第9話 なにから手を付けたものやら
俺はこの土地を守ると宣言してすぐに、ユーリカさんたちと屋敷に戻った。
いまはリビングらしき部屋で椅子に座って話し合いをしているのだが。
「ええっ!? 巨人帝国を追い払っても、アーク領の危機的状況は変わってないのですか!?」
「はい……多額の借金があるんです。しかも毎年食料不足で、外から食料を購入するのにさらに借金が増えて……後は曾祖父の代からの借金が金貨千枚ほどあります……」
俺がこの土地を守るに当たって、現在のアーク領の状況を詳細に聞くことにした。
元の世界に戻る方法も気になるが、まずはこの村の問題解決が急務だと考えたためだ。この村を守るために数か月は日本に戻れないし、それなら一日二日は誤差だろう。
守ると言っても、敵が来たら追い払うだけじゃなくていいだろう。
俺は巨人だ、ジャイアントだ。この世界におけるダイダラボッチみたいなものだ。
つまり地面を掘って土地を変えることすら可能。ならばそんな俺が領地経営に協力すればすごいことが出来ると思うんだ。
俺は領地経営シミュレーションゲーとか好きだし、ぜひやってみたいと思っている。もちろん人の生活がかかっているので、遊び心だけでやるわけではない。
なので「私も領地経営の手伝いをしたいのです」と告げたら、ズタボロの領地経営状況を聞かされているわけだ。
……結論から言うと想像以上にアーク領詰んでた。曾祖父からの借金で首が回らない上に、人口に対して畑が足りてなくて毎年食料不足らしい。
そして金がないのであらゆる物資が不足している。服、道具、塩などなど……うーむ。
この現状の打開策って考えてたりします?」
「あ、ありません……それどころじゃなかったんです!? 父上や兄様たちは四か月ほど前に戦死して、いきなり領主にされて! 挙句に巨人帝国……どうしようもなかったんです!?」
ユーリカさん涙目である。
話を聞く限り、彼女が領主を継いだ時点で詰んでるのは間違いない。
「本国や隣領に救援を求めましたが無視されました。あの男が出兵したのは、本国の要請だったのにも関わらず」
アリアナちゃんがさらに付け加えて来るが、いきなり謎の男が出て来たぞ。
「あの男って?」
「血縁上は私を生んだ者の片割れです」
「すみません。アリアナちゃんはお父様のことを、父と呼びたくないみたいで……」
「父とは娘を愛する者です。それをしなかったあの男をボクは認めません」
アリアナちゃんの声には少し怒りがにじんでいた。
たぶんなにか色々とあったのだろう。家庭問題に他人である俺が関わるべきではないだろう。
すると話をごまかす様にユーリカさんがさらに言葉を続ける。
「は、話を戻しますね! 本国の指示でお父様どころか、長男から五男まで全員出兵させられたんですよ。普通なら次男くらいは領地に残すべきだったのに……」
なるほど。つまり領主や嫡男に若い男たちが死んだのは、本国の命令のせいということか。
そのせいで本来なら継ぐ予定のなかった、ユーリカさんに領主が回ってきてしまったと。
それなのに助けを求めても無視とか酷いな。いくらユーリカさんが頑張ろうがどうにもならないに決まってる。
「しかしなんで長男から五男まで全員出兵させたのでしょうかね。全員が戦死する可能性を考慮すべきでしょうに」
「全員がそれなりに魔法を使えたためです。魔法使いは貴重でして、普通の兵士よりも遥かに戦力になります。巨人帝国との戦いは国運をかけた決戦でしたので、少しでも戦力を欲したのでしょう。まあ負けましたけど」
魔法使いは貴重で戦力になるから、領主の息子全滅の危険よりも優先したわけか。最悪の事態が起きた場合はユーリカさんに継がせるつもりで。
それで見事に最悪の事態が起きてしまったわけと。
「本音を言うともうどうすればいいやら……! なんでお兄様たち全員が亡くなってしまったんでしょうか……うう。言っても何も解決しませんし、領民たちのためにもなんとかしないとなんですが……」
ユーリカさんからすれば災難極まりないよな。少しくらい愚痴を言ってしまう気持ちは分かる。
それに元々この家を継ぐ予定がなかったということは、ロクに経営のことを教えてもらってない可能性もある。そりゃ無理だろう。
「どこから手をつけるべきか迷いますね……」
俺は腕を組んで少し考え始める。
領地経営シミュレーションの攻略法としては、まず一番の不足箇所を解決していくのが鉄則だ。
大体の場合、最初は全てが不足している。だがその中でも特にヤバイところを埋めていく感じ。
なので今やるべきことは、最優先で解決すべき問題点を洗い出すことかな。
「現状で最優先で解決すべき問題点はなんでしょうか? まずそこからひとつひとつ解決していくしかないと思うのですが」
「ええと……食糧はあと一か月くらいで切れて、借金はひとまず半年後が返済期限で、農具はもう壊れかけていて、塩が足りなくて……」
ユーリカさんは大慌て気味で少しパニックになっている。まあこの状況だと仕方ないのだろうけども。
ここは落ち着いて考えてみよう。
「畑の種植え時期っていまからどれくらいですか?」
「もうすぐです。なのでさっそく村人たちには、畑の整備などをさせ始めています」
「ウエスギ様が帝国を追い返してくださったので、畑仕事ができるようになったのです!」
今が種植えの時期なのか。そして俺の力を鑑みて、優先すべきなのは……。
「でしたら畑を広げませんか? 今から広げて種植えに間に合わせれば、次に採れる食料が増えるはずです」
やはり食料確保は畑だ。急場をしのぐならば獣を狩るのだろうが、ひとまず一か月は余裕があるみたいだし。
それなら今後のことも考えて畑を増やしたほうがいいだろう。
するとユーリカさんは困った顔で俺を見て来る。
「あ、あのウエスギ様? 畑を広げるのってものすごーく大変なんですよ? 森を切り開いて、地面を耕すんです。大勢の人手を使って年単位で行うことで……そんなしてる余裕ないですよ」
「確かにその通りですね。でも問題ありません。人手は使いませんから」
「???」
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