第8話 ざまぁないぜ!


 俺が元の姿に戻ると広場の半分ほどを足で踏んでいた。


「なっ、なっ、なんだぁ!?」

「ば、化け物か!?」


 足元では敵兵チビたちがなにか騒いでいるが、まずはこいつらよりも優先することがある。


 さっそくユーリカさんとアリアナちゃんに手を差し出すと、二人は俺の意図を察したのか手のひらの上に乗ってくれた。


『ウエスギ様! あいつらやっちゃってくださいな! 踏みつぶして!』

『ありがとうございます。ウエスギ様』


 二人を左の手のひらの上に乗せて持ち上げた後、俺は改めて虫もとい敵兵チビを改めて見下ろした。


「おいお前ら。さっきなんて言った? 俺がチビだって? ほらもう一度言ってみろよ? ああ?」


 俺は足をその場で踏み鳴らす。下手に動かすと村の家を踏みつぶす危険もあるので慎重に。


「ひ、ひいっ!?」

「な、な、なんなんだよ!?」


 足元から小さい声がいくつか聞こえてくる。 


 敵兵によーく目を凝らせば、何人かは腰が抜けたのか座り込んでいた。


 俺はグレアリウスと名乗った指揮官に視線を向けると、そいつはオドオドと俺を見て怯えていた。


「俺さ、ダブルスタンダートってクズだと思うんだよ。ほら言ってみろよ? さっきの言葉をよ」

『さ、さっ、さっきの言葉!?』


 敵指揮官は小さな声で聞きとりづらかったのだが、急に耳元で響いてきた。


 チラリと手のひらに目を向けると、アリアナちゃんが軽く頭を下げてきた。おそらく伝声魔法でもしてくれたのだろう。


 さてこの人をバカにした奴らには、徹底的に怯えさせてやらないとな!


「言ったよな? 貴様ら低きエセ人は我ら大きく高き人間に支配されろ、と。今のお前らは低きエセ人だから、当然だけど俺に支配されるんだよな?」

『ふ、ふざけるな!』

「それはおかしいんじゃないか? 小さな人間は大きい人間に支配されるべきなんだろ? 言ってることが矛盾してるじゃないか」

『貴様は人間ではないっ! この化け物めっ!』


 ひっどいな。自分たちが大きい側で都合のいい時だけそれで、都合が悪くなったら即座になかったことにするとか。


 まだこれで従うというならば奴らの理屈も分かったけどな。ようは身長が高いほうが偉いとか、他者を支配するためだけのダブルスタンダートだよ。マジで救いようがない極悪国家だ。


「デカいほど偉いって言う理屈なら俺に従うべきだよな? それを認めないならお前らはダブルスタンダートのクズ野郎どもだ! チビどもがっ!」

 

 俺は指揮官のすぐそばに足を降ろした。 


『ひ、ひいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?』


 すると敵指揮官は無様な悲鳴をあげて俺から逃げていく。他の兵士たちも同じようにだ。


 アリほどのサイズの奴らだが、アリよりもだいぶ動きが遅いので逃がすことはないだろう。


 俺は左手の手のひらの上にいる、ユーリカさんとアリアナちゃんに小さく話しかけた。


「こいつらどうする? 捕まえる?」

「つ、捕まえても困るかなあ……食べ物に余裕もないですし」

「殺すか逃がすかの二択でしょう。ウエスギ様を侮辱したので殺すに一票ですが、判断はお任せいたします」

「了解だ」


 俺は村の建物を踏まないように気を付けながら、ゆっくり歩いて敵兵士たちを追いかける。


「ほら逃げてみろよ! 踏みつぶすぞ? あん?」

『た、助けて……! 助けてくれぇ!?』

『こ、降伏! 降伏するからぁ!?』


 なんか耳元で聞こえてくるけど無視だ。降伏させても捕まえておける場所もないらしいし。


「降伏? いやいや俺は優しいんだ。特別に抵抗することを許そうじゃないか!」


 そもそも使者でありながら剣を抜いた時点で、降伏なんて受け入れられるわけないだろ! なんて自分勝手な奴らだ!


 俺はゆっくりと歩き続ける。逃げる小人たちを追いたてるように、彼らの少し後ろの地面を踏み鳴らす。


「いいかっ! 人を身長で見る奴はクズなんだよ! このチビどもがっ!」

『あのー……ウエスギ様も相手を身長で悪く言ってるような』

『姉さま。相手が先に言ってきたからいいんですよ』

 

 その通り! 相手が殴って来たのならこちらも殴り返していい!


 相手が身長のことで馬鹿にしてきたのだから、こちらも相手を身長で馬鹿にしていいのだ! 

