第58話 バカが義体でやってくる 8
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兼崎が校門をくぐると校庭が見え、そこには雑草を着たような妙な恰好の男と周知の寺田と江野がいた。
その周囲には誰か倒れている。
夜目が利くようになり、近寄ると、それが三人であることが判り、その三人が周知の三人であることを理解した。
薄手のジャンパーにスニーカーと若者の代表のような姿の兼崎に対し、そのシチェーションは明らかに異常だった。
「おう! 江野! って、寺田! オマエ、オレを撮る必要ないんだよ!」
そう云って兼崎がは右手で寺田がかざすビデオカメラを遮りだした。
寺田は後方に退くことで、その右手から逃げた。
「おい! 寺田! おい! 桜木! 大森に林田! どうしたんだ!? 説明しろよ!」
兼崎の問いに誰も答えない。
「江野! オマエの仕業か? そのツタ野郎は誰だ!?」
江野は目を伏せるのではなく、兼崎を睨みつけている。
「兼崎よ~! ここに来る間、駅からは一本道だ。妙な五人組に会わなかったか?」
寺田が撮影しながら問う。
兼崎は回想をする。
五人組がいた。
二人の男がそれぞれ一人の男に肩を貸し歩き、そのあとを一人の男が意気消沈して着いていく。
「!」
「それがアンタが雇った五人組だよ。それにこの三人のザマ、判るよな?」
寺田の言葉に兼崎は洋二と江野から間を取りつつ、離れた。
その時、彼のジャンパーのポケットい入っていたスマホが鳴った。
兼崎は受信する。
「兼崎さんだね」
これは今目の前にいるギリースーツのような姿をした複製生体の脳内にいる洋二からのTELだった。
「いや、返事はいい。アンタはオレの視界の中にいるし」
兼崎は周囲を見渡す。
一体のドローンが飛んでくる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
桜木と林田が立ち上がって、急に校門に向かって走り出した。
しかし大森は未だ寝ころんだままだ。
「な、何したんだ、アイツらに」
「明日にでも聞けばいい。この件は撮影してある。編集も瞬時に終わらせる。自分でこの映像を動画配信サイトで流せ」
「いい加減にしろよ。オマエの正体もなんて直ぐに剥げるからな!」
「パパの会社の力でか? オレの思念だけで倒産させられるけど?」
「!」
そう、出がけの専務とのやり取りだ。
「流せ。オマエに選択肢はない」
洋二は次に江野に電話した。
受話する江野。
「これがおまえをイジメていたいちばん悪いヤツだ。ヤレ!」
洋二はまたしても脳内コクピットから話す。
兼崎はがっくり肩を落としている。
それを寺田が撮影している。
江野は足元に拳大の石が落ちていることに気づく。
そしてその石を拾い、握る。
左手はスマホを持って、耳に押し当てたままだ。
兼崎は江野の動きに気づき、身を縮こまらせる。
とても卑屈に見える動きで、誰の嗜虐心を煽るような動き。
江野は石を持った右手を振り上げる。
それを見て、へたり込む兼崎。
だが、その石で殴るでも、兼崎に投げつけるのでもなく、その場に石をポトリと落とす。
「もう、いいんだな」
「はい」
洋二の言葉に答えた江野はその後、嗚咽しだした。
その姿を寺田が撮影しようとしたので、実際にここにいる複製生体の洋二が右手で制した。
「撮影はここまでだ、監督。スタッフロールにはオマエの名前だけ載せるぞ」
「え」
「イヤなのか?」
「い、いえ、是非そうして下さい」
「江野を送ってやってくれ」
寺田は「江野くん」と呼ぶ。気づけば「くん」付けだった。
寺田のようなコウモリ野郎、帰り道に又江野を恫喝や脅迫する可能性はあったが、二人が持っている端末を通じて、完全にモニターされている。
何かあれば、直ぐに寺田を裁く。
江野は涙を拭いて、その後はつやつやした顔色になっているのが判った。
寺田はカメラから取り出したメモリーカードを洋二に渡した。
そして二人並んで、遠ざかる。
そのメモリーカードを指に差し込み、先程のドローンが撮った映像、この複製生体の裸眼(?)で撮影した映像にこの寺田の撮った映像が組み合わされた。
脳内では既に編集が始まっている。
編集し終えて、ここにいる兼崎に渡すのだ。
明日の朝までに流すように、と。
それはあと数分かかる。
ちょうどいい。
兼崎には聴かねばならぬことがあった。
「何故、麻井藍が仲間内からやり玉に上がった時に助けた?」
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