第7話 このチビ野郎!
大声のせいで目が覚めてしまった。
すでに部屋の中は明るくなっていて、窓の外からは朝日が差し込んでいる。
だが叫び声のした方向を確認しようと窓を覗くと、村から少し離れたところに武装した人間たちが大勢いる。誰もかれもが鎧や槍を持っていて、まさに戦争のための兵士にしか思えない。
「な、なんだなんだ? どうなってるんだ?」
俺は急いで部屋から出て階段を降りると、一階の部屋ではユーリカさんとアリアナちゃんが話し合っていた。
「どどど、どうしましょう!? もうこの村もお終いだわ! うえーん!」
「姉さま、落ち着いてください。とりあえず巨人帝国側の指揮官と交渉の場を設けるべきでは」
「話が通じる相手だとは思えないのだけれど!? 降伏しても蹂躙されそうなんだけど!?」
……おそらく昨日言われていたように、巨人帝国が攻めて来たっぽいな。
さて俺はどうするべきか、とりあえず二人に話を聞いてみよう。
「二人ともおはよう。巨人帝国が攻めて来たのか?」
「ウエスギ様!? そうなんです!? 巨人帝国がこの村に攻めて来て! 使者を送って来たんです!?」
「おはようございます。ウエスギ様の仰る通りです」
大慌てで叫ぶユーリカさんと、淡々と告げて来るアリアナちゃん。同じ状況の立場とは思えない二人である。
とりあえず巨人帝国が攻めて来たのは確定か。なら俺のやることも決まってる。
「ええと。俺があの軍を追い返せばいいのかな? 元の姿に戻って」
「!? お、追い返して頂けるんですか!?」
ユーリカさんが俺にすがるように近づいてきた。
「はい。もちろん話し合いで済むならば、それに越したことはありませんが」
元より昨日の時点で村を守るのは手伝うつもりだったのだ。ユーリカさんたちには助けてもらった上に指輪も借りてるし、一宿一飯どころじゃない恩がある。
恩人を見捨てるほど腐った人間にはなりたくないしな。
するとユーリカさんが俺に抱き着いてきた!?
「う、うえええぇぇぇっぇんん!!!! これで村は助かる……! ありがとうございますぅぅぅぅ!」
ああああああ!? ユーリカさんの胸が当たってる!? 嬉しいけど悪いことしてる気分になるんだけどなんだこれ!?
「ゆ、ユーリカさん!? 落ち着いてください!?」
「姉さま、離れてください。ウエスギ様が困ってます」
アリアナちゃんがユーリカさんの腕を掴んで、俺から引きはがしにかかる。だが離れない。
「ありがとうございまずぅぅぅぅ! もう村が蹂躙されてもお終いかと思ったよぉ! うえーん!」
「姉さま、離れてください。姉さま」
「……はっ!?」
ユーリカさんはようやく我を取り戻したようで、俺から離れると平静を装い始めた。でも顔が真っ赤である。
「お、お見苦しいところをお見せしました。ありがとうございます、助かります」
「い、いえ。それでいざとなれば俺が追い返しますが、まずはやはり相手と話し合ってみるべきではないでしょうか?」
俺は別に暴れたいわけでも、小人たちを蹂躙したいわけでもない。巨人化したら小さすぎて虫程度にしか思えなくなるが、好んで殺すことはしたくないのだ。
ユーリカさんは少し不安そうな顔で頷いた。
「……わかりました。ですが巨人帝国相手に話が通じるとは思えません。話し合いの場でも不意打ちを警戒してくださいね? いきなりヒャッハー! やっぱり殺してやる! とか普通にあり得ますので」
「巨人帝国って蛮族の国なんですかね?」
どんな世紀末国家だよ。交渉の場で不意打ちとか頭おかしいだろ。
「蛮族の方がマシです。それなら野蛮な人間で済みますので。ひとまず降伏、というか村を見逃してもらえるように交渉してみます。ですが期待しないでください」
するとアリアナちゃんがボソッと告げてきた。
巨人帝国ってどれだけ恐ろしい国なんだろうか……。
「と、とりあえず使者の元に行きましょう! 広場に待たせてますので!」
ユーリカさんが手をポンと叩く。
そうして俺たちは家から出ていって広場に向かう。すると完全武装した兵士が三十人ほど、広場に配置された椅子に座っていた。
彼らは俺たちを見ると一斉に立ち上がって、こちらを見て侮蔑の笑みを浮かべている。
そんな彼らの特徴を一言で表すなら背が高い。《今》の俺よりも頭二つ分ほど大きく、身長は百八十センチを超えるだろう。いや実際には彼らもアリくらいの大きさで、今の俺の姿と比較するとの話だけどな?
しかしこの三十人だけでも村を滅ぼせるんじゃないか?
