えるようで、アリアナちゃんたちの声が聞こえてくる。
しかし山賊たちが山から逃げる気配がないな。別に奴らを殺したいわけじゃない、というか生かしておきたい。もうちょっと脅してみるか。
俺は次にクワを入れる予定の山の箇所を、軽く足で払ってみる。特にナニカが逃げる様子はないのでクワを入れて、その部分を山から削り落とした。
さらに何度か繰り返していくと、俺の足払いから逃げるように数匹のアリっぽいのが出てきた。
どうやら人っぽい。クワを地面に置いて、小人を指でつまんで持ち上げてみる。油断すると潰しちゃうのですごく慎重に。
「ひ、ひいいいっっ!? ば、化け物ぉ!? や、やめろ!? 食うなぁ!?」
すると空中に持ち上げた小人は悲鳴をあげてきた。
「誰が化け物だよ、失礼だな。それに食べないが?」
俺は小人を木のグラスの中にいれる。そしてさらに逃げていく奴らをつまんでは、木のグラスへと突っ込んでいく。
「は、放してくれぇ!?」
「た、助けてぇ!? 俺は悪い山賊じゃねえんだ!?」
俺がつまむたびに悲鳴をあげる山賊たち。
悪い山賊じゃないってなんだよ。いい山賊なんていないと思うのだが。
まあなんにしても虫かご、じゃなくてグラスの中にポイだ。後はユーリカさんたちに判断してもらおう。
そしてあっという間に十数匹、いや十数人の小人たちがグラスの中に入った。
小人たちは必死に外に出ようとするが、グラスの壁に阻まれて逃げられない。
「おいお前ら。まだ山に人間はいるか? もし嘘をついたらそのグラスごと踏みつぶすぞ!」
「い、いない! もういない!」
「全員捕まりやした!」
「そうか。もしまた一人でも見つかったら踏みつぶすけど、本当に間違いないんだな?」
「「「親分がここと反対側の山の方に逃げやした!!!」」」
盗賊の信頼関係などこんなものである。
俺は二歩ほど歩いて小山の反対側に移動すると、山から離れていく小さな小人がいた。
さっそく捕まえてグラスにポイすると、
「て、てめぇら! 俺を売りやがったな!?」
「俺たちを見捨てて逃げようとしたくせに!」
「もうお前なんぞ親分じゃねえ!」
なんか木のグラスの中で見苦しい喧嘩が始まってしまった。
まあいいや。俺は引き続きこの山を崩していこう。
置いていたクワを拾うと容赦なく山に振り下ろしていく。さっきよりも手加減してないから多くの土砂が取れていく。
山を崩していき、土を周囲に広げるのを繰り返す。するとどんどん山は原型をなくして小さくなっていく。
「お、俺たちの山が崩れていく……嘘だろ……」
「も、もうほとんどなくなったぞ……!」
「あ、悪夢だ……はっ!? そうか! これは夢だ! 夢に決まってる!」
「ういー……ひっく!!!」
山賊たちはグラスの中から見ているようだが、残念ながら夢ではない。
なんか酔っぱらってるのがいるみたいだが、たぶんワインに使われていたグラスだったのだろう。
そうして俺は山を完全に崩し終えて、周囲に土を広げてほぼ平地にしてしまった。
『やったあああああああ!!! アリアナちゃん! あの憎き山がなくなったわ! これでトゥリア領との交易も容易になる!』
『山賊にも悩まされてましたが、最後にお金になりそうでなによりです。ではウエスギ様、お召し物を変えてトゥリア領へ向かいましょう』
「え、今日中に行くの?」
『はい。そうじゃないと山賊たちの食費がムダにかかりますので』
確かに山賊たちの食事を用意したらそれだけ出費になるか。
「わかったよ。じゃあすぐに戻る」
『では姉さま。トゥリア男爵に連絡をしておきましょうか。繋ぎますね』
どうやらアリアナちゃんの伝声魔法は、電話みたいなことが出来るようだ。便利だな。
とりあえず俺が隣領に向かうのは事前連絡必須だろう。いきなり大怪獣がやってくるようなもんだしな。大怪獣が!
『もしもし! トゥリア男爵ですね! ユーリカ・アーク男爵です! 今からそちらへ巨神様に乗って向かいますのでよろしくお願いします! え? 巨神様は巨神様に決まっていますよ! じゃあお願いしますね!!!』
『あ、魔力不足でトゥリア領との接続が切れました。まあ連絡したから大丈夫でしょう』
……大丈夫かなあ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます