第15話 どうも無能魔法使いです
アーベンは巨大になった俺を見上げていた。
「なっ、なっ、なっ!? なんだこれはぁ!?」
俺が本来の姿よりだいぶ小さくなったおかげか、アーベンの声も普通に聞こえる。
うん。やはり本来の俺のサイズはちょっと大きすぎて不便だな! 大きすぎて!
今の俺はそこらの村の家が足のスネくらいの高さにあるので、これなら気を付ければ踏みつぶすことはない。本来の大きさだと小石程度だから危ないが。
これからはこの六十センチくらいで、この世界の人が俺の指くらいに見えるサイズをメインにしようかな。
さて俺は決闘を申し込まれた以上、ちゃんとアーベンと戦わなければならない。
弱い者イジメは嫌なんだけどなー! でも向こうから仕掛けてきたんだから仕方ないよなー!
さっき俺を脅す様に火の玉打ってきたし、こちらも脅したって対等だよな。小さいという侮辱まで受けたわけだし。
「どうした? 早くやろうじゃないか。俺は小さい無能魔法使いだから、優れた魔法使いのアーベン殿なら楽勝だろう?」
散々挑発されまくったので少し仕返してみる。これくらいは正当な権利だろ、ああ気持ちいい。
『な、なにを言っているこの化け物がっ!?』
「誰が化け物だよ、傷つくな。別にお前が決闘しないならそれでいいけど、借金の利子はゼロになるからよろしくな!」
ここまで好き放題言ってきたのだ。自分の発言の責任は取ってもらおう。
これが借金ゼロにするとかならやり過ぎ感もあるが、利子ゼロくらいならいいだろ。向こうだってメチャクチャやろうとしたんだから。
「な、なにを言うかっ! あんなものは無効だっ! 私が勝手に言っただけのことでっ!」
「無効にはなりませんよ。貴方は正式な使者ですので、その発言はノスリア領のモノとみなされます」
アーベンはなんとか責任から逃れようとするが、アリアナちゃんが逃がさぬとばかりに論破してしまった。
そりゃそうだろうな。使者として領主の手紙を見せておいて、やっぱり関係ありませんは通らない。仮に手紙が偽物でも盗まれた領主の非になる話だろうし。
ところで今の俺の大きさだと、アリアナちゃんやユーリカさんは小さな妖精みたいで可愛らしい。俺本来のサイズだと小さすぎて、顔とかは分からないレベルだったからな。
さてどうするのかなと思いつつアーベンを観察してると、
「さ、さては貴様!? 見掛け倒しだなっ!? 幻覚魔法で巨人の幻を見せているかっ!」
などと声を裏返しながら叫んできた。
「え? 別に見掛け倒しじゃないけど」
「その幻影を吹き飛ばしてやる! 喰らうがいい、
アーベンからロウソクについた火みたいなのが放たれて、俺の顔に向けて飛んでくる。
思わず条件反射で「ふーっ」と息を吐くと火の玉は消え失せた。
「なっ、なっ、なああああぁぁぁぁぁ!? 我が魔法が消えた!? そんなバカな!? 幻影が息を吹くはずがっ!?」
悲鳴をあげながら後ずさるアーベン。
明らかに動揺しているな。たぶん自分でも何言ってるか分からないんじゃないか?
「幻影じゃないからだろ」
「げ、幻影が喋るなぁ!
「ふー!」
アーベン君が
「お前たち、援護しろ! 全員でこの怪物を倒すのだっ!?」
アーベンはお仲間の四人に指示を出すが、
「お、おいどうする?」
「でもアーベン様の決闘だろ? 俺たちが横入りして、後で責任押し付けられても困るぞ?」
「それに俺たちも危険だよな。よし見捨てようぜ」
どうやらアーベン君には人望がないようだ。
明らかに性格悪そうだし、平民を見下してるしで人気はなさそうだもんなあ。
「き、貴様らぁ! 命令違反は殺すぞ!」
「アーク領の財産回収はともかく、決闘についてはアーベン様の独断ではないですか。ご自分でなんとかしてください!」
「俺たちは無関係です! 悪くありません!」
「なんならそいつは踏み潰してくださって構いませんよ!」
部下たちはアーベンを完全に見捨てる構えのようだ。
ならとりあえずこいつだけ倒して終わればいいのかな。ひとまず決闘は勝つことにしよう。
「おいアーベン。次は俺が魔法を撃つ番だよな?
俺は指の先端に小さな火を灯した。
さてこの魔法は弱いので火もマッチみたいに小さい。だが今の俺の大きさはアーベンの十倍ほどある。つまり、
「
アーベンの
俺は先端に火のついた指をアーベンに近づけていく。するとアーベンは妙にフラフラしながら後ろに逃げ始める。
「魔力が尽きたようですね。本気の魔法を連発しましたからね」
アリアナちゃんが解説してくれた。なるほど、魔力が切れたらフラフラになるのか。覚えておこう。
「く、来るなぁ!?」
「おいおい。子供でも一年鍛えれば使える程度のゴミ魔法なんだろ? 早く消してみろよ?」
俺は逃げるアーベンに対して、指に火を灯しながらゆっくりと歩く。
気を付けないと踏んでしまうので、気を付けながら追い立てていく。
すると奴は逃げきれないと観念したのか、俺に対して膝を地につけて頭を下げてきた。
「ま、ま、待って!? 待ってください!? 降参、降参しまずっ! どうかゆるしてっ……!」
どうやら心が折れたようだ。ただこいつを許すかどうかは、俺の判断するところじゃないよな。
アリアナちゃんに視線を向けると、彼女は小さくほほ笑んだ。
「ウエスギ様、その男は無様に踏みつぶして構いませ……」
「ダメよアリアナちゃん!? アーベン殿は捕らえて、隣領への抗議材料にするべきでしょう!? どう考えても!?」
アリアナちゃんの言葉に対して、ユーリカさんが途中で口を挟んだ。
俺もユーリカさんの意見に賛成だ。というかアリアナちゃんが踏みつぶせと言ってくるとは思わなかった。
するとアリアナちゃんは眉をひそめて、ユーリカさんに抗議をし始める。
「姉さま。あの男はウエスギ様に無礼を働きました。ウエスギ様のお好きなようにやって頂くことこそが、この村を守ることに繋がるのです。こんなことでウエスギ様を不快にさせてはいけません」
「ダメよそんなの!? 隣領地と戦争になるわよ!?」
「隣領と戦争になるよりも、ウエスギ様の不興を買う方がよほどマズイです」
「ウ、ウエスギ様! 踏みつぶさないですよね!?」
どうやら俺の意思次第でアーベンの扱いは決まるようだ。まあそれなら……。
「じゃあアーベンは捕らえましょうか。こいつのやったことを隣領に訴えて、借金を減らすなどの交渉をしましょう」
別に俺は人殺しがしたいわけではない。ならこれが正解のはずだろう。
するとアーベンと一緒に来た奴らが、いきなりアーベンに向けて走りだした。
「わかりました! お任せください!」
「ひゃっはー! アーベン様、いやアーベン! 覚悟しやがれっ!」
「おらぁ! その顔面を蹴飛ばしてやらあ!」
「き、貴様ら!? ごばぁ!? か、顔は!? 顔はやめろぉ!? 股間もああああああああ!?」
そうしてアーベンは仲間に殴る蹴るをされた後、無事(?)にお縄についたのだった。
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