 

 俺は右手で地面の土を拾い上げると、小人たちに向けて投げつけた。


『ぶへぇ!?』

『つ、土魔法か!?』

『ち、違う! 巨人が土を投げてきただけだっ!?』


 奴らからすれば俺の一握の土も、空から小さな土山が落ちてきたようなものだろう。巻き込まれた奴らは少しもがいている。


 しばらく待つと土から脱出するとまた逃げ始めた。さてそろそろいいかな。


 俺は立ち止まると大きく息を吸って、


「貴様ら! 今日だけは特別に見逃してやる! だが次にこの村に来たら今度こそ踏みつぶすぞ! いいな!」


 と地団太を踏みながら、逃げる小人たちに向けて叫んだ。奴らは村からゆっくりノロノロと離れていく。


 ここは逃がしてやることにしよう。死ぬほど怯えさせたのだから、二度とこの村に近づいてこないだろ。


 あいつらはクズだが、俺は好んで人を殺したいわけじゃない。それに弱い者イジメっぽいのも気になるしな。


 俺はあんな奴らと一緒になりたくはないのだ。もう関わってこないなら特別に許してやろうじゃないか。


 さっきまで奴らの言動にイラつかされたが、冷静に考えればあいつらは虫のような大きさだ。


 あんなチビどもに身長のことを言われても、全く気にもならないよな。ああ気にしてないとも。俺はチビじゃない、あいつらに比べば遥かに大きいのだから。


『ウエスギ様ー! 最高ですよー! 見てください無様に逃げていく兵士たちを! 気分いいですね!』


 ユーリカさんの声が聞こえてくる。 


 正直に言うと俺も気持ちよかった。あの身長主義のクズどもに目にモノ見せてやったからな!


『踏みつぶせばよかったと思います。逃がせばまた襲ってくるかもしれませんよ』


 対してアリアナちゃんはすごくドライだ。


「無暗に殺したらダメだと思うんだ。それにここまで脅かせばもう来ないだろ」


 一寸の虫にも五分の魂。無益な殺生は控えるべきだ。


 それにあれだけ圧倒的な力の差を見せつけて追い立てたのだ。トラウマになっただろうし流石にもう来ないだろ。


 さてと二人を広場に降ろして俺も元の姿に戻るか。ちなみに敵兵たちを追い立てたが、ぶっちゃけると十歩分くらいしか移動してない。


 あいつら走るの遅かったからかなり小股で歩いたからな。


 俺は数歩ほど歩くと左手を広場につけた。すると二人が降りたので俺も「縮小」と告げて元の姿に戻る。


 ちなみに元に戻った時の位置は、自分の身体があった場所ならどこでもいいようだ。なので今回は手を付けていた広場へと戻った形だ。


「ウエスギ様ぁ! 本当にありがとうございます! おかげで命拾いして助かりました!」

「ありがとうございます」


 ユーリカさんたちがこちらへ駆け寄って来る。


「いえいえ。大したことはしてないですよ」

「そんなことありません! ウエスギ様のおかげでこの村は救われたんです! ほら見てください!」


 ユーリカさんが叫ぶと同時だった。


 周囲の家から村人たちが一斉に飛び出してきて、俺の方へと走ってきた!?


「巨神様! ありがとうございます!」

「あのクズどもを追い払って頂けて、なんとお礼を申し上げたらいいか!? 巨神様には感謝してもしきれません!」

「ありがとう! 俺のユーリカちゃんを守ってくれて!」

「最高に気持ちよかったです! あの調子に乗った奴らが、巨神様から逃げ纏うのは!」


 村人たちは俺にお礼を言いまくって来る。


 巨神か、巨神ね……いいじゃないか! いやあいつらがひど過ぎるからキレた形だが、村を守ったかいがあるというものだ!


 あ、そうだ。そういえばまだ言ってなかったな。


 俺はユーリカさんたちの方へと向くと。


「ユーリカさん、アリアナちゃん。俺はこの村を守るのに、少なくともしばらくは協力しますよ」


「ほ、本当ですか!? うえーん! これでまた巨人帝国が攻めて来ても助かりますっ……!」

「アリアナちゃん、代わりに元の世界に戻る方法を教えてね。出来ればなるべく早めに……」

「承知しました。ありがとうございます」


 と言っても巨人帝国はもう攻めてこないとは思うけどな。


 逃げた奴らは上司に報告してるだろうし、アリくらいの大きさで人間に立ち向かおうとかしないだろうし。


 ただ万が一の可能性もあるし、数か月くらいは村から離れられないか。


 いや本音を言えば早く帰りたいよ? でも元の世界に戻る方法を教えてもらって、即帰るのはクズに思われるかなって……こんな状況だし。


 ……大学は留年確定かなあ。まあ仕方ない、元の世界に帰る方法があるだけマシと考えよう。



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そこのMP! 一方的に殴られる、痛さと怖さを教えてやろうか!

(分かる人いるかな)


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