第3話 小さっ!?


 俺はオモチャの馬車に走って近づいていく。


「ぎええええぇぇぇぇぇ!?」

「ひいいいいぃぃぃぃっっっっっ!?!?」


 なんか足元から虫の鳴き声? が聞こえてくるが、だが今は虫なぞに構っている余裕はない。


 周囲を見回すがやはり人の影はない。でもオモチャの馬車が動いているなら誰かが操作をしたはずだ。少し離れた場所にいるかもしれない。


 オモチャの馬車を指でつまんで持ち上げると、繋がってる馬が外れそうなので手のひらの上に置いて顔に近づけた。


 そしてオモチャの馬車の精巧さに思わず感心してしまう。


 ものすごく作りが細かいのだ。以前に小さな人形のジオラマを見たことがあるが、言ったら悪いがこの馬車とはクオリティが違い過ぎる。


 この馬車は汚れていたり少し塗装が剥げていたりで、なんというか本物を縮小したモノにしか思えない。


 これと比べたら以前のジオラマは小学生の図画工作レベルだろう。


 馬車の馬がさっきから細かく動いてるのだが、それがまた本物にしか見えないのだ。


「きゃああああ!? 高い!? 落ちたら死ぬわよねこれ!?」

「姉さま、少し落ち着いてください」

「落ち着けるわけないでしょ!? 落ちたら死ぬのよ!?」


 そんなことを考えてると人の声がした。だがやはり周囲には誰もいないし、そもそも今の声が聞こえてきたのはこの馬車からだ。


「……オモチャの馬車の中から声が聞こえる?」


 オモチャよろしく録音機能でもついてるのか? いやさっきの言葉は現状を説明してるので、事前に録音したものではないはずだ。


 つまり馬車にトランシーバーでも内臓されているのか。それなら誰かと繋がっているはずだ!


「聞こえますか!? 遭難してるんです! 助けてください!」


 俺は口もとに馬車を近づけて叫んだ。


「み、耳がぁ!? 耳が壊れちゃう!? アリアナちゃん!? 私たち食べられちゃうわよ!? うえーん!?」


 するとまた馬車から声がする。


 まるで馬車の中にいる人間を演じるかのような言葉だ。普段なら面白い趣向だと感心するところだが、今は楽しむような余裕なんてないんだよ!?


「もう丸一日なにも食べてないんです!? 遊んでないで助けて頂けませんか!?」

「ば、馬車ごと食べられちゃうわよ!? こんな死に方嫌ぁ!?」

「すみません、遊んでられる状況じゃないんです! 本当に飢え死にしそうなんですよ!?」

「やっぱり馬車ごと食べられちゃうんだ!? うえーん!?」


 流石に腹が立ってきた。こっちは限界が近いのに……!


 いや落ち着け。ここでキレて見捨てられたら死亡確定だ。深呼吸、深呼吸……。


「すみません。私は遭難してるんです。このままだと本当に飢えて死にかねないので、どうか助けて頂けませんか?」

「死ぬ前に美味しいモノ食べたかった!? こんなことなら街で少しでもマシな食事をするべきだったわ!? 白いパンとステーキとワインで!?」


 ダメだ。まともに返事してもらえない。


 ……しかしおかしいな。馬車から聞こえてくる声が通信には思えない。電子機器特有のノイズみたいなものがなくて、生声にしか思えないのだ。

 

 最近の通信機能ってこんなに高性能だったか? などと考えていると、馬車の扉が開いた。


 そこから出てきたのは黒いゴシック風ドレスを着た、小さな少女の人形だ。少女人形は俺の手のひらの上に乗ると、スカートの裾を上げて頭を下げてきた。


『初めまして。私はアリアナ・アークと申します』


 少女の静かな声が耳に響いた。まるでヘッドホンでもつけてるかのように。


 その落ち着いた声音は冗談を言ってるとは思えない。


「え、えっと。私は……」

『すみません。その前に降ろして頂けるでしょうか? 姉さまが怯えていますので』

「あ、はい」


 俺は馬車を乗せた手のひらを地面につけた後、軽くつまんで地上へと戻す。


 馬車から出ていた少女は自分でピョンと飛んで地面に着地した。


『たっ、助かった? 助かったのね!?』


 するとさっきまで小さく聞こえてきた悲鳴が、今度は大きく耳に響く。明らかにさっきとは聞こえ方が違う? どうなってるんだ?


 困惑していると周囲に蚊が飛んでいたので、条件反射的に両手で叩いた。


 手を見て潰したかを確認してみると、少し血のついた蚊が潰れていた。どうやら血を吸われてしまって……。

 

 ――いや違う、よく見ると蚊じゃない。すごく小さな……鳥?


『それはガルーダ。魔物と呼ばれる怪鳥ですね。倒すには国でも有数の魔法使いをレベルでなければ厳しい魔物です』


 また耳に静かな声が聞こえる。有数の魔法使いってなんだよ。


「ガルーダ? こんな小さな虫に随分とたいそうな名前を……」

『それと先ほどはありがとうございました。貴方が盗賊たちを踏みつぶしてくださったおかげで助かりました』

「盗賊? なんのことだ?」

『お履き物を見れば分かるかと』


 足を上げてスリッパの裏を見てみる。すると小さな人形が何体か、非常口のダッシュポーズで潰れて張り付いていた。


 これもよく見たら小さな血がついてる。血を吸われた蚊を潰した時と同じように。


 ……どうなってるんだ? なんで小さな人形を潰したら血が?


。よろしければ現在の状況をご説明させていただきたいのですが』


 混乱する俺の耳にまた静かな声が響く。


「……説明と言うと?」

『巨神様がこの世界にやってこられたことについてです』



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戦闘力

蚊>>>>>>>(越えられない壁)>>>ガルーダ>>>>山賊


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