第10話 ええっ!? 一日で畑を!?
俺は元の大きさに戻って、村から少し(二歩くらい)離れた雑草生い茂る場所に来ていた。
ようは森である。木々が小さすぎて芝くらいの大きさにしか見えないけど。
しかも側には小さな水、ようは川もあるので完璧だ。
ちなみに俺の左手のひらの上にはユーリカさんたちを乗せていて、右手には俺が使うサイズのクワを持っている。
指輪による『拡大』は俺以外にも影響を及ぼす。つまり小人の時に持っていたモノも巨大化するようだ。
これは助かる。他の服を着て巨大化しても大丈夫ということだからな。
そうじゃなかったらこの服以外だと、巨大化したら強制大全裸になるところだった。恥ずかしいとかいうレベルじゃねえ。
「ここらへんの雑草……じゃなくてここらの森を開墾しても大丈夫ですか?」
俺が今からやろうとしていること。それは開墾しての畑作りだ。
森を切り開いて畑を作るのは凄く大変だ。重労働な上に村人たちには他にも仕事があるしで、そうそう進められるものではない。
だが俺からすれば森なんて雑草なので、引き抜いて耕してしまえばいいだけだ。
ようは俺なら庭の土いじりレベルで畑が開墾できる。
『だ、大丈夫です! ぜひお願いします!』
『元々開墾予定地でしたので。まあ十年前くらいからずっと予定ですが』
つまり予定は未定と。それなら遠慮なくやらせてもらおう。
「じゃあ二人は村に戻しますね。両手を使わないと作業できないので」
『それなら大丈夫です。魔法で空を飛べますから。
アリアナちゃんがそう告げた瞬間、左手から二人が浮き始めた。
魔法って空も飛べるのか、すごいな。ただ……これははっきり言うと極めて危険だ。
「二人とも俺から少し離れてもらえるかな? 具体的には俺が手を伸ばしても届かない辺りに」
『なんでですか? 私としては出来れば作業を近くで見たいのですが……』
「……蚊と間違えて潰しかねないので」
蚊ってさ、条件反射で叩いちゃうよね。
二人が飛んでたら蚊と間違えて潰してしまいそうだ。笑いごとじゃすまない大惨事になりかねない。
『ひ、ひいっ!? わ、分かりました! すごく離れます!?』
『姉さま、手の届かないくらいの距離で大丈夫ですよ』
『それで潰されたらどうするの!? 蚊と間違えて潰されるなんて死に方、絶対に嫌よ!?』
二人は叫びながら俺から離れていく。うん、少し離れると本当に羽虫に見間違えそうだ。
「よし。じゃあそろそろやりますか」
俺は持っていたスコップを地面に置いて、服の腕をまくってしゃがみ込む。
そしてさっそく雑草、じゃなくて小さな小さな木抜きを始めるか。
試しに数mm程度の太さの木をつまんで抜いてみる。ズボッと根っこごと地面から抜くことが出来た。
感触としてはかなり抜きやすい。これなら日本の雑草の方がよほど頑固だ。
あいつらちょっと力の入れ方ミスると、茎をブチッとちぎってしまって根が残るんだよな……。
「よしよし。これなら早く終わりそうだ」
そこらの雑草木を指でチマチマと抜き始める。けっこう数が多いので面倒だが仕方ない。
たまに少しだけ大きい雑草があるが、しょせんは雑草なので簡単に引っこ抜ける。根っこを残すとまた生えてくるので気をつけねば。
なんかたまに小さな虫みたいなのが出て来るけど、慌てたように逃げていくので気にしなくていいか。
『も、森がどんどんなくなっていくのだけれど……!?』
『お姉さま、別にいいじゃないですか。ここらは魔物が多かったので、ろくに使えなかった土地ですし』
『森がいとも簡単に消えていくことに驚いてるのよ!? ほら見てよ!? 狂暴な魔物がみんな逃げていってるのよ!? 開拓が大変な理由のひとつなのに!』
ユーリカさんたちの声が伝声魔法で聞こえてくる。
魔物と聞いたので小さな虫をよく目を凝らすと、なんか小さな狼っぽい感じのとかいる。
なんか逃がしたら危なそうなので、出てきた虫っぽいのを足で潰して始めた。狼とかクマとか二足歩行の豚? みたいなのとか。
なにはともあれ足のつま先で踏んで潰しまくる。これが虫なら一寸の虫にも五分の魂と言うところだが、魔物なら別にいいだろう。危険だし。
そしてしばらく雑草もとい小さな木を抜き続けた。思ったよりしんどかったが、二メートル四方ほどは雑草をほぼ全部抜けた。
「一瞬で森の一部が消滅したんですけど……ねえアリアナちゃん、少し頬をつねってくれないかしら!?」
「姉さま、そろそろ現実を見てください。あとセルフサービスでやってください」
ブロック家の前で立っているユーリカさんたちは、俺が雑草を抜き終えた土地を見て唖然としていた。
これで雑草抜きは完了、後は畑づくりだ。俺はリュックから新品のクワを取り出して地面を耕し始める。
ザックザックと耕し続けて、雑草を抜いた土地はだいたい耕し終えた。
目の前にあるのは庭の家庭菜園くらいの大きさの畑。だがこれでも小人たちにはすごく広い農地になる。
「どうですかね? 後は村の肥料とかを使えば、近いうちに畑として使えませんか?」
俺がたぶん二人がいるだろう方向に振り向くと、耳元にまた声が聞こえてくる。
『ねえアリアナちゃん。莫大な予算つきの数年単位で行う開墾計画が、一日足らずで終わっちゃったんだけど? お父様はね、去年もこの森の開拓を考えていたのよ!? でも数年単位な上に人手もお金もかかるから無理だったのだけれど!?』
『よかったですね』
『よかったの一言で済ませないで!? どう考えてもおかしいでしょ!?』
『あれほど大きい巨神様なら全然おかしくない話かと。私たち基準で考えてはいけませんよ』
『そうだけどね!? それでもね!?』
どうやら驚いているようだが、巨人ならばこれくらいは出来てしかるべきだ。
なにせ巨人ダイダラボッチは富士山を作ったと言われてるからな。なら俺が数時間で畑を開墾するのも当然だが可能というわけだ。
「それでユーリカさん。これなら近いうちに畑として使えませんか?」
返事が来ないのでまた尋ねてみる。するとユーリカさんの声が聞こえてきた。
『……明日からやります』
「はい?」
『さっそく今日中に人を集めて、明日からこの畑を動かします! もう毒を喰らわば皿までなんですよ!?』
『それだと俺は毒になりません?』
『あっ!? い、いや違います! これは言葉の綾で……っ!? ヒロト殿は毒じゃなくて皿です!』
『それはそれでよく意味が分からないのですが』
『とにかく急いで都市に戻って、明日からこの農村を稼働させます!』
というわけでアーク領に新たな畑が生まれたのだった。
ちなみに流石に一日で畑の稼働は無理だったが、数日ほどで肥料などを撒いたりしたらしい。
しかし畑を作るの楽しいな! もう三つくらい作ってもいいかも!
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