この村の人口は五十人くらいで子供や女性だって入った数だ。それにロクな装備もない村人たちでは、騎士甲冑を着こんだ兵士たちに勝つのは難しい。
しかも奴らは帯剣どころか槍なども持ってる。使者として来たにしては物騒過ぎるだろ。
他の兵士よりも装備がよい人物が、俺たちに気づくとゆっくり近づいてくる。おそらく指揮官なのだろう。
そんな男に対してユーリカさんが前に出た。
「ほう。貴様がこの地の領主か?」
指揮官らしき男は明らかに俺たちを見下した態度だ。
「は、はい。ユーリカ・アークと申します。その、私たちはジャイアント・インペリアルに逆らうつもりはありません。降伏しますので私たちの身の安全を保障して頂ければ……」
「当然だろうな。貴様らの如き劣低人種が、我らに逆らうなど許されることではない」
チッ! なんて不快な奴だ! 身長で人間を見る奴はすべからくクズなんだよ!
もうこいつどう考えても悪人だろ? ねえ処す? 処す?
……ふー、いや落ち着け。あの指揮官だって交渉の場だから、わざと相手を怒らせる態度を取っているのかもしれない。交渉事は強気に挑むべきとかあるかもだし。
ことは人命にかかわるのだ。怒りの感情で物事を決めてはならない高身長主義くたばれ。
ユーリカさんは巨人帝国の指揮官に跪いて頭を下げる。
「はい……仰る通りでございます。ですので降伏を……」
「安心せよ、貴様の言葉は理解した」
「ほ、本当ですか!?」
ユーリカさんは顔をパァッと輝かせた。それを見て巨人帝国の指揮官は、なお性根の腐ったような笑い顔になると。
「今日の昼頃、我が軍でこの村を攻め滅ぼす。だが無抵抗の人間を殺すと武功にならうので、貴様らには特別に抵抗することを許そう」
「……えっ!?」
などと明らかにこちらをバカにしたような態度を取ってきやがった。
「あ、あの!? 降伏しますので……!」
「聞こえなかったのか? これだから劣低人種は救いようがないな。昼頃には村を滅ぼして男は皆殺しにする。女はまあ、見目がいい奴だけは性奴として飼ってやろう」「そ、そんな……!? 何故ですか!?」
明らかに動揺しているユーリカさんに対して、指揮官は楽しそうに見下している。
「さっきも言っただろう? 我らは武功が欲しいのだよ。劣低人種でもいちおうの首にはなるからな。ああ、安心するがいい。貴様とそこにいる女は殺さないでやろう」
「ま、待ってください! それはどうか……」
「そもそも貴様らは勘違いをしているのだ。劣低人種である貴様らが、我らと交渉するなど頭が高いにもほどがある。貴様ら低きエセ人はな、我ら大きく高き人間に支配されるべきなのだ」
つまり巨人帝国は俺たちを同じ人間だと思っていないということか。背が高い自分たちこそが優れた人間で、低い者はエセ人であり支配されるべきだと。
なんて奴らだ。こんなの奴らに交渉なんて通じるはずもない。
「ねえアリアナちゃん。こいつらの言う劣低人種ってどれくらいの身長なの?」
「おおよそウエスギ様の頭ひとつ分ほど上くらいでしょうか」
……ええと。たぶん百八十センチくらいだな。
つまりこいつら曰く、百八十センチ以下はエセ人だと。
指揮官は腰の鞘から剣を抜くと、ユーリカさんに向けて切っ先を突き付けてきた。
「喜べ。貴様は見目がいいので我が目にかなった。下手に昼からの蹂躙に巻き込まれて死んでは惜しい。このまま我に支配されることを許そう」
「……っ」
ユーリカさんはすがるように俺の方を見てきた。
敵指揮官もそれに気づいたようで、俺に視線を向けて見下してきた。
「なんだ貴様? このグレアリウス・ベードナーを睨むなど、そんな権利が劣低人種にあると思っているのか? 貴様のような低き者は生きている資格などないというのに」
グレアリウスと名乗った奴は、剣を抜いたまま俺に近づいてくる。
うん、よくわかった。こいつらがクズオブクズであり、どれだけ叩き潰しても罪悪感を抱く必要もないクズってことが。
「……ひとつ聞きたい。お前らは背が高い人間を優れていて、小さな人間は大きい人間に支配されるべきって言ってるんだよな?」
「そうだ。低き者は本当に理解力が皆無だな」
「それで俺が低き者、つまりチビでエセ人だと」
「そうだ」
あ、もう無理。限界。
こんな奴らに気を使う必要もないし話が通じないのも明らかだ。そもそも交渉の場で剣を抜くって時点でおかしい。
ここが広場でよかったよ。もし建物の中とかなら困ったところだった。
「
俺は叫んだ。それと同時に身体が大きくなっていき、目の前の指揮官たちがどんどん小さくなっていく。
そして俺は小さな虫どもを見下ろして、
「おい、もう一度言ってみろよ。誰がチビだって? ああ?」
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Q.巨人帝国の使者、いくらなんでも頭おかしいんじゃないの?
A.この世界基準で身長百八十センチ以下は、同じ人間とは認めてません。なのでどんなことでも許されます(帝国側の言い分)
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