第4話 現状説明
小さな人形の少女の言ってることはよくわからなかった。
この世界にやってきたとはどういうことだよ。それに巨神ってイヤミか? 俺は少し身長が低いんだがなにか悪いか?
困惑しているとさらに声が聞こえてきた。
『アーク領が危機に陥りし時、異界より巨人が召喚される。その者、救世の巨神となりて世を正す』
「えっと?」
『私たちの家に代々伝わる予言です。これまでの巨神様の反応を見る限り、予言通りにこの地に巨人として召喚されたのではないでしょうか?』
「はあ? そんなわけ……」
いや待て。冷静に考えてみると、さっきからおかしなことばかりだ。
目の前にいるのはとても人形とは思えない小さな少女。周囲には俺より高いモノがなく、蚊を潰したと思ったら実は小さな鳥だった。
俺が巨人だと考えれば少女の話すことに筋が通る。
先ほどからオモチャみたいに小さなモノしかないが、全てが小さい世界だと言うのならば納得できる。
むしろそうじゃないと説明のつかないことばかりだ。
どれもこの世界が小さい、もしくは俺が大きいならば当然だ。俺が大きいならば。
他人はまず疑うのが俺の主義だが、さっきから不可思議なことばかりで嘘だと断じれない。
ゴスロリ服を着た小さな少女はさらに言葉を続けて来る。
『姉さま、家宝の指輪を巨神様に譲ります。よろしいですね?』
『え”っ? 待って? あの指輪ってうちに残った実質最後の財産よ!?』
馬車の中からもうひとりの少女が飛び出してくる。さっきから声は聞こえていたが。
そして少女二人は言い合いを始めた。
『予言通りに巨神様にお渡ししましょう。そのために守ってきたモノですから』
『で、でもあれが無くなったら本当に財産なくなっちゃう……ただでさえ借金まみれなのに最後の希望が……』
『姉さま』
『でもっ……!』
『姉さま』
『……はい』
どうやら力関係は冷静な妹ちゃんの方が強いようだ。
そんな妹ちゃんはスカートのすそを持つと、片足を少し前に出して膝を曲げる。
『申し遅れました。ボクはアリアナ・アークと申します。こちらは姉の……』
『うう、指輪……はっ!? わ、私はユーリカ・アークです!? アーク領の領主で好きなモノは食べ物です!?』
『姉さま、好きなモノの範囲が広すぎます』
そもそも好きなモノを言われても反応に困る件について。
とりあえず俺も名乗っておくとしようかな。
「私は上杉浩人です。よろしくお願いします」
『ウエスギ様ですね。では早速ですが予言に従いまして、縮小の指輪をお譲りしようと思います』
「縮小の指輪?」
思わず聞き返すと、アリアナさんは何かの舞を始めた。
『この世界には魔法が存在します。先ほどからウエスギ様と話しているのも
そう言われた瞬間に俺の腹がぐーと鳴った。
言われてみればその通りだ。この世界は全て小さいなら、俺が満足するだけの食料を得るのは凄く難しい。
『馬車の中には少ないですが食料もありますので』
俺自身も小さくなれるのなら食事も相応の量で足りるようになるのか。
すごく腹減って死にそうなので、本当に指輪で小さくなれるなら是非欲しい。
俺の腹の音を返答と受け取ったのか、アリアナさんの舞いが激しくなる。
『今回は召喚魔法で地中に封印していた指輪を呼びよせます』
アリアナさんの周囲の地面に幾何学模様の光の陣が出現する。
『
そうして彼女が呟くと同時に、普通サイズの指輪が地中からズブズブと出てきた。
普通サイズと言っても俺基準の話なので、アリアナさんたちよりもだいぶ大きい指輪だが。
俺は宝石や指輪にはくわしくないが、ダイヤがついてるのでけっこうお高そう。
『ああ……アーク家の家宝が……』
『どうぞ指にお付けください』
『うちの家宝ぅ……』
……すごくお付けづらい。
とは言え今の俺は腹が減って死にそうだ。小さくなることで腹を満たせるなら、とりあえず指輪を借りる以外に選択肢はない。
さっそく地面に置いてある指輪を拾って、
「どの指につければいいのですか?」
『お好きな指で構いません』
指輪を左手の中指につける。すると……何も起きなかった。
「あの、小さくならないのですが」
『呪文を唱えてください。
「
すると右手の中指につけた指輪が光って、周囲の景色がどんどん大きくなっていく。いや違う、俺が小さくなっているのか。
そして俺はどんどん縮んでいき、なんとアリアナさんたちと同じ大きさになってしまった。
アリアナさんとユーリカさんがこちらに走って来る。さっきは小さすぎてわからなかったが、二人とも凄く可愛い美少女だ。
どちらも街ですれ違ったら、思わず振り向いてしまうくらいに容姿が整っている。
アリアナさんは落ち着いた雰囲気だ。ゴシックロリータっぽいドレスを着ていて、青髪をサイドテールでくくっている。スレンダーな体形だが年齢は十五歳くらいだろうか?
ユーリカさんは明るい感じの人だ。少し胸元を開いたドレスを着ていて、赤髪を腰まで伸ばしている。胸がけっこう大きいが十八歳くらいだろうか?
とりあえず言えるのは、この二人はパッと見ると正反対のイメージ。本当に姉妹なのだろうか?
「ってあれ? こ、これ元の大きさに戻れます……?」
「指輪を外すか、
「ええと、
すると周囲の様子がどんどん小さくなっていき、またアリアナさんたちが足元にいる小人になってしまう。元の大きさに戻れたようだ。
危なかった、もしこれで戻れなかったらヤバかった。
「
するとまた俺の身体が縮んでいき、アリアナさんたちと同じ大きさになる。
焦った……いつもなら知らない人の話はもう少し警戒するのだが、意味不明なことばかりで気が緩んでいたようだ。
思わずホッと息を吐くと、アリアナさんが干し肉と革袋の水筒を差し出してきた。
「改めましてよろしくお願いいたします。こちら食べ物と飲み物です」
干し肉を見た瞬間、また腹が鳴ってしまった。
「も、もらってもいいんですか?」
「もちろんです。姉さまがコッソリ買っていたモノですので、お気になさらず」
「ありがとうございます!」
俺は水筒と干し肉を受け取って、口に水を入れてから肉を嚙み始める。硬いしすごく塩辛いが、腹が減っているから美味しい!
しばらく噛み続けて干し肉を食べきった。
「はぁ……ありがとうございます! 助かりました!」
俺は深く頭を下げる。お礼は人としての基本だ。
するとアリアナさんは首を横に振った。
「礼は不要です。私たちアーク家は巨神様に尽くすのを、家訓として生きてきましたから。それでよろしければ私たちの村へ来ませんか?」
……これはちょっと迷いどころだぞ。
行く場所がないし指輪を借りてるとは言えども、この二人が信用できる人間かはまだ分からない。
助けてもらったのには感謝しているが、最初は優しくして後で利用するなんてこともあり得るのだ。
それに俺は日本に帰る必要もある。今は夏休みに入ったところとは言えども、休暇が終わったら大学の講義があるからな。
間に合わなかったら留年確定だ。中高に比べれば大学の留年はよくある話だが、出来れば避けたい。
不幸中の幸いなのは俺が少しいなくなっても、心配する人がいないということだろうか。両親はすでに他界していて親族もいないから、一か月くらい行方不明でも気づかれないかも。
どうするかな。下手に即答したら危ないか……? だが他に行くアテもないし……うーん。
…………よし、ここはリスクを取ろう。どうせ行くアテもないし、流石に高そうな指輪を借りパクするわけにもいかない。
「わかりました。伺わせて頂きます」
「ありがとうございます。それと私と姉さまに敬語は不要です。では馬車についてきてください」
アリアナさんはそう言って馬車の荷台に乗ろうとするが、ユーリカさんがそれを止める。
「待って、アリアナちゃん。御者の人が盗賊に怪我させられたから、馬車はしばらく動かせないかなって。アリアナちゃんが舞ってる間に応急処置はしたけど」
見れば御者の人が御者台で寝かされていた。
布で肩を巻かれていて、ユーリカさんの言う通り応急処置は済んでいるらしい。
「……そうでした。なら私が御者をしましょう。姉さまとウエスギ様は荷台に乗ってください」
「待って!? アリアナちゃんの御者は怖いからやめて!? 以前も荷台を横転させかけたわよね!? 馬のことも考えないで飛ばしまくって!? 魔法で加速までして!?」
「大丈夫です。着く時間が早くなるほど運転時間が減ります。つまり事故の可能性も減ります」
「減らないからね!? 加速度的に増えるからね!?」
ダメそう。アリアナさんは運転とかさせたらダメなタイプだ。
暴走馬車の荷台には乗りたくないので、ここは他の選択肢を提案しよう。
「あのー。それなら私が馬車を運びますので、村の場所だけ教えて頂ければと」
「賛成! すごく賛成です! ウエスギ様の言う通りにしましょう!? ねえアリアナちゃん!? 巨神様のご命令よ!?」
すごく必死なユーリカさん。アリアナさんに御者をやらせたくない気迫が、これでもかというほどに伝わって来る。
それほどまでにやらせたくない御者の引く荷台は、流石にちょっと乗りたくない。
それに俺が馬車を運んだ方が速いだろうしな。
するとアリアナさんは少し不満げな顔をした後に。
「承知しました。ですがウエスギ様、敬語はやめてください」
「…………わかった。これでいいかな?」
「はい」
「よ、よかった……盗賊から助かったのに、馬車に殺されるところだったわ……」
ユーリカさんは安心したように息を大きく吐いた。かなりガチ目なので相当嫌だったようだ。
「あ、そうだ。アリアナさ……アリアナちゃんも敬語じゃなくていいから」
俺だけ一方的にタメ語というのも偉そうだから提案してみる。だがアリアナちゃんは首を横に振った。
「いえ、巨神様相手に恐れ多いです。敬語で喋ることにご容赦をお願いいたします」
どうやらアリアナちゃんは敬語を使いたいようだ。本人がそうしたいなら無理にやめさせる理由もないか。
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